日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第4号
件名

プレジャーボート風水5漁船利丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人F〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、清重隆彦、織戸孝治)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:風水5船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:風水5航海長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
風水5・・・右舷船首に破口及び船底に擦過傷
利 丸・・・操舵室の流失、右舷船尾外板の圧壊、船尾外板に亀裂及び左舷船尾たつの折損等の損傷、船長が頭蓋骨粉砕骨折及び脳挫傷により死亡

原因
風水5・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
利 丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、風水5が、見張り不十分で、漂泊中の利丸を避けなかったことによって発生したが、利丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月27日11時00分
 山口県青海島北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート風水5 漁船利丸
総トン数 19トン 2.72トン
登録長 14.72メートル 8.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 884キロワット  
漁船法馬力数   40

3 事実の経過
 風水5は、英国で建造された2機2軸2舵のFRP製プレジャーモーターボートで、昭和62年3月に二級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が船長として、及び同49年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が航海長として乗り組み、同乗者2人を乗せ、遊走の目的で、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年9月27日07時30分C社が運営するプレジャーボート保管施設であるDを発し、山口県萩港にある萩マリーナに向かった。
 ところで、風水5は、操縦場所がキャビン内の船体中央部右舷側(以下「操舵室」という。)及びフライングブリッジ左舷側にあり、操船に必要な舵輪、自動操舵装置、機関遠隔操縦レバー及び航海計器類のコンソール並びにその後方に二人掛けの操縦席がそれぞれ同じ配置で設置され、押しボタンによって操縦場所を切り換えることができるようになっていた。同船のレーダーは、操縦席右側の舵輪の前に配置された自動操舵装置の左側に設けられていたが、コンソールが傾斜していて前部窓からの外部の明かりがレーダー画面に反射するため、昼間は使用できない状況であった。また、同船は、フライングブリッジでは周囲の見通しを妨げるものはなかったが、操舵室の操縦席に腰掛けた状態で、機関を全速力前進が回転数毎分2,400のところ1,800回転以上にかけて航走すると、船首が浮上して前方に水平線が見えなくなる死角(以下「船首死角」という。)が生じるものの、立ち上がる姿勢をとれば船首方約300メートル以上の視界を確保できる状況であった。
 A受審人は、同13年に風水5を所有して以来、自らが船長として毎週週末及び祝祭日などに運航しており、Dが企画した韓国クルーズに参加した折りには、外航手続等不慣れな面があったことからDの従業員であるB受審人を船長として乗船させることを明確にしていたものの、同15年4月までの同クルーズ以外の運航時には、いつもDに料金を支払って同受審人に針路、速力の設定などを助言する運航補佐としての乗船を依頼し、自らが船長として専ら操舵と機関操作を行いながら、2人で周囲の見張りに当たっていた。同月以降の運航時には、何回も航行経験があり、Dから1時間ないし2時間で往復できる慣れた海域を中心に、自ら船長として操船と周囲の見張りとに当たっていた。
 A受審人は、同年9月27、28両日にわたってDの主催で実施される萩クルーズと称する長距離クルージングイベントに、風水5のほか4艇とともに参加することにしたが、萩港までの水路事情が詳しくないこともあって約半年ぶりにB受審人に乗船を依頼し、同受審人に、針路、速力の設定などを助言する運航補佐と、参加各艇とのミーティングへの参加や連絡とに当たらせることとして発航に至った。
 こうして、A受審人は、発航時にB受審人及び同乗者を係留索の解纜(かいらん)作業に当たらせ、自らがフライングブリッジで操船に当たって博多港を出航し、福岡県玄界島沖合付近でB受審人及び同乗者2人が同ブリッジに上がってきたときに操舵を自動に切り換え、参加した他の4艇に先航して東行し、その後山口県油谷湾の西方沖合に差し掛かったころ、風波が強くなって波しぶきが同ブリッジに打ち込むようになったことから、10時23分同県川尻岬の手前で全員が操舵室に移動し、いつものように同室の二人掛け操縦席右側の舵輪後方に腰を掛け、同席左側にB受審人に腰を掛けさせ、同受審人に運航補佐と後続各艇との連絡とに当たらせながら、自動操舵によって東行を続けた。
 このころ、B受審人は、後続艇から時化模様になったのでどこかに避難してはどうかなどの無線連絡を受けたものの、萩港までそう遠くないことや同港までの間に適当な港がないことから、このまま直航して参加各艇の到着を待つ旨を回答し、A受審人にこの旨と早めに萩港に入港して後続艇が入港したらその綱取りを行うこととを告げた。
 10時41分A受審人は、長門川尻岬灯台から000度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で、自動操舵のまま山口県青海島に向けて右転を始めたところ、B受審人から青海島に接近しないように助言を受け、同受審人に自動操舵の設定を補正させて針路を092度に定め、機関を回転数毎分2,150にかけ、25.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、船首死角が生じた状態で、自動操舵によって進行した。
 10時59分A受審人は、今岬灯台から348.5度1.7海里の地点に至ったとき、正船首方770メートルのところに、利丸を視認することができ、その後、同船が漂泊していることと、衝突のおそれがある態勢で接近することとを認め得る状況であったが、B受審人が周囲の見張りを行っているものと思い、操縦席から立ち上がるなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、利丸に気付かず、同船を避けないまま、同じ姿勢で右舷方の陸岸の景色を見ながら続航した。
 このとき、B受審人は、自らが後続艇との連絡や、GPSプロッター画面の監視に追われていたことから、これらのことをA受審人が理解してくれて同受審人が周囲の見張りを行っているものと思い、自ら操縦席から立ち上がるなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、A受審人と同様に、漂泊中の利丸に気付かず、同船を避ける措置をとるように助言を行うことができなかった。
 11時00分わずか前A受審人は、ふと前方を見たとき、利丸を右舷船首至近に初めて認め、急いで機関を後進にかけたが間に合わず、11時00分今岬灯台から002度1.65海里の地点において、風水5は、原針路、原速力のまま、その船首が、利丸の右舷船尾に前方から70度の角度で衝突し、船体が利丸の船尾部を乗り切った。
 当時、天候は晴で風力4の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期に当たり、視界は良好であった。
 また、利丸は、専ら一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年2月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したE船長が1人で乗り組み、あまだい漁の目的で、平成15年9月27日06時30分山口県仙崎港を発し、同港北北西方沖合約10海里の人工魚礁が敷設された漁場に至ってアマダイやチダイを漁獲したのち、風波が強くなってきたことから陸岸近くの漁場に向けて移動した。
 ところで、E船長は、アマダイなどの底魚一本つり漁を行うときには、漁場到着後にいったん機関を中立運転として漂泊し、船尾からパラシュート型シーアンカーと浮球が付いた引き寄せロープとを投入したのち、機関を前進にかけてパラシュートを開かせ、船首を風下に向けて機関を停止し、再び漂泊して船首甲板の舷側から釣糸を垂らして漁を行っていた。
 こうして、E船長は、10時59分前示衝突地点で、風を船尾に受け、機関を中立運転としていったん漂泊し、船尾甲板に立って船尾からパラシュート型シーアンカーの投入を始め、海中に入ったパラシュートが開く前の状態で船首が202度に向いていたとき、右舷船首70度770メートルのところに、風水5を視認することができ、その後自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、風水5に気付かず、機関を使用して移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらずに同アンカーの投入を続けているうち、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、風水5は右舷船首に破口及び船底に擦過傷を生じたが、のち修理され、利丸は操舵室の流失、右舷船尾外板の圧壊、船尾外板に亀裂及び左舷船尾たつの折損等の損傷を生じ、海上保安部巡視艇及び僚船によって仙崎港に引き付けられた。また、E船長は、衝突時に風水5の船首船底が頭部を直撃し、頭蓋骨粉砕骨折及び脳挫傷により死亡した。

(主張に対する判断)
 本件は、山口県青海島北西方沖合において、航行中の風水5と、漂泊中の利丸とが衝突した事件で、当時、風水5では、A、B両受審人が操舵室の二人掛け操縦席に並んで腰を掛けて操船中に発生したものである。
 ところで、A受審人選任の補佐人は、Dが主催する萩クルーズにおいて、同受審人が航路選定能力も水路事情も乏しかったから船長職を執ることができず、実質的な船長職を執っていたのはB受審人であった旨を主張するので、これについて検討する。
 A受審人は、平成13年に風水5を所有して以来、同15年4月までの間の同船の運航時には、いつもDに料金を支払ってその従業員であるB受審人に針路、速力の設定などを助言する運航補佐としての乗船を依頼し、この間に実施されたDが企画した韓国クルーズに参加した折りには、外航手続等不慣れな面があったことからB受審人を船長として乗船させることを明確にしていたものの、同月以降の運航時には、何回も航行経験があり、Dから1時間ないし2時間で往復できる慣れた海域を中心に、B受審人を乗船させずに自ら船長として操船と周囲の見張りとに当たって運航していた。
 また、事実及び当廷における両受審人の供述などにより、
1 萩クルーズの発航前ミーティングが、参加各艇の船長あるいは代表者が出席するものであったから、同ミーティングにB受審人が出席したからといって同受審人が船長であったとは認められないこと
2 A受審人が、Dからの離岸操船に引き続き玄界島東方沖合まで自ら発航操船に当たっていたこと
3 A受審人が、舵輪、自動操舵装置、機関遠隔操縦レバー及び航海計器類が設けられたコンソールの後方に配置の二人掛け操縦席右側で、舵輪の後ろに腰を掛けていたことから、機関操作及び操舵についてそれぞれ操縦権を有していたと認められること
4 D作成のB受審人の風水5乗船実績を示す請求書写にサポート料と記載されており、同受審人が運航補佐として乗船していることが明確に示されていること
5 韓国クルーズに参加した折りには、B受審人が船長職を執ることを明確にしていたものの、萩クルーズの折りには明確にしていなかったこと
6 B受審人がDから業務命令で運航補佐として乗船していたこと
7 A受審人が、B受審人の助言に従って針路、速力を設定していたこと
8 平成15年4月から約半年間B受審人が乗船しないときには、A受審人が自ら船長として運航していたこと
 などが認められる。
 以上のことから、A受審人が船長として乗り組んでいたと認めることが相当であり、船長職を執っていたのはB受審人であったとする同補佐人の主張を採用することはできない。 

(原因)
 本件衝突は、山口県青海島北西方沖合において、萩港に向けて東行する風水5が、見張り不十分で、漂泊中の利丸を避けなかったことによって発生したが、利丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、山口県青海島北西方沖合において、操舵室の二人掛け操縦席に運航補佐として乗船しているB受審人と並んで腰を掛け、萩港に向けて東行する場合、船首死角が生じていたのであるから、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、操縦席から立ち上がるなどして同死角を補うための見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、A受審人は、B受審人が周囲の見張りを行っているものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の利丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、風水5の右舷船首に破口及び船底に擦過傷を、利丸の操舵室流失、右舷船尾外板圧壊、船尾外板亀裂及び左舷船尾たつ折損等の損傷をそれぞれ生じさせ、E船長を頭蓋骨粉砕骨折及び脳挫傷により死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、山口県青海島北西方沖合において、風水5の運航補佐として乗船し、操舵室の二人掛け操縦席にA受審人と並んで腰を掛け、萩港に向けて同受審人の操船により東行する場合、船首死角が生じていたのであるから、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、操縦席から立ち上がるなどして同死角を補うための見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、B受審人は、自らが後続艇との連絡や、GPSプロッター画面の監視に追われていたことから、これらのことをA受審人が理解してくれて周囲の見張りを行っているものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の利丸に気付かず、同船を避ける措置がとられないまま進行して衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION