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平成15年神審第90号
件名

遊漁船第七若月丸プレジャーボートクイントレックスV11衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎、橋本 學、横須賀勇一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第七若月丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:クイントレックスV11船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第七若月丸・・・船首に擦過傷
ク号・・・船体後部左舷側を大破して転覆し、のち全損処理

原因
第七若月丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ク号・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第七若月丸が、見張り不十分で、錨泊中のクイントレックスV11を避けなかったことによって発生したが、クイントレックスV11が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月23日08時10分
 福井県世久見湾
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第七若月丸 プレジャーボートクイントレックスV11
総トン数 4.03トン  
登録長 9.40メートル 3.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 84キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 第七若月丸(以下「若月丸」という。)は、船体中央やや後方に操舵室を備えたFRP製遊漁兼用船で、平成13年5月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、釣客5人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同15年8月23日05時30分福井県小川漁港を発し、同港西方3海里ばかりの釣場へ向かった。
 A受審人は、06時ごろ前示釣場に到着してしばらく釣客に釣りをさせたが、芳しい釣果が得られなかったので、釣場を移動することとして、08時05分常神岬(つねかみみさき)灯台から240度(真方位、以下同じ)2.7海里の地点で、針路を128度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として、小川漁港西方沖の千島付近の釣場に向け、操舵室内右舷側の椅子に腰掛けたまま手動操舵により進行した。
 ところで、若月丸は、漁船兼遊漁船として使用されていたが、今回のように遊漁船として使用されるときは、船首部にある生簀(いけす)の水を抜くため船首が浮き上がり、操舵室内右舷側の椅子に腰掛けた姿勢で操船すると、船首方左舷側に15度、同右舷側に10度の死角が生じることから、A受審人は、普段は立ち上がるなどして、船首方の死角を補う見張りを行っていた。
 定針したとき、A受審人は、正船首1.0海里のところにクイントレックスV11(以下「ク号」という。)を視認することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、自船の右舷前方遠くに、海面近くの魚群に海鳥が群れる鳥山を発見し、その方向を見ながら、釣客に鳥山について説明することに気をとられ、船首方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付くことなく続航した。
 08時08分わずか過ぎA受審人は、常神岬灯台から223度2.5海里の地点に至ったとき、ク号が正船首500メートルのところに存在し、同船が錨泊中を示す黒球を掲げていなかったものの、その船首から錨索が海中に延出され、船体も移動していないことなどから、錨泊中と認めることができる状況であったが、依然、船首方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、同船を避けることなく進行中、08時10分常神岬灯台から216度2.5海里の地点において、若月丸は、原針路、原速力のまま、その船首がク号の左舷後部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、ク号は、乗用車等のカートップに積載することのできる無甲板の軽合金製プレジャーボートで、平成13年7月交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、笛が付属する救命胴衣や黒球などの属具を搭載し、釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同15年8月23日06時ごろ小川漁港を発し、千島付近の釣場に向かった。
 B受審人は、06時20分ごろ前示釣場に到着し、錨泊しての釣りを開始したが、芳しい釣果が得られなかったので、07時ごろ水深が21メートルの前示衝突地点に移動して重さ5キログラムの錨を投入し、船首から直径6ミリメートルの索を40メートルほど延出し、黒球を揚げないで、船首に立てた高さ2.5メートルの旗竿の先端に、縦30センチメートル横40センチメートルの白旗、続いて同じ大きさの赤旗を掲げて、船尾に絞ったままのスパンカーを掲げ、船首を南西に向けたまま釣りを再開した。
 08時05分B受審人は、自船の北西方1.0海里のところに位置していた若月丸が自船の方向に向かって航走を開始したのを認めたので、同船に対する動静監視を始めた。
 08時08分わずか過ぎB受審人は、若月丸が自船に向首したまま500メートルのところまで接近したので、至近となったときの引き波で船体が大きく動揺するのを避けるため、錨を揚げ始めたが、若月丸が自船に接近するのは何か用があり、近くまで来れば、いずれ減速するものと思い、速やかに船外機を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく錨の揚収を続けた。
 08時10分少し前B受審人は、錨を揚げ終えたとき、自船に向首したまま至近に迫った若月丸との衝突の危険を感じ、大声を上げたがどうすることもできず、海中に飛び込んだ直後、08時10分ク号の船首が358度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、若月丸は船首に擦過傷を生じたのみであったが、ク号は船体後部左舷側を大破して転覆し、のち全損処理された。 

(原因)
 本件衝突は、福井県世久見湾において、東行中の若月丸が、見張り不十分で、錨泊中のク号を避けなかったことによって発生したが、ク号が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、福井県世久見湾において、釣場を移動する場合、操舵室の椅子に腰掛けると船首方に死角が生じる状況であったから、錨泊しているク号を見落とすことのないよう、椅子から立ち上がるなど周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、移動を開始したとき、自船の右舷前方遠くに発見した鳥山について釣客に説明することに気をとられ、椅子に腰掛けたまま、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊しているク号に気付かず、同船を避けることなく進行してク号との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、ク号の船体後部左舷側を大破させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、福井県世久見湾において、若月丸が自船に向首して接近するのを認めた場合、速やかに船外機を使用するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、若月丸が近くまで来れば、いずれ減速するものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、若月丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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