(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月22日13時45分
三重県大王埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートブルーシェル2 |
漁船彦司丸 |
総トン数 |
12トン |
7.3トン |
全長 |
15.36メートル |
15.77メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
419キロワット |
426キロワット |
3 事実の経過
ブルーシェル2(以下「ブ号」という。)は、FRP製プレジャーモーターボートで、操縦席がキャビン中央右舷側及びフライングブリッジにあり、月に1回程度、主に大王埼沖合でトローリングを行うのに使用され、平成7年10月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み、知人1人を乗せ、トローリングの目的で、船首1.0メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成15年6月22日05時00分愛知県三河港を発し、同日夕方に帰港する予定で大王埼沖合に向かった。
A受審人は、フライングブリッジの操縦席に腰掛けて操船にあたり、08時ごろ大王埼沖合で釣り竿5本を使用してトローリングを開始し、12時ごろ帰港の途に就き、その後伊良湖水道に向け北上し、13時00分大王埼灯台から140度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点で、針路を000度に定め、機関を回転数毎分約1,000の前進にかけてトローリングを続けながら、7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
13時35分A受審人は、大王埼灯台から109度5.1海里の地点に達したとき、右舷船首45度2.8海里に西行中の彦司丸を初認し、間もなく手動操舵に切り替え、しばらくその動静を監視したところ、同船が自船の船尾方を航過すると予想し、最長100メートル余りの仕掛けを船尾方に引いていたことから、仕掛けが絡まないように同船に船首方を航過させることとし、13時43分少し前大王埼灯台から100度4.9海里の地点で、同船を右舷ほぼ正横940メートルに見るようになったとき、機関を中立にして漂泊状態とした。
その後A受審人は、接近する彦司丸の動向に注意していたところ、13時44分同船が右舷ほぼ正横420メートルに近づき、その後自船に向首し衝突のおそれがある態勢となり、同時44分半自船を避ける気配がないまま間近に接近したが、漂泊中の自船を彦司丸が避けるものと思い、速やかに汽笛を吹鳴して警告信号を行うことも、機関を後進にかけて衝突を避けるための措置をとることもせず、13時45分わずか前目前に迫った同船を見て危険を感じ、衝突を避けるため機関を後進にかけたが及ばず、13時45分大王埼灯台から100度4.9海里の地点において、ブ号は、337度を向いて約10メートル後退したとき、その船首端に彦司丸の船首部が前方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、彦司丸は、刺網漁業及び一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成15年4月二級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日03時00分三重県和具漁港を発し、大王埼沖合の漁場に向かった。
B受審人は、05時ごろから大王埼南南東方17海里の漁場でかつお引縄漁を開始し、その後漁場を移動して同埼東北東方22海里付近で自動いか釣り機を使用していか釣り漁を行い、漁獲物100キログラムを得て操業を終え、13時00分大王埼灯台から074度14.3海里の地点を発進すると同時に、針路を242度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,550の前進にかけて13.5ノットの速力で進行し、和具漁港に向け帰港の途に就いた。
漁場を発進後B受審人は、操舵室後部左舷側に置いたいすに腰掛け、乗組員が右舷側甲板上で漁具の片付けを行っていることを承知していたものの、前路を一べつして他船を見かけなかったので安心し、前路の見張りを行わないまま、翌日の操業準備のため専ら同室右舷側前面に設置された魚群探知器の映像を監視しながら続航した。
13時41分B受審人は、大王埼灯台から095度5.6海里の地点で、左舷船首10度1.0海里に北上中のブ号を視認することができ、同時43分少し前同船が船首方向940メートルのところで停船し漂泊状態となったが、見張りを行っていなかったので、このことに気付かなかった。
13時44分B受審人は、大王埼灯台から099度5.0海里の地点に達したとき、正船首420メートルにブ号が漂泊中で、その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢となって接近したが、漁場を発進後前路を一べつして他船を見かけなかったことから、進行方向に他船はいないものと思い、魚群探知器の映像に気を奪われ、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、漂泊中のブ号を避けることなく進行中、彦司丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ブ号は、船首端が切断されて破口を生じ、彦司丸は、船首部に擦過傷を生じたが、両船とも航行に支障がなく、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、三重県大王埼東方沖合において、操業を終えて帰港する彦司丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のブ号を避けなかったことによって発生したが、ブ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、操業を終え、大王埼東方沖合を三重県和具漁港に向けて航行する場合、前路で漂泊中のブ号を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場を発進後前路を一べつして他船を認めなかったことから、進行方向に他船はいないものと思い、魚群探知器の映像に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中のブ号に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、ブ号の船首端に破口を、彦司丸の船首に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、大王埼東方沖合において、船尾方に引いている仕掛けが西行中の彦司丸に絡まないよう漂泊中、同船が自船を避ける気配のないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに汽笛を吹鳴して警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊中の自船を彦司丸が避けるものと思い、速やかに汽笛を吹鳴して警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船が自船に気付かないまま接近して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。