(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月22日13時58分
青森県野辺地湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海光丸 |
プレジャーボート隆丸 |
総トン数 |
1.5トン |
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全長 |
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3.21メートル |
登録長 |
8.01メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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2キロワット |
漁船法馬力数 |
25 |
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3 事実の経過
海光丸は、レーダーを装備しない、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、平成10年9月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、ワタリガニを獲る目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年6月22日13時47分青森県野辺地漁港を発し、同漁港北東方の有戸沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、機関回転数を毎分500にかけ、2.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、暖機運転を行いながら港口に向かい、13時50分野辺地漁港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から150度(真方位、以下同じ。)75メートルの地点に達したとき、針路を十符ヶ浦海水浴場の沖合200メートルばかりのところに築造された消波堤を160メートルばかり離すこととなる、049度に定めて手動操舵により進行した。
A受審人は、東防波堤を替わったあとも速力を保ったまま、立った姿勢で周囲の見張りに当たって続航し、間もなく、左舷方至近に緑色をしたゴムボートを認め、何をしているものかと同ボートに気を奪われながら進行した。
13時51分半A受審人は、北防波堤灯台から086度120メートルの地点に達したとき、前面のガラス窓から約90センチメートル(以下「センチ」という。)後方となる、舵輪の斜め後方に置いた魚箱に腰を下ろし、ゴムボートから目を離して前方の確認を行ったが、正船首方500メートルのところで船幅1.4メートルの正船尾を見せた錨泊中の隆丸を見落とし、前方には他船がいないものと思い込んで続航した。
ところで、操舵室前面にはガラス窓が2つ設けられ、その右舷側の窓に旋回窓が取り付けられてあり、旋回窓の下端と窓ガラスの下部枠との間のガラス部分が約12センチで、A受審人が魚箱に腰を下ろした状態では、同人の目線がこのガラス部分の中央付近となり、この狭いガラス窓を通して前方を確認することとなって前路の見張りが著しく妨げられる状況となっていた。
13時56分A受審人は、北防波堤灯台から058度455メートルの地点に達したとき、正船首155メートルのところに釣り竿を船外に出して釣りを行っている隆丸を視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近する状況となったものの、正船首方が死角となった状態のまま、魚箱に座って前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに隆丸を避けることなく続航した。
海光丸は、A受審人が死角の中に入った隆丸の存在に気付かないまま進行中、13時58分わずか前船首方から「オーイ」という声が聞こえ、右に首を傾げて前方を見ると隆丸の船尾が見えたので、機関中立、続いて全速力後進にかけたが、及ばず、野辺地漁港北防波堤灯台から056度605メートルの地点において、行きあしがほとんど停止したとき、原針路のまま、その船首部が隆丸の右舷船尾に後方から4度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、隆丸は、操舵室などのない露天状態の、FRP製和船型プレジャーボートで、平成12年10月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、息子と友人の2人を乗せ、アイナメを釣る目的で、船首0.15メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同日08時18分青森県の十符ヶ浦海水浴場を発し、前示衝突地点付近の釣り場に向かった。
08時20分B受審人は、釣り場に至り、錨の代用として重量約7キログラムのコンクリート製ブロック(以下「ブロック」という。)を化学繊維製の30メートルの錨索に結わえ、これを水深4メートルの地点で船首部から投下して錨泊状態とし、船首を風に立てて釣りを行い、釣れなくなると釣り場所を変えるために同ブロックを引き揚げて風下に移動し、100メートルばかり下がったところで、機関を使用して潮上りを繰り返しながら、竿釣りを続けた。
13時50分B受審人は、右舷船尾に左舷方を向いて座り、釣り竿を出して釣っていたとき、野辺地漁港から自船の方に向かって出港する海光丸を初認したが、そのうち同船が自船を避けてゆくものと思い、同船に対する動静監視を行うことなく竿釣りを続けた。
13時56分B受審人は、船首が風に立って045度を向いていたとき、正船尾方155メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する海光丸を視認できたものの、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けた。
隆丸は、13時58分わずか前B受審人が至近に迫った海光丸を認めたが、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海光丸は、損傷がなく、隆丸は、右舷船尾に破損を生じたが、のち修理された。また、B受審人は、海光丸の右舷前部外板に接触して骨盤骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、青森県野辺地湾において、海光丸が、見張り不十分で、錨泊中の隆丸を避けなかったことによって発生したが、隆丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、青森県野辺地湾において、単独で船橋当直に当たって漁場に向かう場合、前路で錨泊中の隆丸を見落とすことのないよう、港域を出てからも引き続き立った姿勢で当直に当たるなど前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、至近に存在したゴムボートに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、死角の中に入った隆丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、同船の右舷船尾に破損を生じさせ、B受審人に骨盤骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、青森県野辺地湾において、錨泊中、自船に向首する態勢で出港する海光丸を視認した場合、自船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、海光丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ同船が自船を避けて行くものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、後方から衝突のおそれがある態勢で接近する海光丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせ、自らも前示負傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。