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平成15年横審第98号
件名

漁船宝徳丸プレジャーボート中村丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂、小寺俊秋、浜本 宏)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:宝徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:中村丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
宝徳丸・・・船首部に擦過傷
中村丸・・・船体中央部を大破して沈没し、のち全損処理、船長が2週間の安静加療を要する左下腿打撲等の負傷

原因
宝徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
中村丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、宝徳丸が、見張り不十分で、錨泊中の中村丸を避けなかったことによって発生したが、中村丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月26日13時45分
 千葉県銚子港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船宝徳丸 プレジャーボート中村丸
総トン数 4.51トン  
登録長 9.49メートル 5.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   51キロワット
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 宝徳丸は、船首に突き出し部、船尾に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人(昭和57年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、ひき網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年6月26日02時45分千葉県銚子港を発し、同港沖合の漁場で操業を行い、11時45分帰航の途に就いた。
 ところで、宝徳丸は、操舵室後部入り口に船横に木製の踏み板を渡し、その上に立って操船するようになっていたが、航海速力の13ノットで航行すると、船首浮上により突き出し部で見通しが妨げられ、正船首方向の左右各8度ばかりに死角を生じていた。
 A受審人は、13時20分銚子港第2ふ頭に着岸係留して漁獲物を水揚げ後、同時28分銚子大橋の1キロメートルほど上流にある係留地に向け発進し、導流堤内を6.0ノットの対地速力で航行して同港第2漁船だまりの切り通しから利根川本流に入り、同時41分半銚子港第2漁船だまり河堤灯台から314度(真方位、以下同じ。)70メートルの地点に達したとき、針路を橋梁下可航水域の左右側端を示す銚子大橋橋梁灯(R1灯)(以下「R1灯」という。)と同橋梁灯(L1灯)との中間に向く274度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、正船首方1,360メートルに錨泊中の中村丸を視認することができたものの、見張りを十分に行わなかったので同船に気付かなかった。
 13時43分少し過ぎA受審人は、中村丸が正船首方650メートルとなり、錨泊中の形象物を掲げていなかったものの、東北東に船首を向けて錨索を延ばし、方位の変わらない状態などから錨泊していることが分かる状況で、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船の錨泊地点付近は漁船などの航路筋になっていてこれまで錨泊船を見かけなかったことから、前路に中村丸はいないものと思い、身体を左右に移動するなどの死角を補う見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、同船を避けないまま、船尾係船索を片付けるために操舵位置を離れた。
 A受審人は、船尾で片付け作業中にほぼ直進し、13時45分少し前同作業を終えて操舵位置に戻り続航中、宝徳丸は、13時45分R1灯から110度80メートルの地点において、同一針路、速力で、その船首が中村丸の右舷中央部に、前方から26度の角度で衝突し、これを乗り切った。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、船体に衝撃を受けて衝突に気付き、事後の措置にあたった。
 また、中村丸は、長さ5.4メートルのFRP製プレジャーボートで、B受審人(平成3年7月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日13時10分茨城県波崎漁港を発し、銚子大橋付近の釣場に向かった。
 B受審人は、13時15分前示衝突地点に至って機関を停止し、船首から重さ約5キログラムの片爪錨を水深約3メートルの海底に投下し、直径18ミリメートルのナイロンロープを20メートルほど延出して船首クリートに係止し、折からの風潮流により船首が068度を向いた状態で錨泊した。
 B受審人は、錨泊中であることを示す形象物を掲げず、右舷中央部から2本、右舷船尾部から1本の各釣竿を出し、船体中央部に折り畳み式椅子を置き、腰を掛けて釣りを始めた。
 13時40分ごろB受審人は、数隻の漁船が自船から30メートルほど離れて通過したとき、その中の1隻がここで釣りをするのは危険であると手振りを混じえて声を掛けてきたところ、よく聞き取れないまま釣りを続け、同時44分少し過ぎ右舷船首26度300メートルに、自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する宝徳丸を初認したが、そのうちに他の漁船と同様に自船を避けていくものと思い、ちょうど魚信のあった船尾の釣竿に移動したので、その後宝徳丸の動静監視を十分に行うことなく、同船が自船を避けずに接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに錨索を解き船外機を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく錨泊中、中村丸は、068度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝徳丸は船首部に擦過傷を生じ、中村丸は船体中央部を大破して沈没し、のち引き揚げられて全損処理され、B受審人が2週間の安静加療を要する左下腿打撲等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、利根川の銚子大橋付近において、宝徳丸が、見張り不十分で、錨泊中の中村丸を避けなかったことによって発生したが、中村丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、単独で操船に当たり、利根川の銚子大橋付近を係留地に向け遡上帰航する場合、船首方の見通しに死角を生じていたのであるから、前路で錨泊中の中村丸を見落とすことのないよう、身体を左右に移動するなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで銚子大橋付近の航路筋において錨泊船を見かけなかったことから、前路に中村丸はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、宝徳丸の船首部に擦過傷を生じさせ、中村丸の船体中央部を大破して沈没させ、B受審人に2週間の安静加療を要する左下腿打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、利根川の銚子大橋付近において錨泊して魚釣り中、自船に向首接近する宝徳丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに他の漁船と同様に自船を避けていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、宝徳丸が自船を避けずに接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに錨索を解き船外機を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、前示の損傷及び沈没を生じさせ、自身も負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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