(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月2日19時00分
福岡県大島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一春日丸 |
漁船漁祥丸 |
総トン数 |
19トン |
8.5トン |
登録長 |
18.25メートル |
14.41メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
120 |
3 事実の経過
第一春日丸(以下「春日丸」という。)は、まき網船団付属の魚群探索及び運搬業務に従事するFRP製漁船で、昭和50年7月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年6月2日17時30分福岡県大島漁港を発し、同県大島北西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、発港操船に引き続いて単独で船橋当直に就き、漁場に向けて12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により西北西に進行し、18時48分大島北西方約10海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方1海里ばかりのところに漁祥丸を初めて認め、同船がほぼ停止した状態であったことから、漂泊中のいか釣り船であることを知り、速力を10.0ノットに減じて同じ針路で続航した。そして、同時52分ごろ、速力を8.0ノットに減速して遠隔操舵に切り替えて手動操舵とし、半径250メートルほどの円で左旋回して魚群探索を行い、魚影を確認して僚船を呼び寄せ、自船はさらに西方の漁場で探索を続けることとした。
18時58分A受審人は、筑前大島灯台から299度(真方位、以下同じ。)11.1海里の地点で、次の漁場に向かうにあたり、自船の西北西方500メートルのところに、漁祥丸が船首を北東に向けて漂泊しているのを認め、同船の船尾を100メートル離して航過することとして針路を294度に定め、遠隔操舵装置による手動操舵のまま、同じ速力で進行した。
ところで、A受審人は、春日丸の遠隔操舵装置のコントロールダイアルには誤差があり、同ダイアルを中央に戻しても舵は右側に少しとられたままで、徐々に右転する傾向があることを知っていた。
定針後、A受審人は、遠隔操舵装置のコントロールダイアルを中央に戻したところ、同ダイアルの誤差により、徐々に右転しながら、漁祥丸と衝突のおそれがある態勢で、同船に向かって接近する状況となったが、魚群探索を行いながら無線電話で僚船と話をすることに気をとられ、漁祥丸を目視するなどして針路の保持を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
春日丸は、徐々に右転しながら漁祥丸に向かって同じ速力で続航中、19時00分筑前大島灯台から299度11.4海里の地点で、316度を向首したその船首が漁祥丸の右舷中央部に90度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好で、日没は19時24分であった。
また、漁祥丸は、いか一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、昭和59年8月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年6月2日16時30分佐賀県小川島漁港を発し、大島北西方の漁場に向かった。
B受審人は、18時30分前示衝突地点付近に至り、パラシュートアンカーを投入するのは日没30分前以降と決められていたので、その時間を待つため、機関を停止して漂泊を開始した。そして、同時48分右舷正横1海里ばかりのところに、自船に向かって接近する春日丸を初めて認め、同船がまき網船団の探索船であることを知った。
ところで、この海域では、いか釣り船の明るい灯火に集魚されたあじやさばなどのまき網船団の対象魚を同船団がいか釣り船の操業後に引き継ぐ、「灯を買う」と称する行為がときどきとられており、B受審人もその交渉をしたことがあった。
B受審人は、18時50分ごろ船首からパラシュートアンカーを投入して黄色回転灯を点灯し、操業の準備作業を始め、同時59分船首が046度を向き、前部甲板で同作業をしていたとき、右舷正横やや後方250メートルのところに、春日丸が徐々に右転して著しく接近する態勢で近づいたが、灯を買いに来るものと思い、警告信号を行わず、その後、同船がさらに右転を続けて衝突のおそれがあったものの、機関を使用するなどして、衝突を避けるための措置をとらなかった。
春日丸は、046度に向首して漂泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、春日丸は、球状船首に損傷を生じ、漁祥丸は、右舷中央部及び操舵室を大破したが、のち、いずれも修理された。また、B受審人が、右膝部打撲傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、福岡県大島北西方沖合において、春日丸が、漂泊中の漁祥丸の船尾を100メートル隔てたところに針路を定め、航行する際、針路の保持が不十分で、同船に向かって右転進行したことによって発生したが、漁祥丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大島北西方沖合において、前路で漂泊中の漁祥丸の船尾方100メートルのところに向けて針路を定め、遠隔操舵装置による手動操舵で航行する場合、同装置のコントロールダイアルを中央に戻しても舵は右側に少しとられたままで、徐々に右転する傾向があることを知っていたのであるから、右転進行することのないよう、同船を目視するなどして針路を保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群探索を行いながら無線電話で僚船と話をすることに気をとられ、針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、同船に向って右転進行して衝突を招き、春日丸の球状船首に損傷を生じさせ、漁祥丸の右舷中央部及び操舵室を大破させるとともに、B受審人に右膝部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、大島北西方沖合において、パラシュートアンカーを投入して漂泊中、春日丸が徐々に右転して自船に向かって接近するのを認めた場合、警告信号を行い、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は灯を買いに来るものと思い、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、春日丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自身が右膝部打撲傷等を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。