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平成16年広審第17号
件名

貨物船第三金吉丸漁船海幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月25日

審判庁区分
広島地方審判庁(道前洋志、高橋昭雄、佐野映一)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第三金吉丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第三金吉丸甲板員 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:海幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第三金吉丸・・・左舷前部外板に擦過傷
海幸丸・・・船首部を圧壊、船長が左肋骨不全骨折

原因
海幸丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三金吉丸・・・横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三金吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三金吉丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月20日17時20分
 瀬戸内海 燧灘
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三金吉丸 漁船海幸丸
総トン数 451トン 4.99トン
全長 49.25メートル  
登録長   10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第三金吉丸(以下「金吉丸」という。)は、平水区域を航行区域とする船尾船橋型の貨物船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、砕石1,000トンを載せ、船首3.6メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成15年6月20日15時50分愛媛県壬生川港を発し、香川県坂出港に向かった。
 A受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直に当たり、16時30分壬生川港北東方沖合でB受審人と単独の船橋当直を交替して船橋内後部で休息した。
 B受審人は、船橋当直を交替して燧灘を東行し、17時00分新居浜港垣生埼(はぶさき)灯台(以下「垣生埼灯台」という。)から292度(真方位、以下同じ。)5.5海里の地点で、針路を053度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 17時10分B受審人は、左舷船首29度2.5海里のところに南下する海幸丸を初めて視認し、その動静監視を行ったところ、同時14分には同船が同方向1.5海里となり、その後前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であることを認め、更に同時18分同方向0.5海里のところに海幸丸が自船の進路を避けないまま接近したので、海幸丸に対して短音5回の警告信号を行った。
 一方、A受審人は、B受審人の発した警告信号を聞いて船橋内左舷側に移動し、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢の海幸丸を初めて視認し、その後同船が自船の進路を避けないまま接近するのを認めたが、小型漁船は間近に接近してから避航することが多いので、そのうち海幸丸が自船の進路を避けるものと思い、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるようB受審人に指示することなく、海幸丸の接近模様を見守った。
 B受審人は、警告信号を行った後も海幸丸が自船の進路を避けないまま接近するのを認めたが、小型漁船は間近に接近してから避航することが多いので、そのうち海幸丸が自船の進路を避けるものと思い、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し、17時20分少し前海幸丸が至近に迫って衝突の危険を感じ、再び短音5回を行うとともに、機関中立、右舵一杯としたが効なく、17時20分垣生埼灯台から321度4.7海里の地点において、金吉丸は、原針路、原速力のまま、その左舷前部に海幸丸の船首が前方から54度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、海幸丸は、底びき網漁業に従事する後部に操舵室を備えた自動操舵装置を装備していないFRP製漁船で、C受審人(昭和50年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業のため、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時00分愛媛県新居浜港を発し、四阪島東方の燧灘漁場に至って操業を繰り返し、太刀魚50キログラムを漁獲して帰港することとした。
 17時00分C受審人は、垣生埼灯台から335度7.3海里の地点を発進し、針路を179度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で進行した。
 C受審人は、定針後、船尾甲板で船尾方を向いて座って魚の選別作業を開始し、舵輪から手を放していたもののほぼ同一針路で続航し、同時14分右舷船首25度1.5海里のところに金吉丸が存在し、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、魚の選別作業に気をとられ、見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、金吉丸の進路を避けないまま続航した。
 こうして、17時18分C受審人は、自船の大きな機関音のため金吉丸が発した警告信号に気付かず進行し、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、金吉丸は左舷前部外板に擦過傷を生じ、海幸丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、C受審人が左肋骨不全骨折などを負った。 

(原因)
 本件衝突は、瀬戸内海燧灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近する際、南下する海幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する金吉丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 金吉丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して衝突を避けるための協力動作をとるよう指示しなかったことと、船橋当直者が衝突を避けるための協力動作をとらなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 C受審人は、瀬戸内海燧灘において、操業を終えて帰港するため単独で操船に当たって南下する場合、右舷船首方から接近する金吉丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾甲板で船尾方を向いて魚の選別作業を行うことに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、金吉丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、金吉丸の左舷前部外板に擦過傷を生じさせ、海幸丸の船首部を圧壊させ、自身も左肋骨不全骨折などを負うに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、瀬戸内海燧灘において、船橋内後部で休息中に船橋当直者が発した警告信号を聞き、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢の海幸丸を認めた場合、その後同船が自船の進路を避けないまま接近する状況であったから、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるよう船橋当直者に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船は間近に接近してから避航することが多いので、そのうち海幸丸が自船の進路を避けるものと思い、速やかに衝突を避けるための協力動作をとるよう船橋当直者に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して海幸丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、瀬戸内海燧灘において、海幸丸が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、警告信号を行っても避航の気配が認められなかったから、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船は間近に接近してから避航することが多いので、そのうち海幸丸が自船の進路を避けるものと思い、速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、海幸丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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