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平成15年神審第113号
件名

監視船山王丸漁船第二智仁丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人C〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、横須賀勇一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:山王丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二智仁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
山王丸・・・タイヤフェンダー1個が脱落
第二智仁丸・・・船首部を圧壊、船長が顔面挫創の負傷

原因
第二智仁丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
山王丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二智仁丸が、動静監視不十分で、停留中の山王丸を避けなかったことによって発生したが、山王丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月18日05時40分
 石川県七尾港
 
2 船舶の要目
船種船名 監視船山王丸 漁船第二智仁丸
総トン数 16トン 4.28トン
登録長 15.01メートル 8.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 280キロワット

3 事実の経過
 山王丸は、船体中央やや船首寄りに船橋を有する鋼製監視船で、平成15年1月22日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか1人が乗り組み、浚渫工事の監視業務の目的で、船首0.80メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成15年8月18日05時00分石川県七尾港寿物揚場岸壁の定係地を発し、東北東方700メートルの同港第1ふ頭西側海域に向かった。
 ところで、山王丸の監視業務は、大田ふ頭北西側前面の浚渫工事に従事する浚渫船第8備讃号(以下「備讃号」という。)が、第1ふ頭南西側の係留地とその北東方1,400メートルの浚渫工事区域との間を往復する際に誘導することと、同船及び同区域に接近する他船に対して警告することであった。
 05時03分A受審人は、第1ふ頭北西端の西方沖合約50メートルの七尾港府中防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から021度(真方位、以下同じ。)470メートルの地点に達し、機関を中立として停留して待機し、同時30分備讃号から係留地を離岸する旨の連絡を受け、甲板員とともに前部甲板に立って備讃号周辺の監視業務に就いた。
 05時34分半A受審人は、前示停留地点において、船首を090度に向けているとき、左舷船首52度1.5海里のところに、自船に向首して高速力で来航する第二智仁丸(以下「智仁丸」という。)を甲板員とともに初めて認め、同船の進行模様から、第1ふ頭沖合を経て南西方の府中物揚場岸壁に向かうものと判断し、停留したまま監視業務を続けた。
 05時38分少し過ぎA受審人は、同方位700メートルのところに、自船に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近する智仁丸を認め、その後同船に避航の気配が認められなかったが、間近に接近すれば監視業務に就いていることを示す標識板を掲げ停留中の自船を避けるものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置もとらないまま停留を続けた。
 05時39分少し前A受審人は、540メートルのところに自船の船首に向けて急速に接近する智仁丸を認めて危険を感じ、甲板員とともに同船に向けて両手を大きく振り、大声で自船を避けるよう注意を促したが、依然智仁丸に避ける気配が認められなかったので、同時40分少し前慌てて操舵室に戻り機関を後進にかけたものの効なく、05時40分山王丸は前示停留地点において、その左舷船首部に智仁丸の船首が前方から52度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は高潮時であった。
 また、智仁丸は、一本釣り漁に従事する、船体中央部船尾寄りに操舵室を有するFRP製漁船で、平成13年10月9日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、めばる一本釣り漁の目的で、船首0.40メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成15年8月18日04時20分府中物揚場岸壁を発し、石川県禄剛埼北北東方沖合7海里の漁場に向かった。
 B受審人は、04時55分七尾南湾(なんわん)から小口を(こぐち)経て勝尾埼烏帽子岩(えぼしいわ)照射灯東方沖合を北上する途次、北西風が次第に強まり天候の悪化が予想されたことから、引き返すこととし、05時00分同照射灯の東方沖合3海里ばかりの地点で反転し、帰航の途に就いた。
 ところで、智仁丸は、操舵室前面窓枠中段の高さまで、両舷に渡って魚群探知機などの計器が設置されていたほか、操舵室前部右舷側にある直径30センチメートル(以下「センチ」という。)高さ105センチの化粧煙突のために、操舵室中央からの見通しは、視野が狭く制限され、右舷方に約14度の角度で死角を生じていたが、船首方及び左舷方を見通すことは可能であった。
 05時34分半B受審人は、東灯台から036度1.5海里の地点で、操舵室中央に立ち、針路を218度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 05時37分B受審人は、東灯台から034度1.0海里の地点において、船首方1,480メートルに停留している山王丸を初めて認めたが、同時38分少し過ぎ東灯台から031度1,160メートルの地点に達し、七尾港第19号灯浮標に並航したので、いつものように14.0ノットに減速した。
 このとき、B受審人は、同方位700メートルに衝突のおそれがある態勢で山王丸に接近するのを認め得る状況となったが、左舷船首8度840メートルに第1ふ頭を離れた備讃号を認めたので、移動中の備讃号との接近模様に気をとられ、山王丸に対する動静監視を行わないで、停留中の同船に向首したまま接近していることに気付かず、右転するなどして山王丸を避けないまま続航した。
 05時39分少し前B受審人は、山王丸が船首方540メートルとなったが、依然同船に対する動静監視を行わなかったので、このことに気付かないまま進行中、第1ふ頭北西角に並航し、更に減速しようと機関回転数制御用のガバナーハンドルに手をかけたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、山王丸は左舷船首上縁に取り付けてあったタイヤフェンダー1個が脱落し、智仁丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が顔面挫創を負った。

(原因の考察)
 本件は、智仁丸側が、動静監視が不十分で、停留中の山王丸を避けなかったことを主因として発生したものである。
 ところで、智仁丸の操舵室前面には、魚群探知機をはじめとする計器類が種々設置され、また窓枠及び旋回窓枠があり、更に化粧煙突が同室前部右舷側にあることにより、かなりの範囲で操舵室前方の視野が狭められていた。この船首死角があったことが本件発生の一因とも考えられるが、本件の場合、操船にあたっていたB受審人は、山王丸を一旦は視認しており、たとえ大きな船首死角があったとしても、その後の動静監視は可能であったので、このことは本件発生の原因とならない。
 しかしながら、安全運航を確保するためには、船首の死角を最小限にとどめることが必要であり、適切な対策が講じられることが望まれる。 

(原因)
 本件衝突は、石川県七尾港において、入航中の智仁丸が、動静監視不十分で、前路で停留中の山王丸を避けなかったことによって発生したが、山王丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、石川県七尾港において、帰航のため同港内を航行中、前路に停留中の山王丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、移動中の浚渫船との接近模様に気をとられ、山王丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、山王丸を避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷船首上縁に取り付けたタイヤフェンダー1個を脱落させ、智仁丸の船首部を圧壊させ、自身が顔面挫創を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、石川県七尾港において、浚渫船が出港する際の監視業務に従事中、左舷方から自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する智仁丸を認め、その後同船に避航の気配が認められない場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、智仁丸が、監視業務に就いていることを示す標識板を掲げて停留中の自船をいずれ避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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