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平成16年広審第31号
件名

貨物船第八永昇丸貨物船ジェイ.パイオニア衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均、吉川 進、佐野映一)

理事官
供田仁男、濱田真人

受審人
A 職名:第八永昇丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八永昇丸甲板長: 

損害
第八永昇丸・・・船首部などを圧壊
ジ号・・・右舷中央部外板に凹損とブルワークに曲損

原因
ジ号・・・動静監視不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八永昇丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ジェイ.パイオニアが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第八永昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八永昇丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月10日23時45分
 伊予灘
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八永昇丸 貨物船ジェイ.パイオニア
総トン数 198.49トン 4,879トン
全長 57.05メートル 113.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 3,353キロワット

3 事実の経過
 第八永昇丸(以下「永昇丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、スクラップ約664トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成14年10月8日18時10分京浜港東京区を発し、瀬戸内海経由の予定で大分県大分港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと甲板部航海当直部員のB指定海難関係人による単独5時間交替制とし、視界制限時や狭水道接近時には連絡するよう口頭で伝えていたところ、翌々10日23時30分伊予灘を西行中、目的地まで約2時間の航程となったとき、同人が早めに昇橋してきたので、船橋当直を行わせることとしたが、同人は単独当直の経験が豊富なので、問題なく見張りを行ってくれるものと思い、無資格の船橋当直者に対し、周囲の見張りを十分に行うよう指示せず、船橋当直を交替して自室で休息した。
 単独の船橋当直に就いたB指定海難関係人は、所定の灯火が表示されていることを確認し、佐田岬灯台から336度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点において、針路を大分港に向く233度に定め、機関を全速力前進にかけ8.4ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、操舵室左舷側に置いたいすに腰掛け、自動操舵により進行した。
 23時39分B指定海難関係人は、佐田岬灯台から327度7.4海里の地点に達したとき、左舷船首51度1.7海里のところに、北上中のジェイ.パイオニア(以下「ジ号」という。)を視認することができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、右舷船首方からの南下船や漁船に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わず、その存在に気付かなかったので、警告信号を行えず、更にジ号が自船の進路を避けないまま間近に接近しても、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとれないで続航した。
 B指定海難関係人は、23時42分ごろ南下船をかわし終え、しばらく漁船に注意しながら進行中、ふと左方を見たとき、至近に迫ったジ号の右舷灯を初めて認め、衝突の危険を感じて手動に切り替え右舵一杯としたが、23時45分佐田岬灯台から321度7.4海里の地点において、永昇丸は、ほぼ原針路原速力のまま、その船首部が、ジ号の右舷中央部に、後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には微弱な北流があった。
 A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
 また、ジ号は、船尾船橋型鋼製コンテナ船で、三等航海士Cほか中華人民共和国人船員20人が乗り組み、コンテナ913トンを積載し、船首3.3メートル船尾5.6メートルの喫水をもって、同月9日19時41分名古屋港を発し、豊後水道経由の予定で中華人民共和国山東省煙台に向かった。
 翌10日20時00分高知県宿毛市沖合で船橋当直に就いたC三等航海士は、所定の灯火が表示されていることを確認し、操舵手を補佐に就けて豊後水道を北上し、船長の助言を得ながら速吸瀬戸を通過し、23時11分佐田岬灯台から238度1.5海里の地点において、針路を伊予灘の推薦航路に沿う332度に定め、機関を全速力前進にかけ13.0ノットの速力とし、手動操舵により進行した。
 23時34分C三等航海士は、佐田岬灯台から316度5.0海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダーで、右舷船首30度3.1海里のところに、西行中の永昇丸の映像を初めて探知し、肉眼でもこれを認め、同船が速吸瀬戸に向け左転するものと判断して続航し、間もなく船長が、他に船舶が見当たらなかったことから降橋した。
 23時39分C三等航海士は、佐田岬灯台から319度6.1海里の地点に達したとき、右舷船首30度1.7海里に永昇丸を認め得るようになり、その後前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、動静監視不十分で、このことに気付かなかったので、大きく右転するなど永昇丸の進路を避けることなく進行した。
 23時44分ごろC三等航海士は、左転の様子が見られないまま近距離に接近した永昇丸を認め、衝突の危険を感じて左舵10度をとり、更に左舵一杯としたが、ジ号は、293度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、永昇丸は、船首部などを圧壊したが、のち修理され、ジ号は、右舷中央部外板に凹損とブルワークに曲損などを生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊予灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上するジ号が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る永昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する永昇丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 永昇丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同当直者が、周囲の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、伊予灘を西行中、無資格の部下に船橋当直を行わせる場合、船橋当直者に対し、周囲の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同当直者は単独当直の経験が豊富なので、問題なく見張りを行ってくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同当直者の見張りが不十分で、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するジ号に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできずに進行して衝突を招き、永昇丸の船首部などを圧壊させ、ジ号の右舷中央部外板に凹損とブルワークに曲損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、伊予灘を西行中、単独の船橋当直に就いた際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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