(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月16日09時56分
日向灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船眞聖丸 |
プレジャーボート昭耀丸 |
総トン数 |
498トン |
|
全長 |
77.86メートル |
8.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
735キロワット |
66キロワット |
3 事実の経過
眞聖丸は、主として国内各港間での穀物輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.70メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成15年4月15日19時20分関門港を発し、九州東岸沿いに鹿児島県種子島の島間港へ向かった。
A受審人は、船橋当直体制を0-4の時間帯を次席一等航海士、4-8を一等航海士、及び8-12を自らがそれぞれ立直者とする単独4時間3直制に定め、発航操船に引き続いて23時40分まで船橋当直に就いたのち、次席一等航海士に当直を引き継いで翌16日00時ごろから07時ごろまで就寝した。
08時00分A受審人は、宮崎県宮崎郡新富町東方の日向灘で一等航海士から船橋当直を引き継いで南下し、09時30分戸崎鼻灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で針路を186度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
09時45分A受審人は、鵜戸埼灯台から024度6.1海里の地点に達し、操舵室内の舵輪の船尾側に立っていたとき、正船首方4海里のところに北上する総トン数200トン程度の貨物船(以下「第三船」という。)を視認したのでその動静監視を行い、同船とは左舷を対して航過することとした。
09時53分A受審人は、鵜戸埼灯台から029.5度4.7海里の地点に達し、第三船まで1.1海里となったとき、右舷船首3度1,060メートルのところに黒色球形形象物を表示して錨泊している昭耀丸を視認できる状況であったが、双眼鏡で前路を一瞥したのみであったことから同船を見落としたまま5度右転した。
09時55分A受審人は、第三船と約80メートルで左舷を対して航過したとき、昭耀丸を左舷船首5度355メートルに認め得る状況であり、そのまま進行すれば同船を左舷方に約30メートル隔てて無難に航過する態勢であったが、右転するとき他船を認めなかったことから付近の前路に他船は存在していないものと思い、転針方向に対する見張りを十分に行うことなく、依然昭耀丸に気付かず、5度左転して原針路に復した。
こうしてA受審人は、原針路に復したとき、昭耀丸に向首して新たな衝突の危険のある状況を生じさせたが、このことに気付かず、転舵するなどして同船を避けることなく進行し、09時56分鵜戸埼灯台から032.5度4.1海里の地点において、眞聖丸は、原針路、原速力のまま、その球状船首部が昭耀丸の左舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その後A受審人は、衝突したことに気付かず目的地に向け航行中、海上保安庁からの無線連絡を受けて昭耀丸と衝突したことを知らされ、事後の措置に当たった。
また、昭耀丸は、一層甲板型の船体ほぼ中央部に操舵室を有し汽笛を装備しない、セルモータ始動式船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、昭和53年6月四級小型船舶操縦士の海技免状を取得したB受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.05メートル船尾0.79メートルの喫水をもって、平成15年4月16日07時00分宮崎県内海港を発し、同港南東方の釣り場に向かった。
B受審人は、最初イルカ岬沖で釣りを行ったのち釣果が良くなかったので釣り場を移動し、09時05分水深42メートルの前示衝突地点で、自ら製作した重量約7キログラムのステンレス製錨を、長さ2メートル・直径8ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス製鎖とこれに連結した長さ約80メートル・直径12ミリの合成繊維製錨索を使用して船首部から投下し、操舵室右舷前部角で甲板上170センチメートル(以下「センチ」という。)の位置(形象物の中心位置)に直径30センチの黒色の球形の形象物を掲げ、北方を向首して錨泊した。
錨泊後、B受審人は後部甲板に置いた釣り用クーラーの上に船尾方を向いた姿勢で腰を掛け、釣り竿1本を船尾から突き出して釣りを再開していたところ、09時50分船尾方0.7海里ばかりのところに第三船を初認し、同船が自船に向首して来るように感じてその動静に注意を払っていたので、同時53分船首方1,060メートルのところを南下中の眞聖丸に気付いていなかった。
09時54分ごろ第三船が自船の右舷方80メートルばかりのところを航過したので、B受審人は、船尾方を向いて安心して釣りを行っていたところ、同時55分眞聖丸が船首方355メートルにまで接近したとき、それまで自船の左舷方を約30メートル隔てて無難に航過する態勢であったものが左転したため、自船に向首して新たな衝突の危険のある状況となったが、たい釣りに没頭して、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、眞聖丸に対して避航を促す有効な音響による信号を行うことなく、更に接近するに及んで機関を始動して衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けた。
09時56分少し前、B受審人は、船首方に機関音を聞いたので中腰になって同方向を振り向いたとき、間近に迫った眞聖丸を初認して錨泊したまま直ちに機関を始動して右舵一杯をとったが及ばず、昭耀丸は、わずかな前進行きあしをもって016度を向首したとき前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝突後海中に投げ出されたが、負傷はなく、転覆した昭耀丸の船底に這い上がって救助を待ち、偶々(たまたま)通りかかった漁船に揚収され、海上保安庁に衝突したことを通報した。
衝突の結果、眞聖丸はほとんど損傷がなく、昭耀丸は左舷船首部に擦過傷、船底後部に小破口を生じて転覆したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、宮崎県沖の日向灘で、航行中の眞聖丸が、見張り不十分で、転針して錨泊中の昭耀丸に対し新たな衝突の危険を生じさせ、同船を避けなかったことによって発生したが、昭耀丸が、見張り不十分で、眞聖丸に対して避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたこともその一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、宮崎県内海港南東方の日向灘を南下中、第三船の避航を終えて原針路に復するため転針する場合、前路で錨泊中の昭耀丸を見落とさないよう、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は避航開始時、前路を一瞥して他船を認めなかったことから、転針方向に他船はいないものと思い、同方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、昭耀丸に気付かず、同船に対し新たな衝突の危険を生じさせ、転舵するなどして同船を避けることなく進行して衝突を招き、昭耀丸の左舷船首部に擦過傷、船底後部に小破口をそれぞれ生じさせて転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人が、宮崎県内海港南東方の日向灘で魚釣りのため黒色球形形象物を表示して錨泊中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、眞聖丸が本件発生の1分前に転針して昭耀丸に対し新たな衝突の危険のある状況を生じさせ、同船を避けなかったことが本件発生の主たる原因であることに徴し、B受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。