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平成16年広審第22号
件名

油送船明法丸油送船オーシャン エース ナンバー7衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一、黒田 均、佐野映一)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:明法丸機関長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:オーシャンエースナンバー7一等航海士

損害
明法丸・・・球状船首部に曲損及び左舷後部外板に凹損などの損傷
オ 号・・・右舷中央部外板に凹損など、
第4橋脚・・・防護架台フェンダーの脱落など

原因
明法丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな衝突のおそれ、避航動作)不遵守(主因)
オ 号・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、明法丸が、見張り不十分で、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、オーシャン エース ナンバー7が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月7日04時45分
 大畠瀬戸
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船明法丸 油送船オーシャンエースナンバー7
総トン数 199トン 1,006トン
全長 47.78メートル 75.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 1,176キロワット

3 事実の経過
 明法丸は、船尾船橋型の油送船で、船長C及びA受審人ほか甲板員1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成15年11月6日11時50分長崎県松島港を発し、大畠瀬戸を経由する予定で山口県岩国港に向かった。
 ところで、大畠瀬戸は、周防灘と広島湾とを最短距離で結ぶ山口県玖珂郡大畠町及び同県屋代島北西岸間の狭い水道で、最狭部の同町瀬戸山鼻と南側の同島明神鼻との間に大島大橋が架けられてその第3及び第4橋脚間の可航幅が約300メートルとなっており、また最狭部の両岸付近やその南西方約1海里の同県笠佐島にかけては干出岩や浅所などが存在していたうえ操業する漁船が多いことなどから、同橋東方1,000メートルから西方950メートルにかけての海域では海上交通安全法第25条第1項に基づく告示により経路(以下「指定経路」という。)が指定されていた。
 指定経路は、総トン数5トン以上の船舶に対するもので、明神鼻、同鼻から263度(真方位、以下同じ。)950メートルのところに設置された大磯灯台及び同灯台から335度850メートルの大畠町の石神川口右岸突端とを順次結んだ線(以下「B線」という。)を横切って東行する場合には、大島大橋ほぼ中央部の大島大橋橋梁灯(C1灯)を通る084度の方位線(C線)以南、同灯台北西方270メートルの、B線西側至近にある戒善寺礁の北方及び同橋第3・第4橋脚間を航行することになっていた。
 C船長は、岩国港までの船橋当直を乗組員3人による単独4時間3直制と定め、自らは船橋当直に加え出入港時、狭水道通航時などにも操船の指揮にあたることとし、当直者に対しては当直時の指示事項を記入した注意書を操舵室に置いたほか、大畠瀬戸を通航する際は山口県室津半島及び屋代島間に設置された大畠航路第1号灯浮標、同第2号灯浮標及び同第3号灯浮標に沿って北上したのち、笠佐島の北側を通ってB線に向かうよう海図に針路線を記載したうえ、同瀬戸付近の船橋当直にあたる予定になっていたA受審人に対しその旨を指示し、自らもB線に接近したころ昇橋して操船の指揮を執るつもりであった。
 A受審人は、単独で操船して大畠瀬戸を指定経路によって通航した経験が多数あり、その際、同瀬戸付近を航行する船舶が少ないときには航行時間を少し短縮することができる笠佐島南方沖及び同島北東方沖に広がる水深約4メートルの大磯ノ州と大磯灯台周辺の干出岩等との間の、水深約20メートル幅約200メートルの海域(以下「大磯灯台西方海域」という。)を経て戒善寺礁北側の戒善寺礁灯浮標西方沖に至り、そこで大きく右転して同礁北側を通りB線に達する針路を取ることがしばしばあった。
 翌7日01時00分A受審人は、甲板員から引き継いで船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、周防灘、伊予灘及び平郡水道を経由して室津半島及び屋代島間の水道を北上し、04時31分大磯灯台から205度2.4海里の地点に達したとき、付近を航行する船舶が少なかったことから独断で笠佐島南方沖及び大磯灯台西方海域を経由し戒善寺礁灯浮標西方沖で右転して同礁北側を通りB線に向かうこととし、針路を同島と屋代島の津長鼻との中間に向く030度に定め、機関を全速力前進にかけて11.1ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は、04時38分津長鼻北方沖を通過するころから次第に潮流に乗じて12.0ノットの速力となり、同時42分大磯灯台から173度680メートルの地点に差し掛かったとき、針路を大磯灯台西方海域に向く327度に転じ、左舷少し後方から潮流を受ける状況となって331度の実効針路及び11.5ノットの速力で続航した。
 針路を転じたとき、A受審人は、左舷船首33度1,570メートルのところに笠佐島北方を東行するオーシャン エース ナンバー7(以下「オ号」という。)の白、白、緑3灯を視認できたが、そのころ大島大橋橋梁下に認めた明かりを多数点けて西行中のフェリーの動静や大磯灯台及び戒善寺礁灯浮標の灯火を見て船位を確認することに気を奪われ、専ら右舷方の見張りにあたり、左舷方の見張りを十分に行わなかったので、オ号の存在も、その後そのまま進行すると同船が自船の船首方120メートルのところを無難に航過する態勢であることにも気付かなかった。
 A受審人は、大磯灯台周辺の干出岩等を右舷方100メートルばかり離して進行し、04時44分オ号が左舷船首27度450メートルとなったとき、戒善寺礁灯浮標の灯火を右舷船首方に見ながら少しずつ針路を右に転じ、オ号に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたが、依然左舷方の見張り不十分で、このことに気付かず、機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
 こうして、A受審人は、少しずつ右転を続け、さらに04時45分わずか前右舵一杯をとって回頭中、ふと左舷方を見たところ、至近にオ号の航海灯を初めて認め、右舵一杯をとり続けたものの及ばず、04時45分大磯灯台から314度420メートルの地点において、明法丸は、012度に向首したとき、原速力のまま、その船首部が、オ号の右舷中央部に後方から60度の角度で衝突した
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好で、付近には1.5ノットの東流があった。
 C船長は、大畠瀬戸通航に備え自室で身支度をしていたところ、衝撃を感じて衝突を知り、急いで昇橋して事後の措置にあたった。
 また、オ号は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の油送船で、船長D及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月6日07時50分大韓民国釜山港を発し、大畠瀬戸を経由する予定で岩国港に向かった。
 B指定海難関係人は、23時45分船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、周防灘、伊予灘及び平郡水道を経由し室津半島及び屋代島間の水道を北上して笠佐島北西方沖に至り、翌7日04時37分半大磯灯台から254.5度1.5海里の地点に達したとき、針路を057度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力で、操舵手を手動操舵に就けて進行した。
 04時40分半B指定海難関係人は、大磯灯台から264度1.0海里の地点に差し掛かったとき、針路を戒善寺礁灯浮標の灯火の少し左方に向く072度に転じ、折からの潮流に乗じて12.0ノットの速力でB線に向け続航中、同時41分右舷船首45度1,810メートルのところに明法丸の白、白、紅3灯を初めて認めたが、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うことなく、そのころ大島大橋橋梁下から反航して来た明かりを多数点けたフェリーに視線を移して進行した。
 B指定海難関係人は、04時42分右舷船首42度1,570メートルに明法丸を認め得るとき、同船が左転して大磯灯台西方海域を北上し、同船の前方120メートルを無難に航過する態勢となり、同時44分大磯灯台から286度680メートルの地点に至ったとき、右舷船首48度450メートルに明法丸を認めることができ、その後同船が右転を始めて新たな衝突のおそれを生じさせたが、依然動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近したとき機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく続航した。
 04時45分わずか前B指定海難関係人は、反航船が自船の左舷側を航過したことから、視線を右舷方に移したところ、至近に迫った明法丸の灯火を認め、急いで左舵一杯をとり、プロペラ翼角を全速力後進としたが及ばず、オ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、明法丸は、球状船首部に曲損及び左舷後部外板に凹損などを、オ号は、右舷中央部外板に凹損などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。その後、オ号は、大島大橋第4橋脚防護架台に接触し、同架台フェンダーの脱落などを生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、大畠瀬戸西部において、明法丸及びオ号の両船が同瀬戸最狭部に向けて航行する際、北上中の明法丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢で東行中のオ号に対し、右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、オ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、大畠瀬戸西部において、戒善寺礁灯浮標西方沖で右転して同瀬戸最狭部に向かうつもりで山口県笠佐島南方沖を経て大磯灯台西方海域を北上する場合、同島北方沖を同瀬戸最狭部に向けて東行中の他船を見落とすことがないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、大島大橋橋梁下に認めた西行中のフェリーの動静や大磯灯台及び戒善寺礁灯浮標の灯火を見て船位を確認することに気を奪われ、専ら右舷方の見張りにあたり、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を無難に航過する態勢で同島北方沖を同瀬戸最狭部に向けて東行中のオ号に気付かず、右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、明法丸の球状船首部に曲損及び左舷後部外板に凹損などを、オ号の右舷中央部外板に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、夜間、大畠瀬戸西部において、山口県笠佐島北方沖を同瀬戸最狭部に向けて東行中、右舷船首方に明法丸を認めた際、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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