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平成15年横審第104号
件名

貨物船ほっかいどう丸漁船第三十八 八秀丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人C〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二、岩渕三穂、小寺俊秋)

受審人
A 職名:ほっかいどう丸船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:第三十八八秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ほっかいどう丸・・・左舷船首部に擦過傷
第三十八 八秀丸・・・左舷側のブルワークが変形するとともに左舷船側外板に亀裂、船首マスト及びレーダーマストが曲損、乗組員2人が、腰部などにいずれも全治1週間の加療を要する打撲傷

原因
第三十八 八秀丸・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ほっかいどう丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三十八 八秀丸が、前路を左方に横切るほっかいどう丸に対し、大幅に避航動作をとらないで、その進路を避けなかったことによって発生したが、ほっかいどう丸が、動静監視不十分で、適切な避航動作をとっていないことが明らかな第三十八 八秀丸に対し、警告信号を行わず、直ちに衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月1日16時57分
 房総半島東岸沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ほっかいどう丸 漁船第三十八 八秀丸
総トン数 12,526トン 19トン
全長 199.95メートル 21.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 47,660キロワット 559キロワット

3 事実の経過
 ほっかいどう丸は、京浜港東京区、北海道苫小牧港間の定期貨物運送に従事し、両港間を20ないし21時間で航行する船首船橋型の自動車渡船で、2機2軸、可変ピッチプロペラ、サイドスラスタ2機及びフィンスタビライザを備え、船首端から船橋前面までの水平距離が31メートルで、航海船橋甲板が満載喫水線上21.6メートルのところにあり、海上試運転成績書によれば、最大航海速力30.74ノット、最短停止距離1,466メートル、船体停止までの所要時間3分10秒で、最大航海速力で航行中に舵角35度をとったときの旋回性能は、左旋回が最大縦距834メートル、横距579メートルで、右旋回がそれぞれ818メートル、566メートルであった。そして、同船は、A受審人ほか11人が乗り組み、自動車運転手4人を乗せ、車両122台を積載し、船首6.69メートル船尾6.53メートルの喫水をもって、平成15年2月28日23時25分苫小牧港を発し、京浜港東京区に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、航海士と操舵手の2人が入直する3直4時間交替制とし、自らは入出港時と東京湾航行中に操船を指揮するほか、当直者が夕食を摂る間、単独で同当直にあたっていた。
 発航後A受審人は、機関を回転数毎分415、プロペラ翼角を31.5度として平均速力28.6ノットで航行し、翌3月1日14時43分犬吠埼東方4.1海里の地点を通過し、その後折からの強い南風と北東方に流れる黒潮のため速力が低下したので入港予定時刻に遅れないようプロペラ翼角を32度とし、フィンスタビライザを使用して横揺れを減じながら房総半島東岸沖合を西行した。
 16時45分A受審人は、鴨川灯台から116度(真方位、以下同じ。)7.7海里の地点で昇橋し、船橋当直中の三等航海士と操舵手を食事に赴かせて単独で同当直に就き、日没前であったものの所定の航海灯を点灯し、針路を同航海士から引き継いだ238度に定め、プロペラ翼角を32度のまま、折からの強い南風と黒潮に抗し、右方に2度ばかり圧流されるとともに、ヨーイングで5ないし10度船首が左右に振れながら、25.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)及び240度の対地針路で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、1号レーダーを6海里レンジ、2号レーダーをオフセンターの3海里レンジとし、操舵室前面中央の窓の後方に立ち、同室中央右舷寄りに設置された各レーダーのところに時々移動してその映像を見ながら、主に目視によって見張りにあたった。
 16時54分少し前A受審人は、鴨川灯台から145度6.3海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首1度2.0海里に第三十八 八秀丸(以下、「八秀丸」という。)の映像を探知するとともに、波間に見え隠れする同船の白い船体を初認し、その動向を判断するため自動衝突予防援助装置(以下、「アルパ」という。)が組み込まれた1号レーダーを監視したものの、同船の映像が連続して映らなかったことからその針路、速力を確かめることができず、双眼鏡を使用し、八秀丸が右舷側を見せ前路を右方に横切る態勢で北東進する小型の漁船であることを知った。
 その後A受審人は、八秀丸の方位がわずかに右方に変わるものの、明確な方位変化が認められず、両船がそのまま進行すれば、八秀丸が、自船の船首方約400メートルのところを横切り右舷側を80メートルで航過し、ヨーイング模様、自船の船型及び速力から両船間に衝突のおそれがあると認められる態勢で接近したが、双眼鏡で見た八秀丸の視認模様から前路を無難に航過するものと思い、ヨーイングで絶えず船首が左右に振れる状況下、コンパスやレーダーによって注意深く方位変化を確かめるなど同船に対する動静監視を十分に行わず、このことに気付かないまま続航した。
 16時55分半少し前A受審人は、八秀丸が右舷船首1度1.0海里となったとき、避航船である同船が、自船から十分に遠ざかるため、大きく右転するなどの適切な避航動作をとっていないことが明らかな状況であったが、依然前路を無難に航過するものと思い、八秀丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、自船の操縦性能を考慮し、直ちに大きく右転するなどの衝突を避けるための動作をとることもしないで、同じ針路、速力のまま進行した。
 16時56分少し過ぎA受審人は、八秀丸が1,000メートルに近づいたとき、初認時とほとんど方位が変わっていないことに気付いて衝突の危険を感じ、警告信号を行わないまま、手動操舵に切り換えて右舵一杯としたものの、強い南風により風上に切り上がる傾向が強くてなかなか右方に回頭せず、ほっかいどう丸は、原針路、原速力のまま進行中、16時57分鴨川灯台から157.5度6.4海里の地点において、その左舷船首部が八秀丸の左舷側外板に前方から2度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で、風力6の南風が吹き、波高は約4メートルで、潮候は上げ潮の初期にあたり、北東方に流れる約2.0ノットの黒潮があった。
 また、八秀丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、海面上の高さ約4メートルの操舵室が船体ほぼ中央に配置され、平成2年9月一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、同15年2月22日07時30分千葉県勝浦港を発し、八丈島西方の漁場で操業を行い、まぐろ約5トンを漁獲し、船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、越えて3月1日01時30分同島西南西方77海里の北緯32度44分東経138度17分の地点を発進し、勝浦港に向け帰途に就いた。
 漁場を発進後、B受審人は、乗組員を漁獲物の水揚げ準備などの作業にあたらせ、自ら単独で船橋当直に就いて、GPSに入力した目標地点に向け自動的に針路を設定する自動航法装置を使用して航行した。
 B受審人は、漁場発進前に3時間程度睡眠をとっていたものの、乗組員も操業に続く水揚げ準備などの作業で疲れており、平素10時間を超える船橋当直に慣れていたことから部下と交替しないまま、操舵室右舷後部に置いたいすに腰掛けて同当直にあたった。
 13時00分B受審人は、三宅島北北東方14海里の北緯34度20分東経139度39分の地点に達したとき、目標地点を勝浦港入口に設定して北上し、16時40分鴨川灯台から180度8.2海里の地点で、沿岸の浅礁を迂回して南方から同港に接近するため、自動航法装置の目標地点を同港沖合に定めたあと、ジャイロコンパスで針路が050度となっていることを確認し、折からの強い南風と黒潮に乗じ、左方に4度圧流されるとともにヨーイングで船首が5度ばかり左右に振れながら、12.0ノットの速力及び046度の対地針路で進行した。
 B受審人は、操舵室右舷側前部に設置された1号レーダーを6海里レンジ、同室左舷側後部に設置された2号レーダーを3海里レンジとし、いすに腰掛けたまま、約1メートル離れた1号レーダーを時々見ていたところ、16時47分少し過ぎ鴨川灯台から172度7.3海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首6度6.0海里にほっかいどう丸の映像を探知するとともに肉眼で同船を初認し、間もなく050度の針路のまま自動航法装置から自動操舵に切り換え、同時52分少し過ぎ同船を右舷船首7度3.0海里に認めるようになり、レーダー映像の航跡を見て自船の2倍ほどの速力で西行する反航船であることを知り、ヨーイングで船首が左右に振れる状況下、コンパスによって注意深く方位変化を確かめないまま、その動向に留意しながら続航した。
 16時54分少し前B受審人は、鴨川灯台から162度6.6海里の地点で、左舷側を見せているほっかいどう丸を右舷船首7度2.0海里に見るようになり、その後同船の方位がわずかに右方に変わるものの、明確な方位変化が認められず、衝突のおそれがある態勢で接近した。
 16時55分半少し前B受審人は、ほっかいどう丸が右舷船首9度1.0海里となったとき、それまで何とか同船の前路を横切ることができると考えていたものの、右方への方位変化が小さく衝突のおそれがあることを知り、その進路を避けて左舷対左舷で航過することとしたが、同船を正船首より左舷側に見れば航過できるものと思い、大きく右転するなど、大幅に避航動作をとらないで、同船の進路を避けることなく、自動操舵の針路設定つまみを回して060度に転じ、同船を左舷船首1度に見るようになったものの、引き続き左方に4度圧流されて056度の対地針路となり、依然衝突のおそれがある態勢のまま進行した。
 転針後間もなくB受審人は、僚船から船舶電話がかかったので、いすから下りて操舵室前部右舷側に設置された受話器を取り、ほっかいどう丸の接近模様を確かめないで右舷側を見て通話していたことから、間近に迫った同船に気付かず、大きく右転するなどの措置をとらないまま続航中、八秀丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、僚船との通話を終えたとき強い衝撃を感じ、左舷側を振り向いてほっかいどう丸と衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、ほっかいどう丸は、左舷船首部に擦過傷を生じたのみで、八秀丸は、左舷側のブルワークが変形するとともに左舷船側外板に亀裂が生じ、船首マスト及びレーダーマストが曲損した。また、八秀丸の乗組員2人が、腰部などにいずれも全治1週間の加療を要する打撲傷を負った。

(航法の適用)
 本件は、海上交通安全法及び港則法の適用海域外である房総半島東岸沖合約6海里で発生したもので、海上衝突予防法によって律すべき事案であることは明らかである。
 両船は、いずれも航行中の動力船であり、衝突の3分半前に距離2海里で互いに視認し、そのときの両船の針路交角は8度で、両船は、いずれも強風によって風下に圧流されるとともにヨーイングで船首が数度振れながら接近し、ほっかいどう丸が八秀丸をほとんど船首方向の左舷船首1度に認めていたものの、八秀丸が右舷船首7度にほっかいどう丸の左舷側を見る状況であったことから、真向かい又はほとんど真向かいに行き会う状況にあたらず、八秀丸がほっかいどう丸の前路を横切る態勢であったものと認められる。
 両船間に衝突のおそれがあったか否かという点については、両船が、2海里で互いに相手船を視認してから1海里に接近するまでの2分弱の間に方位が右方に2度変化し、また、八秀丸がほっかいどう丸の前路400メートルを横切り航過距離80メートルで替わる状況は、両船のヨーイング模様、ほっかいどう丸の船型及び速力から無難に航過する態勢であったとは認められない。さらに、目視によってほっかいどう丸の動静を監視していた八秀丸側が、1海里に接近したときほっかいどう丸の前路を横切るのは近過ぎると判断し、左舷を対して航過するため針路を右転した事実から、明らかに両船間に衝突のおそれがあったものと認められる。
 当時、付近に避航船の避航動作もしくは保持船の針路速力の保持義務を妨げるような第3船や浅瀬などの障害は存在せず、八秀丸が、有効な避航動作をとるのに必要な時間的、距離的な余裕があったものと認められるので、両船に対し、海上衝突予防法第15条に定める横切り船の航法を適用するのが相当である。 

(原因)
 本件衝突は、房総半島東岸沖合において、両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行する八秀丸が、前路を左方に横切るほっかいどう丸に対し、大幅に避航動作をとらないで、その進路を避けなかったことにより発生したが、高速力で西行中のほっかいどう丸が、動静監視不十分で、適切な避航動作をとっていないことが明らかな八秀丸に対し、警告信号を行わず、直ちに衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、房総半島東岸沖合を千葉県勝浦港に向け東行中、右舷船首方に前路を左方に横切る態勢で接近するほっかいどう丸を認め、その方位変化が小さく衝突のおそれがあることを知った場合、強い南風と高波により左右にヨーイングしながら風下に圧流される状況であったから、大きく右転するなど、大幅に避航動作をとって同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかし、同人は、ほっかいどう丸を正船首より左舷側に見れば航過できるものと思い、大幅に避航動作をとらないで、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢のまま進行して同船との衝突を招き、ほっかいどう丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、八秀丸の左舷側ブルワークを変形させるとともに左舷船側外板に亀裂、船首マスト及びレーダーマストに曲損を生じさせ、また、八秀丸の乗組員2人に全治1週間の加療を要する打撲傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、房総半島東岸沖合を高速力で西行中、左舷船首方に前路を右方に横切る八秀丸を認めた場合、強い南風と高波により左右にヨーイングしながら風下に圧流される状況であったから、衝突のおそれの有無及び同船が適切な避航動作をとっているかどうか判断できるよう、コンパスやレーダーによって注意深く方位変化を確かめるなどして同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、双眼鏡で見た同船の視認模様から前路を無難に航過するものと思い、八秀丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で接近すること及び適切な避航動作をとっていないことに気付かず、警告信号を行わず、自船の操縦性能を考慮し、直ちに大きく右転するなどの衝突を避けるための動作をとらないまま進行して八秀丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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