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平成16年広審第38号
件名

漁船征海丸プレジャーボートディプレ衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:征海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:ディプレ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
征海丸・・・損傷ない
ディプレ・・・右舷船尾舷縁に擦過傷を伴って転覆、のち廃船処理

原因
征海丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ディプレ・・・見張り不十分、避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、征海丸が、見張り不十分で、前路で停留状態のディプレを避けなかったことによって発生したが、ディプレが、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月1日09時30分
 日本海西部 鳥取県鳥取港沖
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船征海丸 プレジャーボートディプレ
総トン数 4.8トン  
登録長 11.99メートル  
全長   6.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 50  
出力   29キロワット

3 事実の経過
 征海丸は、船体中央部やや後方に操舵室を配したFRP製漁船で、A受審人(昭和51年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、引き縄釣りによる操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年11月1日08時36分鳥取県鳥取港を発し、同港北西方約3海里沖合の漁場に向かった。
 ところで、引き縄釣り漁業は、釣り糸の道糸に擬似餌となる自然の魚に似せて運動させるためのロケットと呼ばれる引板と釣り針を取り付けた漁具を、漁獲する魚種に合わせて海の表層、中層及び下層をそれぞれ引き回して行うものであり、当時は表層を遊泳するはまち等を漁獲の対象としていた。漁法は漁具を引き回すことによって同ロケットが水面上を飛び跳ねたり水面を削いだりすることによって魚を誘導し、魚が掛かったのを見て機関を止め道糸を手繰り寄せるものであったが、操業中の各船は引き縄を引き回し監視中に互いに接近して衝突のおそれが生じるので、各船は接近に気付くと互いにその進路を避け合うようにしていた。
 A受審人は、出航後約10分程ですでに30隻近い同業船が操業していた前示漁場に至り、早速船尾から道糸が約15メートルの漁具を引き回して操業を開始した。しかし、その後釣果が芳しくなかったので、約10キログラムのはまちを獲たところで同漁場での操業を切り上げ、引き続き漁具を引き回しながら帰途に就くことにした。
 こうして、09時27分A受審人は、同業船が操業する水域の南端部付近にあたる鳥取港灯台から311度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点から、針路を基地に向け141度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.0ノットの低速力で船尾から漁具を引き回しながら手動操舵で漁場を発進した。
 ところが、定針したとき、A受審人は、前路約280メートルのところに釣りを行っていた停留状態のディプレを認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、漁場では操業中の同業船が互いにその進路を避け合う慣習から衝突のおそれがあると他船が低速力で操業する自船を避けてくれるものと思い、前路に対する見張りを十分に行うことなく、操舵室後部甲板上で船尾から引き回す引き縄の餌付き状況を監視していた。その結果、前路で停留状態のディプレに気付かず、これを避けないまま進行し、09時30分鳥取港灯台から311度2.4海里の地点において、征海丸は、原針路、原速力のまま、その船首がディプレの右舷中央部に後方から45度の角度で衝突し、間もなく同船は転覆した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、視界は良好であった。
 また、ディプレは、和船型FRP製プレジャーボートで、B受審人(平成11年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、同僚1人を同乗させて、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時00分鳥取港係留地を発し、同港西方の各釣り場を経て、09時25分ころ前示漁場の南側付近で機関を止めて釣りを始めた。
 ところが、09時28分B受審人は、船首を186度に向けて停留していたとき、右舷船尾45度約280メートルのところに征海丸を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、たまたま絡んだ釣り糸を解すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同乗者共々征海丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を使用し移動するなどして衝突を避けるための措置を取らないまま停留を続けた。
 こうして、09時30分少し前B受審人は、ようやく釣り糸を解し釣りを再開しようとして周囲を見張ったとき、右舷後方至近に迫った征海丸に初めて気付き、衝突の危険を感じて即座に立ち上がり手を大きく振りながら大声で叫んだものの、征海丸の操舵室前面窓ガラスを通して後部甲板上に後ろ向きの人影を認めただけで効なく、ディプレは停留状態のまま前示のとおり衝突し転覆した。
 衝突の結果、征海丸は損傷を生じなかったが、ディプレは右舷船尾舷縁に擦過傷を伴って転覆し、征海丸の同業船に曳航されて鳥取港に引き寄せられたものの、のち修理代が船価を上回ることで廃船処理された。 

(原因)
 本件衝突は、日本海西部鳥取港北西方沖合において、引き縄を引き回しながら操業する征海丸が、見張り不十分で、前路で釣りを行っていた停留状態のディプレを避けなかったことによって発生したが、ディプレが、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鳥取港北西方沖合において、多数の同業船に混じって低速力で引き縄を引き回しながら操業する場合、操業水域の近くで釣りを行っていた停留状態の小型プレジャーボート等を見落とすことのないよう、前路に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業中の同業船が互いにその進路を避け合う慣習から衝突のおそれがあると他船が低速力で操業する自船を避けてくれるものと思い、前路に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操舵室後部甲板上で船尾から繰り出した引き縄の餌付き状況を監視して、前路で釣りを行っていた停留状態のディプレに気付かず、これを避けないまま進行して、同船との衝突及び転覆を招き、ディプレの右舷側外板及び操舵室等の損傷並びに船外機及び操舵機等の濡れ損を生じさせ、その修理代が船価を上回ることから廃船処理されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、鳥取港北西方沖合において、多数の漁船が引き縄を引き回して操業する漁場の近くで停留状態で釣りを行う場合、移動しながら操業する漁船が自船に向かって接近するのを見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま絡んだ釣り糸を解すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する征海丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置を取らないまま停留を続けて、同船との衝突及び転覆を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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