(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月30日09時40分
新潟県岩船港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十八満漁丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
3 事実の経過
第五十八満漁丸(以下「満漁丸」という。)は、日本海全域と岩手県沖合以北を操業海域とし、一本釣り漁業に従事する軽合金製漁船で、平成12年8月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、イカを獲る目的で、船首1.20メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成15年6月28日土曜日の12時00分新潟県岩船港を発し、佐渡島弾埼灯台の北方10海里ばかりの漁場に至って操業を始め、翌々30日04時20分漁獲物1,650キログラムを得て、同灯台から003度(真方位、以下同じ。)30.2海里の漁場を発進して帰途に就いた。
A受審人は、発進するにあたり、針路をほぼ岩船港第2西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)に向く134度に定め、機関を全速力前進にかけて10.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
単独の船橋当直に就いたA受審人は、04時50分ごろ強い眠気を感じたので、レーダーの衝突予防装置の電源を入れてこれを作動させ、舵輪の後方に置いた背もたれ付きいすに腰をかけ、岩船港に向かって先行する僚船に追随しながら続航した。
ところで、A受審人は、操業中には平均して3時間から4時間の睡眠時間をとれていたが、漁場から岩船港に入港すると休む間もなくせりが始まるので、漁獲物の水揚げを終えると氷や発泡スチロール製のイカ箱などを積み込み、再び出漁するという作業の繰り返しであった。そのため、岩船港の魚市場では毎週土曜日を休日としていることもあって、その日を休漁日としていたものの、曜日が進むに連れて疲労が蓄積する状況にあった。
08時43分半A受審人は、西防波堤灯台から313.5度10.0海里の地点に達したとき、満漁丸が岩船港港口に10海里まで接近したので、いったんいすから立ち上がってレーダーで周囲の状況を見張り、自船にとって問題となる他船が存在しないのを確認したのち、作動中のレーダーの衝突予防装置の電源を切り、自身の体調から再び睡魔に襲われるおそれがあったが、発進後に感じた強い眠気も取れていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、同装置の電源を切ったままとし、立った姿勢で操舵に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、再びいすに腰をかけて進行した。
こうして、満漁丸は、A受審人がいすに腰をかけて船橋当直中、再び睡魔に襲われ、いつしか居眠りに陥り、針路の修正が行われないまま続航中、09時40分西防波堤灯台から021度380メートルの第3西防波堤に、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果、船首部外板及び球状船首を圧壊するなどの損傷を生じたが、のち修理された。また、甲板員Bが頭皮挫創等を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、新潟県岩船港北西方沖合において、操業を終えて漁場から帰港する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港第3西防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新潟県岩船港北西方沖合において、操業を終えて漁場から帰港する際、発進後、強い眠気を感じてレーダーの衝突予防装置の電源を入れて航行中、いったん眠気が取れた場合、再び睡魔に襲われるおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、同装置の電源を入れたままとし、立った姿勢で操舵に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、背もたれ付きいすに腰をかけ、先行する僚船に追随しているうち、いつしか居眠りに陥り、針路の修正が行われないまま進行して第3西防波堤との衝突を招き、船首部外板圧壊及び球状船首圧壊等の損傷を生じさせ、甲板員に頭皮挫創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。