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平成16年横審第1号
件名

漁船第三増栄丸プレジャーボートチタ丸二世衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年5月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、竹内伸二、中谷啓二)

受審人
A 職名:第三増栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:チタ丸二世船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三増栄丸・・・右舷船首部に擦過傷
チタ丸二世・・・操舵室天井を損壊、左舷中央部に小破口の損傷

原因
第三増栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
チタ丸二世・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第三増栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のチタ丸二世を避けなかったことによって発生したが、チタ丸二世が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月6日02時35分
 三重県的矢湾
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三増栄丸 プレジャーボートチタ丸二世
総トン数 7.3トン  
全長 16.20メートル  
登録長   7.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 69キロワット

3 事実の経過
 第三増栄丸(以下「増栄丸」という。)は、さば一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和57年2月5日一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年7月6日02時29分三重県的矢湾内の安乗漁港を発し、愛知県知多半島野間埼沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、航行中の動力船が掲げる所定の灯火を表示のうえ、単独で操船にあたって発航し、02時32分安乗埼灯台から271度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点で、安乗漁港の弁天防波堤突端に並航したとき、針路を的矢湾湾口に向けて030度に定め、機関を回転数毎分1,000の前進にかけ、6.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、ほぼ正船首600メートルのところにチタ丸二世(以下「チタ丸」という。)の錨泊灯を視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近したが、そのころ、右舷船首40度1,500メートルばかりに的矢湾に向かう北西方に向首した5隻ほどの漁船(以下「漁船群」という。)を認め、漁船群の動静に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、錨泊中のチタ丸に気付かず、同船を避けないまま続航した。
 02時35分わずか前A受審人は、徐々に接近する右舷前方の漁船群との航過距離を少しばかり広げるつもりで左転を始めた直後、船首目前にチタ丸の白灯1灯を初めて視認したが、遅きに失し、02時35分安乗埼灯台から306度925メートルの地点において、増栄丸は、010度に向首したとき、原速力のまま、その右舷船首がチタ丸の左舷中央部に後方から78度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の西北西の風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、チタ丸は、船体中央部に操舵室を有し、モーターホーンを備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和53年3月24日三級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、いか釣りの目的で、船首1.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月5日17時15分愛知県衣浦港を発し、三重県石鏡漁港に向かった。
 B受審人は、翌日の釣りに備えて石鏡漁港に停泊する予定であったが、19時ごろ同漁港沖合に到着したとき日没近くとなって周囲が暗くなっていたうえ、港口が狭く周辺には岩礁が散在するのを知っていたので不安を覚えて入航を断念し、以前昼間に入ったことがある的矢湾に向かい、間もなく同湾湾口に達して湾奥に向け西行を始めたところ、養殖筏などを示す灯火が多数点在するのを視認して危険を感じ、安乗漁港北方沖合で進入をあきらめて機関を止め、的矢湾に出入りする船舶の通航海域であることに気付かないまま、同時15分前示衝突地点で船首から35キログラムの鉄製錨を水深約10メートルの海底に投じ、直径3センチメートルの合成繊維索を30メートル延出し、錨泊船が掲げる所定の灯火を表示して錨泊した。
 22時ごろB受審人は、友人2人が操舵室で就寝したのち、後部甲板で見張りにあたり、的矢湾に出入りする漁船が自船を避けて至近を航過するのを見かけたことから時々周囲を見ていたものの、そのうち救命胴衣を枕にして甲板上で横になった。
 翌6日02時32分B受審人は、折からの微弱な西北西風により、船首が292度に向いていたとき、左舷正横方600メートルのところに北上中の増栄丸の白、紅、緑3灯を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船が自船を避けないまま間近に接近したが、灯火を掲げて錨泊しているのでそれまでと同様に接近する他船が自船を避けてくれるものと思い、依然として横になった姿勢のまま、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、自船に向首接近する増栄丸に気付かず、モーターホーンを使うなど注意喚起信号を行わなかった。
 その後、B受審人は、増栄丸の機関音を聞き、同音が次第に大きくなるので気になり、02時35分わずか前顔を上げて周囲を確かめたところ、左舷正横至近に増栄丸の船首部を初めて視認したが、何をするいとまもなく、チタ丸は、292度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、増栄丸は、右舷船首部に擦過傷を生じただけで、チタ丸は、操舵室天井を損壊して左舷中央部に小破口を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、三重県的矢湾湾口において、増栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のチタ丸を避けなかったことによって発生したが、チタ丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、出漁のため安乗漁港から的矢湾湾口に向けて北上する場合、前路で錨泊しているチタ丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の漁船群の動静に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のチタ丸に気付かず、同船を避けないまま進行してチタ丸との衝突を招き、増栄丸の右舷船首部に擦過傷を、チタ丸の操舵室天井を損壊させて左舷側中央部に小破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、的矢湾湾口において、湾奥への進入を中止し、同湾に出入りする船舶の通航海域である安乗漁港北方沖合に錨泊する場合、接近する増栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯火を掲げて錨泊しているので接近する他船が自船を避けてくれるものと思い、甲板上で横になった姿勢のまま、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する増栄丸に気付かず、注意喚起信号を行わないまま同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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