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平成16年仙審第18号
件名

漁船第8早取丸消波ブロック衝突事件
第二審請求者〔理事官 今泉豊光〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月29日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第8早取丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第8早取丸漁ろう長

損害
球状船首及び船尾船底外板に凹損等の損傷

原因
操船(入港操船の人的配置)不適切

主文

 本件消波ブロック衝突は、入港操船の人的配置が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月29日01時30分
 青森県八戸港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第8早取丸
総トン数 14.98トン
全長 20.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 95キロワット

3 事実の経過
 第8早取丸(以下「早取丸」という。)は、小型機船底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、平成12年6月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人、B指定海難関係人ほか4人が乗り組み、ヒラメなどを獲る目的で、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成15年5月27日03時00分青森県八戸港を発し、06時30分同港北東方沖合の漁場に至って操業を繰り返し、漁獲物約4トンを得て翌々29日00時30分鮫角灯台から036度(真方位、以下同じ。)7.4海里の地点を発進して帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、早取丸を操船するに当たり、従来からの慣習もあって港から漁場までは自ら操船するが、操業中は主としてB指定海難関係人に操船を任せ、引き網を巻くときには乗組員が交替で船橋当直に就き、その間、同指定海難関係人に休息をとらせていた。また、同受審人は、水揚港の近くで操業を行って帰港するときには、自身も他の乗組員とともに漁獲物の整理作業に当たることになっていたことから、入港操船を含めた水揚港までの操船も同指定海難関係人に任せていた。
 また、早取丸は、漁獲物の整理作業を行う際、500ワットの作業灯を、フライング甲板に2個、及び右舷側のウイング前部に1個それぞれ前部作業甲板を照らすように点灯していた。このため、船橋からの見張りが妨げられるばかりか、特に霧が発生しているときなどには、その灯火が霧に反射して周囲の見張りが著しく妨げられる状況となっていた。
 01時25分A受審人は、霧が発生して視界が制限される状況下、八戸港外港中央防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から111度1,800メートルの地点で、八戸港の港域内に入ったが、B指定海難関係人が入港操船の経験が十分あるので、操船を同人に任せておいても大丈夫と思い、速やかに昇橋して自ら操船の指揮をとることなく、漁獲物の整理作業を続けた。
 B指定海難関係人は、今回の操業が八戸港に近い漁場であったことから、慣習どおり、漁場発進時から船橋当直に当たり、針路を八戸港の中央防波堤と第2中央防波堤の間に向く227度に合わせ、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、舵輪の前に立った姿勢で、3個の作業灯を点灯したまま、周囲の見張りが十分に行えない状態で、自動操舵により進行した。
 B指定海難関係人は、八戸港の港域に入域したが、何回も入港操船を自ら単独で行っているので大丈夫だろうと考え、平素のとおり、A受審人に昇橋を求めて同人の指揮を仰がないまま続航した。
 01時28分少し前B指定海難関係人は、北灯台から134度1,620メートルの地点に達したとき、正船首方に防波堤工事のために設置された灯浮標の灯火を視認したが、そのころ操業灯を点灯した出漁中のイカ釣り船を数隻認めたこともあって、これらを左舷側に替わすこととして右転を始めた。
 01時29分半B指定海難関係人は、無難にイカ釣り漁船群と灯浮標を左舷側に替わしたものの、しばらく同漁船群に気を奪われていたので、右転し過ぎたものと思い、急いで左舵とったが、間に合わず、01時30分北灯台から153度1,500メートルの地点において、原速力のまま、その船首が中央防波堤の消波ブロックに衝突した。
 当時、天候は霧で風力1の南西風が吹き、潮候は高潮時に当たり、視程は約500メートルであった。
 衝突の結果、球状船首及び船尾船底外板に凹損等を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件消波ブロック衝突は、夜間、青森県八戸港において、漁場から帰港するにあたって同港域内に入域した際、入港操船の人的配置が不適切で、操船が適切に行われなかったことよって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、青森県八戸港において、操業を終えて漁場から帰港するに当たり、同港域内に入域した場合、自ら入港操船の指揮がとれるよう、入港操船の人的配置を適切にしておくべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から慣習として水揚港の近くで操業したときには、入港操船を含めた操船をB指定海難関係人に行わせており、同人が入港操船の経験が十分あるので、操船を任せておいても大丈夫と思い、入港操船の人的配置を適切にしておかなかった職務上の過失により、従来どおり、B指定海難関係人に操船を任せたまま、港域内に入域後も昇橋して自ら操船の指揮をとらず、他の乗組員とともに漁獲物の整理作業に当たり、B指定海難関係人が操業灯を点灯して出漁中のイカ釣り漁船群を避けるために転舵し、その後、同漁船群に気を奪われたまま進行して消波ブロックとの衝突を招き、球状船首及び船尾船底外板に凹損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、青森県八戸港の港域内に入域した際、速やかにA受審人の昇橋を求めて操船の指揮を仰がず、単独で操船を続けたことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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