(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月6日00時43分
香川県高松港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船こんぴら2 |
貨物船第十一住若丸 |
総トン数 |
3,639トン |
499トン |
全長 |
115.91メートル |
59.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
8,826キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
こんぴら2(以下「こ号」という。)は、2機2軸を有し、神戸港と香川県高松港との間の定期航路に従事する船首船橋型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか12人が乗り組み、旅客75人を乗せ、車両58台を積載し、船首3.80メートル船尾5.40メートルの喫水をもって、平成14年11月6日00時35分高松港の東港フェリー岸壁を発し、神戸港に向かった。
A受審人は、所定の灯火を表示し、二等機関士を機関操作に、甲板員を操舵にそれぞれ配置して出航操船にあたり、徐々に増速しながら北上し、00時39分少し過ぎF地区岸壁北端に並んだとき、高松港朝日町外防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から117度(真方位、以下同じ。)1,170メートルの地点において、針路を350度に定め、機関を半速力前進にかけ12.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首7度1,360メートルのところに、第十一住若丸(以下「住若丸」という。)が表示した錨泊中の船舶の灯火と、その手前付近から右方にかけて数隻の同種の灯火を視認したが、住若丸とは無難に航過できる距離があるものと思い、手前の錨泊船を避航することに気をとられ、住若丸との衝突のおそれの有無を判断できるよう、方位の変化を測定するなど、その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
その後、A受審人は、折からの北西風と東流との影響により右方に7度偏位しながら、ほぼ同じ速力のまま、住若丸と衝突のおそれがある態勢で接近したものの、このことに気付かなかったので、錨泊中の同船を避けなかった。
00時42分少し過ぎA受審人は、間もなく手前の錨泊船をかわし終える状況となり、機関を全速力前進に増速したとき、住若丸が右舷船首方至近に迫っていることを認め、ようやく衝突の危険を感じ、急いで左舵をとって船首部をなんとかかわし、キックの作用により船尾が離れることを期待して右舵一杯としたが、00時43分北灯台から050度1,280メートルの地点において、こ号は、船首が025度を向き、13.0ノットの速力となったとき、その右舷中央部が、住若丸の船首部に、直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には約1.5ノットの東流があった。
また、住若丸は、船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、B受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.25メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、同月5日18時25分徳島県長原漁港を発し、高松港に向かった。
21時50分B受審人は、前示の衝突地点に至り、積荷役待機のため、水深約9メートルの海底に右舷錨を投下して錨鎖を3節伸出し、所定の灯火を表示したほか、船首部と船橋を500ワットの作業灯で照明し、停泊中の当直を維持しないまま、機関を終了して錨泊を開始した。
翌6日住若丸は、B受審人が自室で休息中、こ号が左舷方から接近し、錨泊地点において、北西風にたって295度に向首していたとき、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝突の擦過音で目を覚まし、昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、こ号は、右舷中央部ブルワークに亀裂を伴う損傷を、住若丸は、船首部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因の考察)
本件衝突は、こ号が、動静監視不十分で、錨泊中の住若丸を避けなかったことによって発生したことは明らかであるが、住若丸が停泊中の当直を維持していなかったことが一因となるかどうか検討する。
事実の経過で示したとおり、こ号は、00時39分少し過ぎ右舷船首7度1,360メートルのところに住若丸が表示した錨泊中の船舶の灯火と、その手前付近から右方にかけて数隻の同種の灯火を視認したが、住若丸とは無難に航過できる距離があるものと思い、手前の錨泊船を避航することに気をとられ、その後の動静監視を十分に行わないで続航したもので、風潮流の影響を受けずに直進すれば、住若丸の視認状況から右舷側に約150メートルの距離を隔てて同船をかわしていたことになる。
一方、住若丸は、危険物を運送している船舶ではないので、航海当直基準によると、停泊中の当直を維持することまで求められていない。
また、海上衝突予防法によると、常時適切な見張りを行うよう規定されているものの、仮に、住若丸が停泊中の当直を維持し、当直者がこ号と同じ時刻に同じ距離のところに、同船を認めたとしても、右舷灯を見せたまま接近するこ号が自船を無難にかわすものと判断し、注意喚起信号を行うという考えまでには至らず、こ号が偏位しながら自船に向かって接近してくることを予見することは困難であると思料する。
したがって、住若丸が停泊中の当直を維持していなかったことは、本件発生の一因とは認めない。
(原因)
本件衝突は、夜間、香川県高松港において、こ号が、動静監視不十分で、錨泊中の住若丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、香川県高松港を出航中、右舷船首方に住若丸が表示した錨泊中の船舶の灯火と、その手前付近から右方にかけて数隻の同種の灯火を視認した場合、住若丸との衝突のおそれの有無を判断できるよう、方位の変化を測定するなど、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、住若丸とは無難に航過できる距離があるものと思い、手前の錨泊船を避航することに気をとられ、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、風潮流の影響により右方に偏位しながら住若丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、錨泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、こ号の右舷中央部ブルワークに亀裂を伴う損傷を、住若丸の船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績によって運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。