(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月6日12時55分
石川県珠洲岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船翔井丸 |
漁船第十八喜洋丸 |
総トン数 |
499トン |
4.6トン |
全長 |
74.60メートル |
13.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
80 |
3 事実の経過
翔井丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,522トンを積載し、船首3.57メートル船尾4.62メートルの喫水をもって、平成15年7月5日01時00分北海道室蘭港を発し、関門港小倉区に向かった。
A受審人は、船橋当直体制を原則として00時から04時及び12時から16時を甲板長、04時から08時及び16時から20時を一等航海士、そして08時から12時及び20時から24時を自身の単独4時間当直としていたが、作業の都合で変更することもあった。
翌6日12時00分それまで船橋当直に当たっていたA受審人は、禄剛埼(ろっこうさき)灯台から065度(真方位、以下同じ。)15.5海里の地点に達して、次直予定であった甲板長にハッチの塗装作業を命じ、自らの船橋当直を続行することとし、針路を257度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
12時43分A受審人は、禄剛埼灯台から049度7.1海里の地点にて、右舷船首57度4.4海里のところに第十八喜洋丸(以下「喜洋丸」という。)を初めて認め、その後同船が前路を左方に横切る態勢であることを知ったが、一瞥して喜洋丸の速力の方が速く、自船の船首方を無難に替わっていくものと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行わなかった。
12時53分半A受審人は、禄剛埼灯台から038度5.4海里の地点に至ったとき、右舷船首57度1,100メートルのところに前路を左方に横切る喜洋丸を視認することができ、衝突のおそれのある態勢で互いに接近するのを認め得る状況であったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
12時55分わずか前A受審人は、右舷船首至近に喜洋丸を認めたものの、どうすることもできないまま、12時55分禄剛埼灯台から037度5.1海里の地点において、翔井丸は原針路、原速力のまま、その右舷船首と喜洋丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、視界は良好であった。
喜洋丸は、船体中央やや後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、平成13年10月18日に交付された一級小型船舶操縦士の免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、すけとうだら延縄漁の目的で、船首0.30メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同15年7月6日01時30分石川県松波漁港を発し、珠洲岬(すずみさき)北方約30海里の漁場で操業してすけとうだら約400キログラムを得て、11時30分帰途に着いた。
ところで、B受審人は、深夜01時ごろ出漁してその日の15時ごろ帰港する、日帰り操業を行っていたが、帰港してからの作業で睡眠時間が3時間ほどしか取れない日が多く、休漁日は毎週の土曜日や祭日の前日などがあったものの、睡眠が不足気味であった。
12時00分B受審人は、禄剛埼灯台から358度20.6海里の地点にて、GPSプロッターにより針路を珠洲岬東方に向く167度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.5ノットの速力で自動操舵により進行した。
定針前に昼食をすませていたB受審人は、操舵室内上段の板敷きであぐらをかいて見張りに当たっていたところ、満腹感があった上、操業の疲れと睡眠不足から眠気を催し始めた。
12時43分眠気を催しながら見張りに当たっていたB受審人は、禄剛埼灯台から016度8.0海里の地点に達したとき、左舷船首33度4.4海里のところに翔井丸を初めて認め、その後同船が前路を右方に横切る態勢であることを知って、その動静が気になっていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、立ち上がって風に当たったり、手動操舵にしたりするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室内であぐらをかいたままでいるうち、いつの間にか居眠りに陥った。
12時53分半B受審人は、禄剛埼灯台から033度5.4海里の地点で、左舷船首33度1,100メートルのところに前路を右方に横切る翔井丸を視認でき、衝突のおそれのある態勢で互いに接近するのを認め得る状況であったが、居眠りに陥っていたので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま続航中、喜洋丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、翔井丸は、右舷船首外板に擦過傷を生じ、喜洋丸は、船首部を圧壊するとともに操舵室上部が倒壊するなど損傷を生じたが、いずれものち修理された。
(原因)
本件衝突は、石川県珠洲岬北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、翔井丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る喜洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、喜洋丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石川県珠洲岬北東方沖合を西行中、右舷前方に喜洋丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一瞥して喜洋丸の速力の方が速く、自船の船首方を無難に替わっていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、喜洋丸が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けないまま進行して喜洋丸との衝突を招き、自船の右舷船首外板に擦過傷を生じさせ、喜洋丸の船首部等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、石川県珠洲岬北東方沖合を南航中、左舷前方に翔井丸を認めた後、操舵室内上段の板敷きであぐらをかいて見張りに当たっていて眠気を催した場合、立ち上がって風に当たったり、手動操舵にしたりするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、翔井丸の動静が気になっていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつの間にか居眠りに陥り、翔井丸が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。