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平成15年神審第114号
件名

漁船馨宝丸消波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學、甲斐賢一郎、横須賀勇一)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:馨宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船首部を大破して廃船処分
乗組員が右足関節脱臼及び骨折

原因
針路の選定不適切

主文

 本件消波堤衝突は、針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月25日03時40分
 和歌山県新宮港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船馨宝丸
総トン数 0.6トン
登録長 5.83メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 馨宝丸は、主に刺網漁業に従事する和船型FRP製漁船で、平成14年10月に交付された一級小型船舶操縦士の免状を有するA受審人及び同人の父親であるBが乗り組み、いせえび漁の目的で、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、同15年1月25日03時37分和歌山県三輪崎漁港を発し、同漁港北方0.7海里付近の漁場へ向かった。
 ところで、三輪崎漁港は、熊野灘に面して構築された新宮港内の北東角に位置し、陸岸から鈴島へ延びた漁港北防波堤、鈴島と孔島間の漁港東防波堤及び孔島の北岸などによって囲まれた海域が、概ね、新宮港における三輪崎漁港区域となっているが、孔島の北西角から西南西方へは、新宮港の内港第1防波堤(以下「第1防波堤」という。)が、長さ約200メートルに渡って築造されていることから、平素、三輪崎漁港を出港する漁船は、同漁港区域を出たのち、第1防波堤の西端部付近海域へ向かって進み、それから新宮港の北防波堤北端または南端を替わして、外海へと向かうのが常であった。
 しかしながら、当時、第1防波堤西端部付近海域においては、同月21日から消波堤の築造工事が施行されており、同防波堤西端から延長線上約50メートル地点までと、同地点から北北西方へ約30メートル地点までの2箇所に渡り、消波ブロックの据え付け作業中であったうえ、その周囲には、危険範囲を示す灯浮標が3個設置されていたことから、三輪崎漁港に出入りする漁船は、それら灯浮標から安全な距離を保ち、危険な消波堤築造工事区域から十分離れて航行する必要があった。
 また、A受審人は、毎年10月から翌年1月までの、いせえび漁期間中、満月前後の約5日間は休業するものの、それ以外は、連日15時30分ごろ出漁して刺網を仕掛けたのち、一旦、帰港して休息を取り、翌朝03時30分ごろ、再び、出漁して揚網を行うという形態で操業を繰り返していたところ、同年1月17日から18日に掛けてが満月であったことから、23日に漁を再開して以来、前示灯浮標3個の存在を含め、消波ブロックの据え付け作業などを出漁の度に目にし、その進捗状況について事細かく知っていたので、当日は、前示漁港区域を出たならば、消波堤築造工事中の第1防波堤西端部付近海域から十分離れた安全な針路を選定するつもりで出漁したものであった。
 そして、03時39分少し前A受審人は、前示漁港区域境界線付近に至り、消波堤築造工事区域から十分離れた安全な針路を選定する頃合いとなったが、隣に座った父親と雑談しているうち、いつしか、同工事が施工されていることを失念してしまい、同時39分わずか前新宮港北防波堤北灯台から347度(真方位、以下同じ。)620メートルの地点で、平素と同じように、第1防波堤西端部付近海域へ向かう220度の針路に定め、機関をほぼ半速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、舵柄による手動操舵によって進行した。
 こうして、A受審人は、築造中の消波堤に向首進行することとなり、やがて、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、父親との雑談に気を取られ、このことに気付くことなく続航中、03時40分わずか前正船首至近に迫った同消波堤の黒い影を認めて、衝突の危険を感じたものの、どうすることもできず、03時40分新宮港北防波堤北灯台から320度510メートルの地点において、馨宝丸は、原針路、原速力のまま、その船首が消波堤に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期に当たり、視界は良好であった。
 消波堤衝突の結果、馨宝丸は、船首部を大破して廃船処分となり、のち新船と代替された。またBが右足関節脱臼及び骨折などを負った。 

(原因)
 本件消波堤衝突は、夜間、和歌山県新宮港において、同港北東角に位置する三輪崎漁港から出港する際、針路の選定が不適切で、第1防波堤西端部付近海域で施工されていた消波堤築造工事区域から十分離れた安全な針路を選定することなく、築造中の消波堤へ向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、和歌山県新宮港において、同港北東角に位置する三輪崎漁港から出港する場合、第1防波堤西端部付近海域で消波堤築造工事が施工されているのを知っていたのであるから、築造中の消波堤に衝突しないよう、同工事区域から十分離れた安全な針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同人は、当該海域から十分離れた安全な針路を選定するつもりで出港したものの、隣に座った父親と雑談しているうち、いつしか、消波堤築造工事が施工されていることを失念してしまい、平素と同じように、第1防波堤西端部付近海域へ向けた針路として、消波堤築造工事中の同海域から十分離れた安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、築造中の消波堤に向首進行して衝突を招き、船首部を大破するとともに、同人の父親に右足関節脱臼及び骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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