(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月7日22時38分
備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船海福丸 |
漁船力漁丸 |
総トン数 |
199トン |
4.9トン |
全長 |
59.87メートル |
13.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
海福丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長C及びA受審人ほか1人が乗り組み、スティールコイル659トンを載せ、船首2.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年4月7日19時00分岡山県水島港を発し、鳴門海峡を経由する予定で名古屋港に向かった。
C船長は、船橋当直を乗組員3人による単独3時間30分交替の3直制とし、A受審人とは平成11年7月以来一緒に海福丸に乗り組み、同受審人が狭水道通航時を含む船橋当直を無難にこなしていたことから、発航操船を終えたあとしばらくの間同受審人に当直を任せ、自らは鳴門海峡通航時の操船に当たるまで休息することとし、見張りを厳重に行うことなどを指示するとともに周囲の状況を引き継いだのち、19時30分同受審人に当直を委ねて降橋した。
A受審人は、操舵室中央に設置した舵輪後方に立って見張りにあたり、航行中の動力船の灯火を表示して下津井瀬戸及び備讃瀬戸東航路の北方沖を東行したのち、備讃瀬戸東航路中央第3号灯浮標の西側から同航路に入って同航路南側境界線付近を航行し、カナワ岩灯標を航過したころ正船首方の航路内に多数の漁網の明かりを認めたので針路を右に転じ、22時19分少し過ぎ地蔵埼灯台から267度(真方位、以下同じ。)3.15海里の地点に達したとき、針路を115度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、同航路の少し南側を同航路に沿って進行した。
22時23分A受審人は、左舷船首方2.0海里付近にゆっくりとした速力で南下する力漁丸の緑、白2灯及び右舷灯を、さらにその右方に数隻の漁船の灯火を初めて視認したが、進行方向をしばしば変更する漁船が多かったので、もう少し接近して衝突のおそれがあれば避航すればよいものと判断し、そのころ左舷船尾間近に追越し船が存在したことから専ら同船の動静に留意して続航した。
A受審人は、22時36分地蔵埼灯台から225度1.6海里の地点に差し掛かり、正船首方490メートルに力漁丸を認め得るとき、同船が緑、白2灯を点けたまま、船尾甲板上方に作業灯を点灯して停留し、B受審人がその明かりで照らされた甲板で漁網をやぐらから吊り下げて漁獲物を取り出し選別作業などを行っているのを視認でき、その状況から同船が漁ろうに従事していないことが分かり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、左舷船尾方の追越し船の動静に気を奪われ、力漁丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行した。
22時38分少し前A受審人は、ふと正船首方に視線を移したところ至近に力漁丸を認め、急いで操舵を手動に切り替え左舵をとったものの及ばず、22時38分地蔵埼灯台から216度1.48海里の地点において、海福丸は、110度に向首したとき、原速力のまま、その右舷船首部が、力漁丸の右舷船尾部に前方から38度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、付近には微弱な西流があった。
A受審人は、操舵室舵輪後方に立ったまま力漁丸を確認すると、右舷側の少し離れたところを同船が航過したので衝突しなかったものと判断して続航し、23時00分C船長と船橋当直を交替した。同船長は、23時45分ごろ播磨灘を鳴門海峡に向けて航行中、海上保安部からの電話連絡及び調査を受け、同海峡付近の錨地に投錨後右舷船首部外板に生じた擦過傷を見て衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
また、力漁丸は、船体中央部に操舵室を、同室後方にネットローラー及び鳥居形やぐらをそれぞれ有して小型機船底びき網漁業に従事する、全長が12メートルを超えるにもかかわらず法定の汽笛設備を備えないFRP製漁船で、B受審人(昭和51年4月二級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、白えび漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日14時00分香川県志度港を発し、備讃瀬戸東航路東口東方に広がる東西及び南北両方向の距離がいずれも約4.5海里の漁場に向かった。
ところで、B受審人が行う底びき網漁は、長さ35メートルの漁網に網口を広げる張棒を取り付け、ネットローラーから延出した直径20ミリメートル長さ50メートルの合成繊維製ロープと直径10ミリメートル長さ200メートルのワイヤロープとを繋いだ2本の曳索を同棒両端にそれぞれ取り、ゆっくりとした速力で2時間ばかり曳網し、その後速力を調整しながら曳索を巻き込んだのち機関を中立運転とし、海面からの高さ約6メートルのやぐらを利用し漁網を船尾甲板に引き揚げて吊り下げ、漁獲物を得るもので、白えびを生きたまま水揚げすることから選別作業などを素早く行う必要があった。
B受審人は、目的の漁場に至って操業を繰り返し、21時00分地蔵埼灯台から109度1.45海里の地点で、西南西方に向首しゆっくりとした速力で、航行中の動力船の灯火に加え操舵室前部に備えたマストにトロールに従事していることを示す緑、白各全周灯を表示して曳網を始めた。
22時28分B受審人は、前示衝突地点付近に至って曳網及び揚網を終え、機関を中立運転として西南西方に向首した状態で停留し、緑、白2灯を点けたまま、やぐらの先端に100ワットの作業灯1個を、その下方に100ワットの作業灯を1個及び50ワットの作業灯を2個をそれぞれ点けて船尾甲板を明るく照らし、やぐらから漁網を吊り下げて漁獲物の選別作業などを始め、同時36分船首が252度を向いていたとき、右舷船首43度490メートルのところに海福丸の灯火を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、漁獲物の選別作業などに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、汽笛を不装備で警告信号を行うことも、さらに接近したとき、機関を使用して前進するなど衝突を避けるための措置をとることもなく停留を続けた。
B受審人は、22時38分少し前ふと右舷船首方を見たところ至近に迫った海福丸を認めたが、何をする間もなく、ネットローラー左舷側の手すりに両手で掴まった直後、力漁丸は、252度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海福丸は右舷船首部外板に擦過傷を、力漁丸は右舷船尾部に圧壊をそれぞれ生じたが、力漁丸はのち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東航路東口付近において、同航路の少し南側を東行中の海福丸が、動静監視不十分で、停留中の力漁丸を避けなかったことによって発生したが、力漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路東口付近において、同航路の少し南側を東行中、左舷船首方に操業中の力漁丸の灯火を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷船尾方の追越し船の動静に気を奪われ、力漁丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後前路で停留し選別作業などを行っていた同船を避けることなく進行して衝突を招き、海福丸の右舷船首部外板に擦過傷を、力漁丸の右舷船尾部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路東口付近において、停留して漁獲物の選別作業などを行う場合、接近する他船の灯火を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁獲物の選別作業などに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海福丸の灯火を見落とし、同船が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、汽笛を装備していなかったので警告信号を行うことも、さらに接近したとき機関を使用して前進するなど衝突を避けるための措置をとることもなく、停留を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。