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平成16年横審第5号
件名

貨物船第二すみせ丸油送船第三なごや丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人D〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋、竹内伸二、浜本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第二すみせ丸船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:第二すみせ丸二等航海士 海技免許:三級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:第三なごや丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
第二すみせ丸・・・右舷後部外板に亀裂を伴う凹損
第三なごや丸・・・船首部を圧壊

原因
第二すみせ丸・・・動静監視不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三なごや丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二すみせ丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第三なごや丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三なごや丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月1日15時05分
 愛知県知多半島羽豆岬南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二すみせ丸 油送船第三なごや丸
総トン数 5,468トン 114.67トン
全長 117.78メートル 27.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,884キロワット 147キロワット

3 事実の経過
 第二すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は、専らセメントの国内輸送に従事する、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか7人が乗り組み、ばら積みセメント5,062トンを載せ、船首5.41メートル船尾7.03メートルの喫水をもって、平成15年7月1日13時20分愛知県三河港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、出航操船に引き続いて船橋当直に当たり、B受審人を操船の補佐に、甲板部員を操舵に就けて渥美湾及び中山水道を西行し、14時51分尾張野島灯台から135度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、針路を270度に定め、機関を回転数毎分193にかけ、プロペラ翼角を15.6度として、12.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 14時52分半少し過ぎA受審人は、船橋前面中央に設置されたジャイロコンパスレピーターの左舷側に立ち、周囲の見張りを行いながら操船に当たっていたところ、右舷船首45度2.1海里のところに南下する第三なごや丸(以下「なごや丸」という。)を初めて認め、その後同船の方位が右方に変化していくのを確認した。
 B受審人は、A受審人がなごや丸を初認したとき、3海里レンジとしていたレーダーで同船を探知し、目視による見張りを併用して同船の方位が右方に変化していくのを確認するとともに、同人からの指示を受けて、レーダーで同船との距離を測定して報告した。
 15時00分半A受審人は、羽島灯標から179.5度2.4海里の地点に達し、名古屋港方面に向け計画針路に沿って298度に右転した際、なごや丸が右舷船首30度1,680メートルになり、その後同船の方位が明確に変化せず、衝突のおそれのある態勢で接近したが、それまで同船の方位が右方にはっきりと変わっていたことから、そのまま前路を横切って航過できると思い、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなど、同船の進路を避けずに続航した。
 B受審人は、針路を298度に転じたのち、なごや丸の方位が明確に変化しなくなったのでかなり接近すると思い、その旨A受審人に報告した。
 A受審人は、B受審人から報告を受けても、依然としてその前路を横切ることができると考え、15時04分少し前同船が右舷船首27度330メートルになったとき、航過距離を広げるつもりで針路293度を令したものの、危険を感じて左舵一杯としたが及ばず、15時05分羽島灯標から202度2.2海里の地点において、すみせ丸は、250度に向首し、10.5ノットの速力になったとき、その右舷後部になごや丸の右舷船首が前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は小雨で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で視界は良好であった。
 また、なごや丸は、主として伊勢湾及び三河湾において重油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、C受審人及び機関長が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同日13時30分愛知県衣浦港を発し、名古屋港に向かった。
 ところで、C受審人は、発航から入港まで数時間程度の近距離運航を繰り返していたので、機関長と船橋当直を分担しないで自ら同当直に当たることとしており、時折、船舶が輻輳(ふくそう)していない広い海域で機関長を手動操舵に就けることがあったが、その場合も、在橋して操船に当たっていた。
 発航後、C受審人は、単独の船橋当直に当たって知多半島東岸沖合を南下し、師崎水道付近で操業していた漁船を適宜避航したあと、14時49分少し過ぎ羽島灯標から140度1,570メートルの地点で、針路を225度に定め、機関を回転数毎分670にかけ、7.5ノットの速力として手動操舵により進行した。
 定針して間もなくC受審人は、折から昇橋した機関長を手動操舵に就け、右舷前方に数隻の漁船が存在していたので、船橋右舷側出入口付近でそれらの漁船を監視した。
 15時00分半C受審人は、羽島灯標から190.5度1.7海里の地点に達したとき、すみせ丸を左舷船首77度1,680メートルに認めることができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、右舷前方に存在していた漁船に気を取られて左方の見張りを十分に行わなかったので、左舷側から接近するすみせ丸に気付かないまま続航した。
 15時04分少し前C受審人は、すみせ丸が避航動作をとらないまま左舷船首80度330メートルに接近したが、依然として見張り不十分で、警告信号を行わず、機関を使用して減速するなど、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、15時04分半操舵用コンパスからふと顔を上げた機関長が、至近に迫ったすみせ丸を認めて大声を上げたので同船に気付き、機関長と操舵を交代して急ぎ左舵一杯とし、機関を後進にかけたが及ばず、なごや丸は、140度に向首し、5.5ノットの速力になったとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、すみせ丸は、右舷後部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、なごや丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、愛知県知多半島羽豆岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、名古屋港に向けて西行するすみせ丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るなごや丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下するなごや丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、愛知県知多半島羽豆岬南方沖合において、名古屋港に向けて西行中、南下するなごや丸を右舷船首方に認め、計画針路に沿って右転した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針前に同船の方位が右方に変わっていたことから、そのまま前路を横切って航過できると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、速やかに右転するなど、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、すみせ丸の右舷後部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ、なごや丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、愛知県知多半島羽豆岬南方沖合において、名古屋港に向けて南下する場合、左舷側から接近する他船を見落とすことのないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方に存在していた漁船に気を取られ、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側から接近するすみせ丸に気付かず、警告信号を行わず、機関を使用して速力を減じるなど、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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