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平成16年横審第2号
件名

貨物船善榮丸漁船大陽丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月31日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:善榮丸次席一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:大陽丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
善榮丸・・・右舷船首部に擦過傷
大陽丸・・・右舷船尾を圧壊、漁網巻取機及び櫓などを損傷

原因
大陽丸・・・居眠り運航防止措置不十分(主因)
善榮丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、大陽丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、善榮丸が、レーダーによる見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月17日03時15分
 愛知県渥美湾南部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船善榮丸 漁船大陽丸
総トン数 499トン 14トン
全長 75.52メートル  
登録長   18.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 善榮丸は、レーダー2台を備えた船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、培土1,500トンを載せ、船首3.29メートル船尾4.87メートルの喫水をもって、平成14年11月14日16時00分北海道苫小牧港を発し、愛知県三河港豊橋地区に向かった。
 越えて同月16日23時45分A受審人は、静岡県舞阪町沖合で単独の船橋当直に就き、マスト灯、舷灯及び船尾灯が点灯していることを確かめ、自動衝突予防援助装置が組み込まれた主レーダーを使用し、伊良湖水道及び中山水道を通航して渥美湾に入り、翌17日02時56分立馬埼灯台から252度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を043度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下、「速力」という。)で進行した。
 そのころA受審人は、佐久島周辺及び立馬埼沖合に多数の灯火を認めて漁船が存在していることを知り、また、左舷船首方間近に自船より大型で船橋楼が高く、速力がわずかに遅い第3船がほぼ同針路で航行しており、同船が衣浦方面に向かうのかあるいは蒲郡、豊橋方面に向かうのか分からなかったので、同船の動向に留意しながら続航した。
 03時10分半A受審人は、立馬埼灯台から319度1.4海里の地点に達し、針路を090度に転じたところ、ほぼ同時に第3船も右転して同船を左舷船首37度約2ケーブルに認めるようになり、その後方位変化がほとんどないまま、わずかに接近しながら同航する態勢となり、船橋から同方向の見通しが妨げられる状況となった。
 転針したときA受審人は、左舷船首37度1.7海里に大陽丸が南下中で、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近し、第3船の介在によって同船を視認することが困難な状況であったものの、アンテナ高さが海面上約15メートルの主レーダーを活用すれば大陽丸の接近模様を知ることができたが、左舷前方をいちべつし、第3船の方向から接近する船はいないものと思い、同レーダーを活用して見張りを十分に行わなかったので、大陽丸の接近に気付かず、同船が間近に接近しても大幅に右転するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、03時14分半第3船が突然左転したことに気付き、その直後左舷船首方至近に大陽丸の白、緑2灯を初認し、驚いて手動操舵に切り換えて左舵一杯とするとともに機関を停止したが効なく、03時15分善榮丸は、立馬埼灯台から355度1.1海里の地点において、085度に向首したとき、右舷船首部が、大陽丸の右舷船尾部に前方から59度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は、直ちに衝突したことを船長に報告し、事後の措置にあたった。
 また、大陽丸は、小型機船底引き網漁業に従事する軽合金製漁船で、昭和60年4月に二級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、同月17日02時35分愛知県西幡豆漁港を発し、マスト灯、舷灯及び船尾灯を表示して渥美半島南方の漁場に向かった。
 発航後B受審人は、乗組員を休ませて単独で船橋当直に就き、3海里レンジとしたレーダーを見て周囲の状況を確認しながら、窓を閉めて暖房した操舵室内で、舵輪後方のいすに腰掛けて操舵と見張りにあたり、03時03分立馬埼灯台から018度4.0海里の地点に達したとき、針路を206度に定めて自動操舵とし、15.0ノットの速力で進行した。
 定針後B受審人は、前日が休漁日で十分に休養をとっていたものの、いすに腰掛けたまま前路の見張りにあたるうち、近くに気になる他船を見かけなかったことから気が緩み、眠気を催してうとうとし始めたが、出港したばかりで眠ることはあるまいと思い、窓を開けて外気にあたるなどして居眠り運航を防止する措置をとることなく、渥美湾を南下するうち、間もなく居眠りに陥った。
 03時10分半B受審人は、立馬埼灯台から011度2.1海里の地点に達したとき、右舷船首27度1.5海里及び同方位1.7海里に第3船及び善榮丸の2船がいずれも前路を左方に横切る態勢で東行しており、第3船の航海灯を認めることができたものの、その陰に隠れた善榮丸の航海灯を視認することが困難な状況であった。しかしB受審人は、使用中のレーダーを監視すれば第3船と並んで東行中の善榮丸の映像を探知することができ、その後これら2船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、居眠りをしていたので、このことに気付かず、大きく右転するなどして善榮丸との衝突を避けるための措置をとることも、第3船の進路を避けることもしないまま続航した。
 03時14分半B受審人は、右舷船首方至近に迫った第3船が左転して右舷側を航過し、その直後に善榮丸の白、白、紅3灯を右舷船首方至近に認め得る状況となったが、依然として居眠りをしていたので同船に気付かず、直ちに右舵をとって機関を全速力後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらず、大陽丸は、原針路、原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、善榮丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、大陽丸は右舷船尾を圧壊して漁網巻取機及び櫓(やぐら)などを損傷したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、愛知県渥美湾において、東行中の善榮丸と、南下中の大陽丸の両船が、両船間に介在した第3船のため互いに視認することが困難な状況の下、衝突のおそれがある態勢で接近した際、大陽丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、善榮丸が、レーダーによる見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、愛知県西幡豆漁港を発航し、単独で船橋当直に就いて渥美湾を南下中、近くに気になる他船を見かけなかったことから気が緩み、眠気を催した場合、窓を開けて外気にあたるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、出港したばかりで眠ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、接近する善榮丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、善榮丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせるとともに、大陽丸の右舷船尾を圧壊して漁網巻取機及び櫓などを損傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、愛知県渥美湾において、漁船が散在する海域を航行する場合、自船より大型の第3船が方位変化のないまま左舷船首方至近を同航中で、同船によって左舷船首方向の見通しが妨げられる状況であったから、同方向から接近する漁船を把握できるよう、レーダーを活用して見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左舷前方をいちべつし、第3船の方向から接近する船はいないものと思い、レーダーを活用して見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷船首方から接近する大陽丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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