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平成16年横審第6号
件名

漁船福丸漁船益栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二、中谷啓二、小寺俊秋)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:益栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
福 丸・・・左舷船底に亀裂を生じて浸水、沈没し、のち廃船
益栄丸・・・右舷船尾ブルワークが破損して舵棒が折損、操舵室が大破して倒壊、船長が右橈尺骨解放性骨折、右手関節部挫滅創、頭部挫創等で約4箇月間の加療を要した

原因
福 丸・・・動静監視不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
益栄丸・・・見張り不十分、避航を促す音響信号不履行、追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、益栄丸を追い越す福丸が、動静監視不十分で、益栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、益栄丸が、見張り不十分で、有効な音響によって避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月19日06時10分
 愛知県師崎港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船福丸 漁船益栄丸
総トン数 3.0トン 1.7トン
全長   9.25メートル
登録長 9.0メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   58キロワット
漁船法馬力数 70  

3 事実の経過
 福丸は、雑漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、ルアーを使った一本釣り操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成15年8月19日06時00分愛知県師崎港荒井ノ浦を発し、同港北部の長谷埼沖合の漁場に向かった。
 発航後A受審人は、操舵室中央の舵輪後方のいすに腰掛けて操舵にあたり、暖機運転のため定格回転数毎分3,000(以下、回転数は毎分のものを示す。)の機関を回転数600の前進にかけて港内を低速力で航行し、防波堤入口から外に出て間もなく、06時04分師崎港片名沖防波堤南灯台(以下「片名沖防波堤南灯台」という。)から143度(真方位、以下同じ。)1,120メートルの地点で、針路を349度に定め、3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 定針したときA受審人は、左舷船首方約900メートルの片名浦沖合に益栄丸を含む数隻の漁船群を初認し、06時07分同船を左舷船首5度470メートルに見るようになったとき、益栄丸が北上を始めたが、いちべつしただけで同船が自船より西を向いており、右舷側を無難に追い越すことができると判断し、その後も同じ回転数で暖機運転を続けながら続航した。
 06時09分A受審人は、片名沖防波堤南灯台から127度730メートルの地点に達し、益栄丸が左舷船首2度400メートルとなったとき、機関の回転数を1,500に上げて15.0ノットの速力としたところ、その後同船を追い越し衝突のおそれがある態勢となって接近したが、停船して釣りをしていた左舷側の漁船群の釣果が気になって益栄丸から目を離し、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、益栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまで同船の進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま進行中、ふと前方を見たとき船首至近に同船を認め、とっさに右舵をとったが効なく、06時10分福丸は、片名沖防波堤南灯台から090度500メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が益栄丸の右舷船尾に後方から11度の角度で衝突して乗り切った。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であったが、数日前の降雨により増水した矢作川から流れ出る水流のため、弱い南流があった。
 A受審人は、直ちに反転して益栄丸に近づき、落水したB受審人を救助したが、自船が浸水して沈没のおそれがあったので、事故を知って近づいてきた僚船に同人を移し、最寄りの病院に搬送を依頼した。
 また、益栄丸は、小型底引き網漁業及びひき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、ルアーを使った一本釣り操業の目的で、船首0.2メートル、船尾1.3メートルの喫水をもって、同日05時30分師崎港片名浦を発し、同港内の漁場に向かった。
 B受審人は、平素うたせえびを餌にして一本釣りを行っていたが、この日は、前日の雨天でうたせえびを入手することができなかったので、またか(すずきの別名)をねらい、ルアーを使った一本釣りを行うこととし、周囲より少し浅くなった水深約5メートルの前示衝突地点付近の海域で操業を始めた。
 B受審人は、操舵室後方左舷側に立って左手に釣り竿を持ち、右手で舵棒を操作し、ルアーを引きながら約300メートル北上しては元の位置に戻ることを繰り返し、数回漁場を往復したあと、06時07分片名沖防波堤南灯台から111度530メートルの地点で、針路を000度に定め、機関を最低回転数にかけ、2.0ノットの速力で進行した。
 定針したときB受審人は、右舷船尾16度470メートルのところに福丸がゆっくりと北上していたが、同船に気付かないまま、前方を向いて釣りに専念しながら続航した。
 06時09分B受審人は、右舷船尾13度400メートルに近づいた福丸が増速し、その後自船を追い越し衝突のおそれがある態勢となり、自船の進路を避けないで接近したが、南方から接近する船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、有効な音響によって避航を促す信号を行わず、大きく左転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、福丸の機関音を聞いて後方を振り向いたところ、至近に迫った同船を認めて危険を感じ、操舵室の左舷側に避難したとき、益栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福丸は、左舷船底に亀裂を生じて浸水し、しばらくして衝突地点の近くで沈没し、のち引き上げられたが廃船となり、益栄丸は、右舷船尾ブルワークが破損して舵棒が折損するとともに、操舵室が大破して倒壊した。また、B受審人が右橈尺骨(とうしゃくこつ)解放性骨折、右手関節部挫滅創、頭部挫創、右多発性肋骨骨折及び外傷性気胸等で約4箇月間の加療を要した。 

(原因)
 本件衝突は、愛知県師崎港において、益栄丸を追い越す福丸が、動静監視不十分で、益栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、益栄丸が、見張り不十分で、有効な音響によって避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、愛知県師崎港において、漁場に向け航行中、前路に認めた益栄丸を追い越す場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、停船して釣りをしていた漁船群の釣果が気になって益栄丸から目を離し、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を追い越し衝突のおそれがある態勢となって接近することに気付かず、その進路を避けないで進行して益栄丸との衝突を招き、福丸の船底に亀裂を生じさせて沈没させるとともに、益栄丸の右舷船尾ブルワーク、舵棒及び操舵室を損傷し、また、B受審人に右撓尺骨解放性骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、愛知県師崎港において、ルアーを使用した一本釣りを行いながら同港内を北上する場合、南方から接近する福丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、南方から接近する船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する福丸に気付かず、有効な音響によって避航を促す信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、自ら負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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