(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月20日10時45分
和歌山県鉛山湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートシーマンズ |
プレジャーボートアサ |
総トン数 |
0.2トン |
0.1トン |
登録長 |
2.89メートル |
2.73メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
95キロワット |
86キロワット |
3 事実の経過
シーマンズは、水上オートバイと呼称される3人乗りのFRP製プレジャーボートで、平成13年11月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するBが船長として1人で乗り組み、遊走する目的で、友人1人を乗せたスキービスケットに長さ約20メートルのロープを繋いで船尾から曳き、船首尾とも極浅い喫水をもって、平成15年7月20日10時35分和歌山県西牟婁郡白浜町湯崎海岸の砂浜を発し、沖合200メートルばかりの遊走予定海域へ向かった。
ところで、スキービスケットとは、水上オートバイなどが船尾から曳く浮輪のような形をした遊具の一般的な総称であり、当時、B船長は、外径約110センチメートルの三角おむすび型のスキービスケットに、前示のごとく友人1人を乗せて曳いていたものであった。
そして、B船長は、遊走予定海域に到着したのち、直径約80メートルの円を描くようにして、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で左旋回していたところ、10時42分数回旋回して番所鼻灯台から158度(真方位、以下同じ。)1,750メートル地点付近に達したとき、スキービスケットに腹這いの体勢で乗っていた友人が海中に転落したことから、遊走を中止し、同人のそばに船体を寄せて救助作業に当たった。
こうして、B船長は、転落した友人を後部の同乗者用座席に引き揚げようとして、行きあしを止めたうえ、機関を停止した状態で停留中、10時45分番所鼻灯台から158度1,750メートルの地点において、シーマンズの船首が、ほぼ南西を向いていたとき、その右舷船首部に、一緒に遊走していたアサの船首が、後方から約60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
また、アサは、シーマンズと同型同種のプレジャーボートで、平成13年7月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、シーマンズと一緒に遊走する目的で、船首尾とも極浅い喫水をもって、同日10時35分同船に引き続いて湯崎海岸の砂浜を発し、沖合200メートルばかりの遊走予定海域へ向かった。
そして、A受審人は、遊走予定海域に到着したのち、16.0ノットの速力で旋回および直進を繰り返しながら遊走していたところ、10時42分一緒に遊走していたシーマンズが、海中に転落したスキービスケットの搭乗者を救助するため、前示衝突地点付近において停止したが、砂浜に残った仲間の方を注視したまま、自身が遊走することに夢中になり、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付くことなく遊走を続けた。
こうして、A受審人は、その後も、見張りを十分に行わなかったので、依然として、シーマンズが行きあしを止めて停留していることに気付かず、やや右舷側に見る態勢で遊走中、10時45分少し前砂浜に接近したことから沖に向首するために右旋回を開始したところ、同船に向かって進行することとなり、衝突の危険がある状況となったが、これを避けることなく旋回を続け、アサの船首が、ほぼ南南東を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、シーマンズは右ハンドルシャフトを折損し、アサは船体左舷側に擦過傷を生じた。また、B船長が右腓腹筋開放断裂の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、和歌山県鉛山湾において、遊走中のアサが、見張り不十分で、停留中のシーマンズを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県鉛山湾において、シーマンズと一緒に遊走する場合、同船と衝突しないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海岸の砂浜に残った仲間の方を注視したまま、自身が遊走することに夢中になり、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、シーマンズが、海中に転落したスキービスケットの搭乗者を救助するために停留していることに気付かず、同船に向かって右旋回しながら、これを避けることなく進行して衝突を招き、自船の船体左舷側に擦過傷を生じさせ、シーマンズの右ハンドルシャフトを折損させるとともに、同船船長に右腓腹筋開放断裂の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。