(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月15日07時50分
壱岐島北部西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金吉丸 |
漁船昭福丸 |
総トン数 |
19トン |
4.77トン |
全長 |
22.60メートル |
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登録長 |
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10.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
金吉丸は、いか一本釣り漁業に従事する操舵室を船体中央部に設けたFRP製漁船で、平成12年4月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年1月14日15時00分長崎県勝本港を出港し、壱岐島西方沖合の漁場に至って夜間の操業を行ったのち、水揚げの目的で、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、翌15日06時20分手長島灯台から253度(真方位、以下同じ。)16.3海里の地点を発し、同港に向かった。
漁場を発したときA受審人は、自らによる単独の船橋当直に就き、針路を070度に定め、機関を全速力よりやや減じた回転数毎分1,250に掛け、9.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵によって進行し、間もなく、操舵室後部の両舷側にある航海機器棚に床上約80センチメートルの高さで左右に渡した板(以下「渡し板」という。)の右舷側寄りに前方向きに腰を掛け、見張りに当たった。
ところで、金吉丸は、前示見張り態勢で同速力で航行するとき、船首浮上によって正船首の両側に数度の範囲で水平線が見えなくなる死角が生じ、また、船首部の両舷側に備えられた自動釣機のいか受けネットを舷端から内舷側に立て掛けた状態で格納していたことから、正船首の両側約10度から後方へ三十数度までの範囲にそれぞれ見通しが妨げられる状況が生じていた。
07時40分ごろA受審人は、太陽光が海面に反射して右舷前方の海上が眩しくなった中、前方0.5海里ばかりを先航する自船とほぼ同型の僚船を目視とレーダー映像で確認していたことから、レーダーの微調整は現状で良いと思うようになり、サングラスを備えていなかったこともあって、操舵室の前部中央と左舷側の航海機器棚に置いた両レーダーの画面を見ながら、渡し板に腰掛けたまま右舷側の航海機器棚に背をもたれ掛けて身体を左舷前方に向けた姿勢で続航した。
07時44分A受審人は、手長島灯台から269度2.7海里の地点に達したとき、右舷船首40度1.0海里のところに前路を左方に横切る態勢の昭福丸を視認でき、その後その方位が変わらず互いに接近したが、右舷前方に他船が存在すればレーダー映像で確認できると思い、渡し板から降りて操舵室内を左右に移動して見通しの悪さを補うなり、レーダー画面上の海面反射除去にかかわる微調整を綿密に行って見張りに活用するなど、見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在も衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
こうして、A受審人は、昭福丸の進路を避けないまま進行し、07時47分手長島灯台から273度2.25海里の地点に達したとき、昭福丸が方位に変化のないまま900メートルに接近したが、依然、見張りを十分に行っていなかったので、その存在も衝突のおそれがあることにも気付かず続航中、同時50分わずか前ふと顔を右舷方に向けたとき、右舷前方至近に昭福丸を初めて認め、急ぎ機関のクラッチを中立、続いて後進に操作したが、及ばず、07時50分手長島灯台から279度1.8海里の地点において、金吉丸は、原針路、原速力のまま、その船首が昭福丸の左舷中央部に後方から73度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の東風が吹き、波高は約3メートルで、日出時刻は07時25分ごろであった。
また、昭福丸は、登録長10.60メートルの、操舵室を船体中央後部に設けたレーダーを装備しないFRP製漁船で、平成15年1月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が単独で乗り組み、一本釣り漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月15日06時45分長崎県郷ノ浦港を発し、勝本港西方わずか沖合にある平曽根と称する漁場に向かった。
B受審人は、自船にGPSを備えていなかったので、同じく平曽根の漁場に向かうGPSを備えた僚船に後続して蟐蛾ノ瀬戸を通航したのち、北上を開始した。
07時13分B受審人は、壱岐大瀬灯台から317度1.3海里の地点で、針路を357度に定め、機関を半速力に掛け、6.7ノットの速力で手動操舵によって進行した。
07時44分B受審人は、手長島灯台から257度1.8海里の地点で、前方250メートルばかりを先航する僚船が波間に見え隠れする状況のもとで同船を追尾していたとき、左舷船首67度1.0海里のところに前路を右方に横切る態勢の金吉丸を視認でき、その後その方位が変わらず互いに接近したが、僚船を追尾することに気をとられて船首方のみを注視し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、金吉丸の存在もこれが衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
こうして、B受審人は、金吉丸に対して警告信号を行わず、07時47分手長島灯台から268度1.75海里の地点に達したとき、金吉丸が方位に変化のないまま900メートルに近づき、その後も同船が避航の様子を見せないまま更に接近したが、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、その存在も衝突のおそれがあることにも気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金吉丸は船首外板下部に小亀裂を生じ、昭福丸は左舷中央部船底外板に破口を生じて機関室が浸水し、B受審人が金吉丸に移乗したのち、08時15分ごろ衝突地点付近で沈没し全損となった。
(原因)
本件衝突は、壱岐島北部西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、漁場から基地港に向けて東行中の金吉丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る昭福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の昭福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、壱岐島北部西方沖合において、右舷前方の海上が太陽光の反射で眩しい状況のもと、漁場から基地港に向けて東行する場合、渡し板に腰掛けた姿勢では、いか受けネットで斜め前方の見通しが妨げられていたから、接近する小型漁船などを見落とさないよう、渡し板から降りて操舵室内を左右に移動して見通しの悪さを補うなり、レーダー画面上の海面反射除去にかかわる微調整を綿密に行ってレーダーを見張りに活用するなど、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方に他船が存在すればレーダー映像で確認できると思い、操舵室内を左右に移動するなり、レーダーの微調整を綿密に行って見張りに活用するなど、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する昭福丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、金吉丸の船首外板下部に小亀裂を生じさせ、昭福丸の左舷中央部船底外板に破口を生じさせて機関室が浸水するに及んで同船を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、壱岐島北部西方沖合において、漁場に向けて北上する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先航する僚船を追尾することに気をとられて船首方のみを注視し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する金吉丸に気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ昭福丸を沈没させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。