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平成15年横審第105号
件名

貨物船康恵丸漁船孔洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂、西田克史、小寺俊秋)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:康恵丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:孔洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
康恵丸・・・右舷バラストタンク空気抜きベンチレーターの脱落及び右舷船尾部外板に擦過傷
孔洋丸・・・船首部を圧壊、船長が1箇月の通院加療を要する腰椎捻挫及び右前腕打撲の負傷

原因
康恵丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
孔洋丸・・・汽笛不装備、見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、康恵丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る孔洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、孔洋丸が、汽笛を装備せず、かつ、見張り不十分で、警告信号を行うことができず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月7日04時10分
 三重県松阪港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船康恵丸 漁船孔洋丸
総トン数 477トン 9.92トン
登録長 59.53メートル 13.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 康恵丸は、船尾船橋型石材運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、土砂1,300トンを載せ、船首2.8メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成14年11月7日03時30分三重県松阪港を発し、愛知県常滑港沖合の中部国際空港埋立地に向かった。
 A受審人は、正規の灯火を点灯し、単独で船橋当直に就き、松阪港第1号灯浮標を航過したのち出航針路のまま500メートルほど航行して同灯浮標東方ののり養殖施設を替わし、03時41分半松阪港東防波堤灯台から017度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で、針路を060度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 しばらくしてA受審人は、船首方に5ないし6隻の漁船群の黄色回転灯及び白灯を視認し、6マイルレンジとしたカラーレーダーで同漁船群を前方4海里ほどに認めたのちそれらに注目して続航し、04時03分松阪港東防波堤灯台から054度3.1海里の地点に達したとき、右舷船首19度1.8海里に、孔洋丸の白、紅2灯を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、船首方の漁船群に気を奪われ、右舷前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、依然見張り不十分で孔洋丸の接近に気付かずに進行中、04時10分松阪港東防波堤灯台から055度4.0海里の地点において、康恵丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船尾部に、孔洋丸の船首が前方から37度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
 また、孔洋丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、汽笛を装備しないまま、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月6日18時40分三重県香良洲漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、目的の漁場に至り、まんがん曳きと称する底引き網漁法により東西方向に引き網を繰り返し、えび、かれいなど約15キログラムを漁獲したところで帰航することとし、マスト灯、両舷灯及び壊れた船尾灯の代わりの作業灯を点灯し、操舵室の舵輪後方に立って操船に当たり、翌7日04時03分松阪港東防波堤灯台から063度4.8海里の地点で、針路を香良洲港南防波堤灯台に向く277度に定め、機関を回転数毎分1,300の半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は、左舷船首18度1.8海里に、康恵丸の白、白、緑3灯を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、左舷船首方は松阪港の明かりに紛れて他船の灯火が見にくかったところ、一瞥して康恵丸はいないものと思い、レーダーを活用するなど左舷船首方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、揚網後船尾に積み重ねた網及びロープが海中に落下するのではないかと気に掛かり、何度も確認のために後方を振り向きながら続航した。
 04時07分B受審人は、康恵丸の方位が変わらないで距離1,430メートルに接近したが、依然見張り不十分でこのことに気付かず、汽笛不装備で警告信号を行うことができずに、さらに間近に接近しても機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、孔洋丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、康恵丸は右舷バラストタンク空気抜きベンチレーターの脱落及び右舷船尾部外板に擦過傷を生じ、孔洋丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が1箇月の通院加療を要する腰椎捻挫、右前腕打撲を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、三重県松阪港東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北東進する康恵丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る孔洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西航する孔洋丸が、汽笛を装備せず、かつ、見張り不十分で、警告信号を行うことができず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、三重県松阪港を出航して同港東方沖合を北東進する場合、接近する孔洋丸を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方の漁船群に気を奪われ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する孔洋丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、康恵丸に右舷バラストタンク空気抜きベンチレーターの脱落等を、孔洋丸に船首部の圧壊をそれぞれ生じさせ、藤川受審人に1箇月の通院加療を要する腰椎捻挫、右前腕打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、操業を終え三重県松阪港東方沖合を香良洲漁港に向け西航する場合、左舷船首方は松阪港の明かりに紛れて他船の灯火が見にくかったことから、出航してくる康恵丸を見落とすことのないよう、レーダーを活用するなど左舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して康恵丸はいないものと思い、レーダーを活用するなど左舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する康恵丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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