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平成16年横審第12号
件名

漁船千鳥丸漁船第2大三丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(中谷啓二、西田克史、小寺俊秋)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:千鳥丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:第2大三丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
千鳥丸・・・船底に破口の損傷
第2大三丸・・・右舷後部外板及び操舵室右舷側壁を破損、船長が左下腿切断、左骨盤骨折などの重傷

原因
千鳥丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作、新たな衝突のおそれ)不遵守(主因)
第2大三丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、千鳥丸が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢の第2大三丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第2大三丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月4日07時00分
 茨城県那珂湊港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船千鳥丸 漁船第2大三丸
総トン数 4.90トン 1.66トン
登録長 11.62メートル 7.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 220キロワット 40キロワット

3 事実の経過
 千鳥丸は、後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ひらめ一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年11月4日05時55分茨城県那珂湊港を発し、同港の東北東沖約5海里の漁場に向かった。
 A受審人は、途中、漂泊して釣餌にするあじを釣り、06時55分漂泊を終え、那珂湊港外東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から060度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点を発進し、同地点付近の漁船を避航した後、同時57分同灯台から056度2,040メートルの地点で、針路を068度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室後方に設置している台の上に立ち、同室屋根越しに前方を見張る姿勢で進行した。
 06時59分少し前A受審人は、東防波堤灯台から059度2,670メートルの地点で、低速力で南下中の第2大三丸(以下「大三丸」という。)を右舷船首11度450メートルに認め、一べつして同船が北方に向首して前路を左方に横切るように見えたことから、その船尾を替わすつもりで舵を手動操舵に切り替え、針路を098度に転じたところ、そのまま進行すれば大三丸の前方を無難に航過する態勢になり、その後同船の進行方向に注意を払わず続航した。
 06時59分半A受審人は、大三丸の方位が左舷船首35度に変わり、距離が190メートルになったとき、同船が南下中であり、左転して原針路に復すと同船前路に接近し、衝突のおそれが生じることが分かる状況であったが、大三丸が北上しているものと思い込み、その進行方向を確かめるなど動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を068度に戻し、同船に対し新たな衝突のおそれを生じさせた。
 原針路としたときA受審人は、左舷船首方に大三丸を認め、依然、その動静を確かめないまま同船は北方に離れていくと即断して舵を自動操舵とし、後部甲板で漁の準備を始めるにあたりレーダーで他船の有無を確かめることとして操舵室内に入りその調整を始め、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、突然、衝撃を感じ、千鳥丸は、07時00分東防波堤灯台から063度3,080メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が大三丸の右舷後部に前方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、大三丸は、ほぼ中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、ひらめ引き釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時30分茨城県那珂湊漁港平磯地区を発し、同時40分ごろ同地区東方沖の漁場に至って操業を始めた。
 B受審人は、両舷に出した竿で釣り糸を引いてゆっくり旋回を繰り返した後、釣果が思わしくなかったことから、那珂湊港東方沖の漁場に移動することとし、06時50分東防波堤灯台から055度3,270メートルの地点で、針路を173度に定め、機関を微速力前進にかけ、1.5ノットの速力で、操舵室後方の操縦位置に立って同室屋根上に顔を出した姿勢で、釣り糸を引いたまま手動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は、付近に他船を見かけなかったことから、その後専ら前路遠方を見て続航し、06時59分少し前東防波堤灯台から062度3,100メートルの地点に達したとき、右舷正横前4度450メートルのところに、前方を無難に替わる態勢で東行中の千鳥丸を視認でき、同時59分半右舷船首70度190メートルに近づいた千鳥丸が左転し、衝突のおそれを生じさせて前路に接近したが、依然、付近に他船はいないものと思い、左右を見るなど周囲の見張りを十分に行わなかったので、千鳥丸に気付かず、機関を停止するなり右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中、07時00分わずか前右舷側至近に迫った同船に気付いたものの、どうすることもできず、大三丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、千鳥丸は、船底に破口を生じ、大三丸は、右舷後部外板及び操舵室右舷側壁を破損し、B受審人が、左下腿切断、左骨盤骨折など重傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、茨城県那珂湊港沖合において、千鳥丸が、漁場に向けて東行中、転針後、動静監視不十分で、原針路に復した際、無難に航過する態勢で南下する大三丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、大三丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、茨城県那珂湊港沖合を東行中、前路に大三丸を認め、転針して進行する場合、原針路に復す際に同船と衝突のおそれが生じることがないか判断できるよう、その進行方向を確かめるなど同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大三丸が北上しているものと思い込み、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれが生じることに気付かず、原針路に復し、無難に航過する態勢で南下していた大三丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせ、同船との衝突を招き、千鳥丸の船底に破口を、大三丸の右舷後部外板及び操舵室右舷側壁に破損をそれぞれ生じさせ、B受審人に、左下腿切断、左骨盤骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、茨城県那珂湊港沖合において、南下して漁場を移動する場合、衝突のおそれを生じさせて前路に接近する千鳥丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千鳥丸に気付かず、機関を停止するなり右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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