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平成16年神審第14号
件名

貨物船日功丸漁船第2西ノ宮丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:日功丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:第2西ノ宮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:日功丸甲板手 

損害
日功丸・・・右舷側外板に擦過傷
第2西ノ宮丸・・・操舵室屋根の左舷後部に亀裂及び左舷側ハンドレールの脱落

原因
日功丸・・・動静監視不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第2西ノ宮丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、日功丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第2西ノ宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第2西ノ宮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月14日15時30分
 高知県室戸岬南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船日功丸 漁船第2西ノ宮丸
総トン数 3,527.92トン 2.5トン
全長 80.25メートル 11.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 日功丸は、船体中央やや前方に回転式クレーンを備えた、船尾船橋型の土砂運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み、砕石5,800トンを積載し、船首8.20メートル船尾8.80メートルの喫水をもって、平成15年4月13日21時00分大分県津久見港を発し、千葉県千葉港に向かった。
 ところで、A受審人は、従来から航海中の船橋当直を自身、一等航海士及び甲板手2人の計4人による単独での3時間4直体制としており、前港出港時から新しく乗船してきたB指定海難関係人がまだ乗船3日目で十分にはその能力等を把握していなかったものの、甲板部航海当直部員の認定を受けていたので、単独での船橋当直を行わせることとしたが、B指定海難関係人の船員手帳記載の経歴等からいちいち指示することもあるまいと思い、他船が接近したときには、自分に報告するなど当直中における指示を徹底しなかった。
 B指定海難関係人は、翌14日14時45分昇橋して、前直者から当直を引き継ぎ、15時00分室戸岬灯台から220度(真方位、以下同じ。)10.4海里の地点に達したとき、自動操舵により針路を060度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 15時25分B指定海難関係人は、室戸岬灯台から210度6.9海里の地点に至ったとき、右舷船首65度750メートルのところに自船の前路を左方に横切る態勢で接近していた第2西ノ宮丸(以下「西ノ宮丸」という。)を初めて認めたが、一瞥して同船の速力のほうが速く、自船の前方を無難に通り過ぎるものと考えて、その後西ノ宮丸の動静監視を十分に行わなかったので、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったことに気付かず、船長に報告を行わないまま続航した。
 15時28分A受審人は、西ノ宮丸が右舷船首65度300メートルに接近していたが、B指定海難関係人から報告を受けなかったので、操船の指揮をとることができず、日功丸は、同船の進路を避けることなく進行し、15時29分半B指定海難関係人が右舷至近に迫った西ノ宮丸を視認して衝突の危険を感じ、左舵をとったものの、15時30分室戸岬灯台から207度6.2海里の地点において、原速力のまま、左に回頭して針路が042度となった日功丸の右舷船首部と西ノ宮丸の左舷中央部が後方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、自室で休んでいたところ、衝突したことを知って急いで昇橋し、海上保安部に通報するなど事後の措置に当たった。
 また、西ノ宮丸は、船体中央やや後方に操舵室のあるFRP製漁船で、平成12年8月16日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するC受審人ほか1人が乗り組み、かつお引き釣り漁業の目的で、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成15年4月14日05時ごろ高知県高知港藻洲潟の係留地を発し、08時ごろ室戸岬南方の漁場に至って操業を開始した。
 C受審人は、14時50分操業を一旦中止して室戸岬周辺の港で一泊するつもりで、室戸岬灯台から207度11.6海里の地点から引き釣りをしながらGPSプロッターに表示された室戸岬に向け、自動操舵により針路を027度に定め、機関を漁具の潜行板が機能する上限の速力である8.0ノットとなるよう調整して進行した。
 15時23分C受審人は、室戸岬灯台から207度7.1海里の地点に達したとき、左舷船首82度1,000メートルに前路を右方に横切る日功丸を初めて認めたが、接近してもいずれ避航船である同船が自船を避けるものと思い、前方に見えてくるはずの室戸岬を探しながら続航し、同時25分、日功丸が衝突のおそれのある態勢で左舷船首82度750メートルに接近していたものの、その動静監視を十分に行わないまま進行した。
 15時28分、C受審人は、日功丸が左舷船首82度300メートルに接近していたが、依然、その動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、日功丸が更に接近してその動作だけでは衝突を避けることができなくなったものの、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行し、同時30分わずか前左舷至近に日功丸の船体を見たものの、何をすることもできず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日功丸は右舷側外板に擦過傷を、西ノ宮丸は、操舵室屋根の左舷後部に亀裂と左舷側ハンドレールの脱落をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件衝突は、室戸岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、東行する日功丸が動静監視不十分で、前路を左方に横切る西ノ宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する西ノ宮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 日功丸の運航が適切でなかったのは、船長が甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に対して、他船の動静監視を十分に行い、接近する他船がある場合には、直ちに報告するよう指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わず、船長に報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、室戸岬南方沖合を東行中、甲板部航海当直部員の認定を受けた甲板手に単独の船橋当直を行わせる場合、他船の動静監視を十分に行い、接近する他船がある場合には、直ちに報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、甲板手が甲板部航海当直部員の認定を受けており、船員手帳記載の経歴等からいちいち指示することもあるまいと思い、指示を徹底しなかった職務上の過失により、船橋当直についていた甲板手が西ノ宮丸の動静監視を十分に行わず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することについての報告を受けられないまま、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、日功丸の右舷側外板に擦過傷を、西ノ宮丸の操舵室屋根の左舷後部に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、室戸岬南方沖合の漁場での操業を一旦中止して、室戸岬周辺の仮泊地に向けて引き釣りをしながら北上中、左舷船首に前路を右方に横切る日功丸を認めた場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近してもいずれ避航船である日功丸が自船を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、日功丸が更に接近してその動作だけでは衝突を避けることができなくなったものの、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独の船橋当直について室戸岬南方沖合を東行中、右舷方に西ノ宮丸を認めた際、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


参考図
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