(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月27日14時55分
大阪港大阪区第4区
2 船舶の要旨
船種船名 |
作業船都喜丸 |
旅客船さんふらわあ さつま |
総トン数 |
19.09トン |
12,415トン |
登録長 |
11.99メートル |
178.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
389キロワット |
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船種船名 |
旅客船みやざき エキスプレス |
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総トン数 |
11,931トン |
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登録長 |
164.33メートル |
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3 事実の経過
都喜丸は、鋼製作業船で、平成10年4月21日交付の一級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年8月27日05時50分、大阪港大阪区第4区の南港鉄鋼流通岸壁北端部沖合に達し、07時30分より同岸壁北端部付近に係留する台船の離接岸の補助作業に従事していた。
同岸壁北端部付近では、台船へ建設工事に伴って廃棄される土砂の積み込みが行われ、台船は無機関のため、押船第52俊栄丸(総トン数19トン長さ14メートル)により、大阪港夢洲(ゆめしま)埋立地まで押航されるものであった。
12時30分A受審人は、第52俊栄丸に押航された台船K-17(長さ53.5メートル幅13.0メートル深さ4.1メートル)の、前示岸壁への接岸作業を行い、14時30分土砂の積み込みが終わって、当日の運航が終了することになり、他の台船の前示岸壁への接岸を阻害しないよう、翌早朝の出航に備え、K-17を隣の岸壁で右舷係留中の同型台船K-16の沖側に横列係留するため、大阪南港北防波堤灯台から119度(真方位、以下同じ。)2,340メートルの地点において、第52俊栄丸に押航されたK-17の、左舷中央をほぼ直角に押し方を開始した。
ところでK-17の係留は、同船の乗組員1人が船首尾からの各係留索1本を岸壁に送って、岸壁上で第52俊栄丸の乗組員が係止するもので、係留作業中のK-17は第52俊栄丸によってほぼ接岸状態にあって、特に都喜丸の押し方を要する状況でなかったが、K-17をほぼ直角で押航中、A受審人は、その作業を早く終わらせるため、都喜丸を自動操舵で機関前進、速力3.0ノット(対地速力、以下同じ。)の押航状態として無人とし、K-17上に移乗して係留作業を手伝うことがあった。しかしながらこのような状態では、航海計器に異常が生じたときに暴走するおそれがあったが、機関を中立とし、船体をK-17に係留する措置を施したのち、同船に移乗するなどしていなかった。
14時32分K-17を押し方操船中のA受審人は、同船がK-16に接舷状態になり、係留索係止作業を手伝うため、K-17のほぼ中央部への直角の態勢を維持するため自動操舵により針路指示を255度に合わせ、機関を速力3.0ノット回転数毎分800の前進にかけていたが、まさか航海計器が故障して暴走することはないと思い、機関を中立としてK-17に係留索をとって係留するなどの、暴走に対する防止措置をとることなく、14時35分都喜丸を無人としてK-17に移乗した。
14時38分A受審人は、K-17甲板上において係留索係止作業を行っていたところ、付近を航行する船舶からの航走波が甲板上に打ち込んだことから都喜丸の状態を確かめたが異常なく、同作業を続けていたところ、同時38分半都喜丸は、磁気コンパス上に装備された自動操舵装置の針路検出器が故障し、針路を検知できなくなって右方に向きを変え、北方沖合に向かって航走し始めた。
14時40分同作業中のA受審人は、第52俊栄丸の船長から報告を受けて初めて都喜丸の暴走を知り、無人となった都喜丸は、北方約150メートル沖合を同方向に速力3.0ノットで迷走していた。
直ちにA受審人は、第52俊栄丸に移乗し、同船船長の操船により、都喜丸を8.0ノットの速力で追いかけ、都喜丸は、K-17での作業位置から約300メートル北方に進行したころから次第に左回頭し、やがて追いついたものの揺れる同船に乗り移ることができず、移乗する機会をうかがいながら伴走しているうち、都喜丸の船首が南方に向いて、前方約200メートルでフェリーかもめふ頭第7号岸壁に着岸中の、さんふらわあ さつまに向かって進行することとなったが、どうすることもできず、14時55分大阪南港北防波堤灯台から120度1,830メートルの地点において、都喜丸は、右舷係留するさんふらわあ さつまの左舷船尾部外板に、ほぼ直角、速力3.0ノットで衝突し、その後東方に向きを変えて約180メートル航走し、さんふらわあ さつまと並んで同ふ頭第8号岸壁で左舷出船係留するみやざき エキスプレスの、球状船首部に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その後都喜丸は、再び北方に向きを変えて速力が落ちたときにA受審人が移乗して、機関を停止した。
その結果、都喜丸には損傷がなく、さんふらわあ さつまは左舷船尾部外板に凹損を、みやざき エキスプレスは球状船首に擦過傷をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、大阪港大阪区第4区において、接舷作業の補助として台船を押航中、台船の係留作業を手伝うために都喜丸を無人とする際、暴走に対する防止措置不十分で、暴走して着岸中のさんふらわあ さつま及びみやざき エキスプレスに向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大阪港大阪区第4区において、接舷作業の補助として台船を押航中、台船の係留作業を手伝うため、都喜丸を無人として台船に移乗する場合、自動操舵で台船をほぼ直角に押したまま無人とすると暴走するおそれがあったから、機関を中立とし、台船に係留索をとるなど暴走に対する防止措置を行うべき注意義務があった。しかしながら同人は、まさか都喜丸の航海計器が故障して暴走することはないと思い、機関を中立とし、台船に係留索をとるなど暴走に対する防止措置をとらなかった職務上の過失により、台船に移乗して作業中、自動操舵の針路検知器が故障し、都喜丸が暴走して着岸中のさんふらわあ さつま及びみやざき エキスプレスに向かって進行して衝突を招き、さんふらわあ さつまの左舷船尾部外板に凹損を、みやざき エキスプレスの球状船首に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。