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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年長審第6号
件名

漁船大安丸漁船光漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦、山本哲也、藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:大安丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:光漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
大安丸・・・損傷ない
光漁丸・・・右舷側前部外板に破口を生じ、のち廃船、船長が右胸部及び右上腕の打撲傷

原因
大安丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
光漁丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大安丸が、見張り不十分で、停留中の光漁丸を避けなかったことによって発生したが、光漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月30日06時35分
 早崎瀬戸西口
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船大安丸 漁船光漁丸
総トン数 4.0トン 2.0トン
登録長 10.40メートル 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット  
漁船法馬力数   40

3 事実の経過
 大安丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和51年8月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成15年10月30日06時15分熊本県鬼池港を発し、所定の灯火を表示して早崎瀬戸西口の漁場に向かった。
 ところで、大安丸は、操舵室が船体中央部やや船尾寄りに設けられており、10ノット以上で航走すると船首が浮上し、操舵スタンド後方のいす(以下「いす」という。)に腰を掛けて操船に当たると、正船首方向左右各舷約15度の範囲に死角を生じるので、高さ約50センチメートルの踏み台を備えており、その上に立ち、操舵室の天窓(以下「天窓」という。)から顔を出すなり、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
 06時21分A受審人は、五通礁灯標から107度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点において、針路を293度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、14.5ノットの対地速力とし、いすに腰を掛けて手動操舵により進行した。
 06時33分A受審人は、五通礁灯標から095度1.5海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方900メートルのところに、船首を北東方に向けて停留している光漁丸を視認することができる状況であったが、定針後しばらくして、天窓から周囲を一瞥し、瀬詰埼灯台に向けて南下する2隻の小型船が存在するだけで、他の船舶は見当たらなかったことから、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、正船首方の光漁丸を見落とさないよう、天窓から顔を出すなり、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、その後、光漁丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、左転するなど、同船を避けることなく続航中、06時35分わずか前左舷船首方に光漁丸のスパンカ用の後部マストを認め、機関を全速力後進にかけ右舵一杯をとったが及ばず、06時35分五通礁灯標から085度1,800メートルの地点において、大安丸は、305度に向首したとき、原速力のまま、その船首が、光漁丸の右舷側前部に、前方から65度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好で、日出時刻は06時35分であった。
 また、光漁丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和51年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、タイ一本釣り漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時10分熊本県二江漁港を発し、周囲が明るくなり始めていたので、所定の灯火を表示しないまま早崎瀬戸西口の漁場に向かった。
 06時30分B受審人は、前示衝突地点付近に到着し、機関を停止して、操舵室後部の左舷甲板上に腰をおろし、左舷側を向いて手釣りを開始した。
 06時33分B受審人は、060度に向首していたとき、右舷船首53度900メートルのところに、西行中の大安丸を視認できる状況であったが、自船は停留中だから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、大安丸の存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、その後、大安丸が自船に向首したまま接近し、さらに同船が間近に迫ったとき、機関と舵を操作して、衝突を避けるための措置をとることもなく釣りをしながら停留中、060度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大安丸に損傷はなく、光漁丸は右舷側前部外板に破口を生じ、大安丸により鬼池港に引き付けられたが、のち廃船とされ、また、B受審人は、右胸部、右上腕の打撲傷などを負った。 

(原因)
 本件衝突は、日出直後、早崎瀬戸西口において、航行中の大安丸が、見張り不十分で、停留中の光漁丸を避けなかったことによって発生したが、光漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、日出直後、早崎瀬戸西口において、同付近の漁場に向け航行中、操船に当たる場合、船首が浮上して船首死角を生じた状態であったから、正船首方の光漁丸を見落とさないよう、天窓から顔を出すなり、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方には航行の妨げになる船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、光漁丸の存在と接近とに気付かず、左転するなど、同船を避けないまま進行して衝突を招き、光漁丸の右舷側前部外板に破口を生じさせて廃船に至らしめ、B受審人に右胸部、右上腕の打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、早崎瀬戸西口において、停留して釣りを行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は停留中だから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大安丸の存在と接近に気付かず、機関と舵を操作して、衝突を避けるための措置をとることもなく停留を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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