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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年広審第1号
件名

引船第八寿美丸台船第三十六龍王丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、道前洋志)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第八寿美丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第八寿美丸・・・縦約1メートルの破口を生じ、機関室に浸水して沈没
第三十六龍王丸・・・損傷ない

原因
第八寿美丸・・・切断したえい航索の取り直しを行う際の作業方法不適切

主文

 本件衝突は、第八寿美丸が、第三十六龍王丸をえい航中に切断したえい航索の取り直しを行う際、作業方法が不適切で、第三十六龍王丸に異常に接近したことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月3日20時20分
 大王埼南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第八寿美丸 台船第三十六龍王丸
総トン数 194トン 約3,443トン
全長 35.6メートル 65.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,942キロワット  

3 事実の経過
 第八寿美丸(以下「寿美丸」という。)は、2機2軸2舵を装備した鋼製引船兼押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、同船の後方に船首尾の喫水をともに2.0メートルとして作業員9人が乗り組み船首部両舷に重量約5トンのダンホース型錨を備えた非自航型浚渫船兼起重機船第三十六龍王丸(以下「龍王丸」という。)をえい航し、船首3.4メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成15年3月2日13時00分高知県高知港を発し、北海道稚内港に向かった。
 ところで、えい航索の取り付け方は、寿美丸の船尾甲板に設備したワイヤドラムから直径50ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ500メートルのワイヤロープを延出し、その先端に直径100ミリ長さ50メートルの合成繊維製ロープの一端をシャックルで連結して、更に同ロープの他端に龍王丸の船首甲板両舷側のアイから延出した直径46ミリ長さ25メートルのワイヤロープ2本をY字型にシャックルで連結していた。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士による単独6時間の2直制として東行し、やがて潮岬南方約1海里沖合を経て熊野灘に至り、翌3日18時00分大王埼灯台から222度(真方位、以下同じ。)15.2海里の地点で、前直の一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、法定の灯火を寿美丸及び龍王丸の両船に表示し、針路を大王埼灯台の約1.3海里沖合に向く047度に定め、5.4ノットの対地速力で進行した。その後、寒冷前線通過の余波で左舷後方から風波浪を受けながら紀伊半島東岸に沿って北上中、18時50分大王埼灯台から220度10.8海里の地点で、えい航索のワイヤロープが寿美丸の船尾付近で切断した。
 そこで、A受審人は、えい航索の取り直しを行うことにしたが、風波浪の影響で未だ船体が互いに動揺する状況下では、両船が異常に接近すると不測の事態を招くおそれがあったにもかかわらず、短時間で作業を終わらせようと思い、先取りロープをとってウインチで巻き込んで龍王丸との距離を保ちながら同索を受け渡すなど適切な方法で作業を行うことなく、寿美丸を龍王丸に接近させて手渡しによってえい航索を受け渡すことにした。
 こうして、A受審人は、寿美丸側のワイヤロープ切断端に再連結用のソケットを取り付けさせるとともに、龍王丸船首甲板上にえい航索のY字型部分のワイヤロープと合成繊維製ロープとを引き上げ、切断したワイヤロープを切り落として投棄させて、龍王丸から寿美丸に合成繊維製ロープを受け渡す準備を終え、19時50分自ら操舵室で手動操舵にあたり、後退して龍王丸の船首に接近したところ、寿美丸の船尾と龍王丸の船首とが接触しそうになったので、いったん同船から離れた。その後、20時10分船首が東方に向いた龍王丸の右舷船首方約30メートルのところで、135度に向首して左舷主機を微速力後進にかけて低速で後退し、寿美丸の右舷船尾を龍王丸の船首中央部に接近させたところ、風圧流やうねりによる船体動揺によって再び接触しそうになったので、20時20分わずか前左右両舷舵をいずれも右舵にとり、左舷主機を中立にして右舷主機を極微速力前進にかけ、船尾を左に振って同船の船首中央部から離そうとしたが及ばず、20時20分大王埼灯台から215度10.9海里の地点において、寿美丸は、135度に向首したまま、わずかな後進行きあしで、その右舷船尾が、090度に向首した龍王丸の船首中央部に、前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力7の北西風が吹き、付近には波高約3メートルの南西寄りのうねりがあった。
 衝突の結果、龍王丸に損傷はなかったが、寿美丸は右舷船尾を押されて急速に右回頭し、龍王丸の右舷錨が寿美丸の右舷後部外板に食い込んで縦約1メートルの破口を生じ、機関室に浸水して沈没した。また、寿美丸の乗組員は沈没前に全員がライフラフトに移乗して漂流中、来援した巡視船に救助された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、大王埼南方沖合において、寒冷前線通過の余波で未だ船体が動揺する状況下、寿美丸が、龍王丸をえい航中に切断したえい航索の取り直しを行う際、作業方法が不適切で、龍王丸に異常に接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、大王埼南方沖合において、龍王丸をえい航中に切断したえい航索の取り直しを行う場合、寒冷前線通過の余波で未だ船体が動揺する状況であったから、両船が異常に接近して不測の事態を招くことのないよう、先取りロープを使用して龍王丸との距離を保ちながら同索を受け渡すなど適切な方法で作業を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、短時間で作業を終わらせようと思い、先取りロープを使用して龍王丸との距離を保ちながらえい航索を受け渡すなど適切な方法で作業を行わなかった職務上の過失により、同索を手渡しによって受け渡そうとし、龍王丸に異常に接近して同船との衝突を招き、寿美丸の右舷後部外板に破口を生じさせ、機関室に浸水して沈没する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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