(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月3日11時00分
岩手県八木港港外
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八富丸 |
漁船第三富士丸 |
総トン数 |
6.0トン |
0.98トン |
全長 |
15.23メートル |
5.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
264キロワット |
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漁船法馬力数 |
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30 |
3 事実の経過
第八富丸(以下「富丸」という。)は、たらはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成15年8月11日に交付された一級小型船舶操縦士の免許を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.45メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成15年9月3日10時55分岩手県八木港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かった。
ところで、富丸は、対地速力(以下「速力」という。)を7ノット以上に上げると船首が浮上して船首部に死角を生じ、更に航海速力の12.0ノットまで上げると船首部に片舷20度ばかりの死角を生じる構造の船であった。そのため、A受審人は、航行中、船首方の見張りを行う際、操舵室内の端から端まで幅20センチメートル厚さ3センチメートルの板を渡し、その中央部に支えを置いていす代わりとした板上に乗り、天窓から顔を出して前路の状況を確認するとか、操舵室横の出入口の引戸を開けて前路の見張りをするようにしていた。
10時56分半A受審人は、機関回転数を毎分700にかけ、4.6ノットの速力で舵輪後方に立って出港操船にあたり、八木港北港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から166度(真方位、以下同じ。)105メートルの地点で、船首を030度に向けていたとき、右舷船首22度995メートルのところに、第三富士丸(以下「富士丸」という。)を初認したが、そのころ左舷側至近に出漁中の第三船がいたので、同船の動向に気をとられていて、富士丸の動静監視を行うことなく進行した。
10時57分A受審人は、防波堤灯台から135度75メートルの地点に達したとき、針路を053度に定め、機関回転数を徐々に上げながら、自動操舵により続航していたところ、南港第1沖防波堤突端沖合に入港中の第三船も認め、その後、同船の動向にも注意を払いながら進行した。
10時58分A受審人は、防波堤灯台から070度250メートルの地点に達したとき、正船首710メートルのところに、漂泊中の富士丸を視認できたが、入港中の第三船に気を奪われ、このことに気付かず、富士丸を避けることなく続航した。
10時59分A受審人は、速力を12.0ノットまで上げ終えて進行中、正船首370メートルのところに、富士丸が存在したが、そのころ、たまたま左舷船首20度ばかりのところに、漂泊して一本釣り漁を行っている漁船を認め、同船を定針前に初認した富士丸と思い込み、船首部の死角に入った富士丸に気付かないまま続航した。
富丸は、A受審人が死角に入った富士丸に気付かないで進行中、11時00分防波堤灯台から057.5度955メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が富士丸の左舷船尾部に前方から82度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、富士丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、昭和59年5月11日に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、アイナメを釣る目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年9月3日10時00分八木港を発し、同港北東方沖合1,000メートルばかりの漁場に向かった。
10時05分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、機関を停止して船首からパラシュート型シーアンカーを投入し、その索を10メートルばかり繰り出して漂泊を始め、同時10分ごろ船外機の右側に設けた物入れの蓋に腰をかけ、右手で釣り糸を持って釣りを始めた。
10時58分B受審人は、船首が315度を向いた状態で漂泊していたとき、左舷船首82度710メートルのところに、自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する富丸を初認したが、漂泊中の自船を避けるものと思い、その後、同船に対する動静監視を行わず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく手釣りを続けた。
富士丸は、B受審人が富丸から目を離して手釣りを続け、11時00分わずか前至近に迫った同船を認めたが、どうする暇もなく前示のとおり衝突した。
衝突の結果、富丸は、推進器翼に欠損及び曲損を生じ、富士丸は、両舷船尾部外板に破口などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人が頭部外傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、岩手県八木港港外において、第八富丸が、動静監視不十分で、漂泊中の第三富士丸を避けなかったことによって発生したが、第三富士丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岩手県八木港港外において、漁場に向けて低速力で航行中、前路に漂泊中の第三富士丸を視認した場合、自船が速力を上げると船首部に死角を生じる船であったから、船首方で漂泊中の第三富士丸を見失うことのないよう、天窓から顔を出すなどして引き続き同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、至近に入港船が存在していたことから、同船に気を奪われ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、たまたま左舷方に視認した漁船を第三富士丸と思い込み、船首部の死角に入った同船に気付かず、原針路、原速力を保ったまま、第三富士丸を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船の推進器翼に欠損及び曲損を、第三富士丸の両舷船尾部外板に破口等を生じさせ、B受審人に頭部外傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、岩手県八木港港外において、漂泊して手釣りを行っていた際、自船に衝突のおそれがある態勢で向首接近する第八富丸を視認した場合、速やかに衝突を避けるための措置がとれるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近すれば漂泊中の自船を避けて行くものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、手釣りに専念したまま、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく手釣りを続けて第八富丸との衝突を招き、前示損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。