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平成16年神審第22号
件名

貨物船広隆丸プレジャーボート東海II衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:広隆丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:東海II船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
広隆丸・・・船首部に擦過傷
東海II・・・右舷側外板に亀裂を生じて機関室に浸水、船長が頭部打撲傷等の負傷

原因
東海II・・・見張り不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守
広隆丸・・・警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、入航する東海IIが、見張り不十分で、防波堤の外で出航する広隆丸の進路を避けなかったことによって発生したが、広隆丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月7日18時07分
 尼崎西宮芦屋港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船広隆丸 プレジャーボート東海II
総トン数 198トン  
全長 46.99メートル  
登録長   7.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 105キロワット

3 事実の経過
 広隆丸は、食用油の廃油運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、飼料用油脂305.057トンを積載し、船首2.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年11月7日18時00分尼崎西宮芦屋港第1区1号物揚場南岸壁を発し、鹿児島県串木野港に向かった。
 出港操船にあたりA受審人は、船首に甲板長、船尾に機関長及び一等機関士を配置して離岸後、右錨を揚げて18時02分尼崎港橋橋梁灯(R2灯)(以下「橋梁灯」という。)から084度(真方位、以下同じ。)360メートルの地点において、航行中の動力船の灯火を表示し、針路を閘門波除堤に沿う275度に定め、同波除堤を左舷方約60メートルの距離に保ち、機関を微速力前進にかけ2.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 ところで、閘門波除堤西端の水路(以下「航路筋」という。)は、約25メートル上を阪神高速道路湾岸線が通り、対岸との間の最狭部が約120メートルで南方に開口した防波堤の入口となっており、また、閘門波除堤は、阪神高速道路湾岸線の橋脚の土台も兼ねていて、同橋脚により部分的に見通しが遮られていたので、航行に際しては防波堤の入口付近で出会う船舶の有無を確認するとともに、その動静に疑問のある船舶に対しては警告信号を行う必要のある水域であった。
 A受審人は、出港配置を解いて単独で操船操舵にあたり、18時06分半橋梁灯から017度60メートルの地点に達して閘門波除堤西端の橋脚に並航したとき、左舷船首65度280メートルのところに防波堤の外で停止しないまま、自船の前路に向けて高速で接近する東海IIの白、緑灯を防波堤越しに初めて視認し、同船と防波堤の入口付近で出会うおそれのあることを認めたが、夜間は灯火による注意喚起の方が分かりやすいと思い、船橋両舷のデッキライトを点滅しただけで、直ちに汽笛による警告信号を行うことなく、左舵15度をとって尼崎港橋橋梁灯(L2灯)に向けて続航した。
 18時07分少し前A受審人は、東海IIが避航する様子のないまま、なおも接近することに危険を感じて機関を全速力後進にかけたものの及ばず、18時07分橋梁灯から328度50メートルの地点において、原速力のまま、針路が248度で広隆丸の船首部が、東海IIの右舷中央部に前方から44度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 また、東海IIは、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、平成13年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が単独で乗り組み、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同15年11月7日15時00分兵庫県尼崎市大高洲町の尼崎釣船組合桟橋を発し、西宮防波堤の南側海域に至って太刀魚釣りを行い、18時00分帰途に就いた。
 ところで、B受審人は、幾度も航路筋通行の経験があり、航路筋における貨物船等の往来する状況についてもよく知っており、平素入航する際は、航路筋手前で一旦停止して周囲を確認していた。
 B受審人は、舵輪後方のいすに腰掛けて見張りにあたり、航行中の動力船の灯火を表示し、西宮防波堤東灯台から180度100メートルの地点において、針路を尼崎閘門に向け、機関を全速力前進より少し落とした状態にかけて20.0ノットの速力で港内水路を北東進し、18時05分橋梁灯から206度1,120メートルの地点に達したとき、針路を閘門波除堤の西端から約50メートル外側の航路筋に向く024度に定めて同速力で進行した。
 18時06分半B受審人は、橋梁灯から213度200メートルの地点に達したとき、右舷船首6度280メートルのところに防波堤内を出航する広隆丸の白、白、紅灯を視認でき、防波堤の入口付近で出会うおそれのある状況となったが、考え事をしていたこともあって防波堤入口を通行することだけに注意を注ぎ、防波堤内に対する見張りを十分に行っていなかったので、出航する広隆丸に気付かず、防波堤の外で同船の進路を避けることなく続航した。
 18時06分半少し過ぎB受審人は、機関を15.0ノットに減速して進行中、右舷至近に迫った広隆丸を初めて認めたもののどうする術もなく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、広隆丸は船首部に擦過傷を生じ、東海IIは右舷側外板に亀裂を生じて機関室に浸水し、B受審人が頭部打撲傷等を負った。  

(原因)
 本件衝突は、夜間、両船が尼崎西宮芦屋港港内水路の防波堤の入口付近で出会うおそれのあるとき、入航する東海IIが、見張り不十分で、防波堤の外で出航する広隆丸の進路を避けなかったことによって発生したが、広隆丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人が、夜間、尼崎西宮芦屋港港内水路の防波堤入口に向けて入航する場合、防波堤付近の水路及び船舶の往来状況についてよく知っていたのだから、防波堤の入口付近で出会うおそれのある広隆丸を早期に発見できるよう、防波堤内に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、考え事をしていたこともあって防波堤入口を通行することだけに注意を注ぎ、防波堤内に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、出航する広隆丸に気付かず、防波堤の外で同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、広隆丸の船首部に擦過傷を生じさせ、東海IIの右舷側外板に亀裂を生じさせて機関室に浸水させ、自身も頭部打撲傷等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人が、夜間、尼崎西宮芦屋港港内水路を防波堤入口に向け出航中、防波堤の外に、防波堤の入口付近で出会うおそれのある態勢で入航する東海IIを認めた場合、直ちに汽笛による警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、夜間は灯火による注意喚起の方が分かりやすいと思い、デッキライトを点滅しただけで、警告信号を行わなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人に前示の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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