(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月1日08時10分
北海道小樽港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十にちあす丸 |
貨物船ベトロボーイ |
総トン数 |
747トン |
448.00トン |
全長 |
71.00メートル |
44.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
589キロワット |
3 事実の経過
第十にちあす丸(以下「にちあす丸」という。)は、船尾船橋型鋼製アスファルトタンク船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.6メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年10月1日07時50分小樽港厩町3号岸壁を発し、北海道室蘭港に向かった。
ところで小樽港は、東方に開いた港則法の適用される港で、同港北部の陸岸から南東方に1,300メートル延びる北防波堤、同港南部の陸岸から北西方に810メートル延びる南防波堤及び両防波堤の間に設けられた長さ920メートルの島堤が築造されており、北防波堤南東端と島堤北西端との間が可航幅240メートルの防波堤入口となっていた。また、防波堤入口北側には、北防波堤南東端付近から東方に260メートル延び、東端に小樽港北副防波堤灯台(以下「北副防波堤灯台」という。)が設置された北副防波堤があり、防波堤入口西側240メートル付近から同入口東側500メートルにかけて幅240メートルの航路が設定されていた。
A受審人は、機関長を機関操縦盤の操作に就かせ、自ら手動操舵による出港操船に当たり、北防波堤の内側を南下し、08時00分半北副防波堤灯台から304度(真方位、以下同じ。)1,220メートルの地点に達したとき、針路を148度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したときA受審人は、左舷船首62度1,680メートルのところに、北防波堤の外側に南下するベトロボーイ(以下「ベ号」という。)を初認した。
08時03分A受審人は、北副防波堤灯台から292度840メートルの地点に至り、航路西端から航路に入ろうと右転し、その後左舵をとって同時07分半同灯台から242度570メートルの地点に至り、針路を070度に転じて防波堤入口に向けたとき、左舷船首2度710メートルとなったベ号が防波堤入口への入航船であり、同入口付近で出会うおそれのあることを知ったが、防波堤の外で出航する自船の進路を避けてくれることを期待し、警告信号を行うことなく続航した。
間もなくA受審人は、ベ号が防波堤の外で自船の進路を避けないまま接近するのを認めたが、そのうち自船の進路を避けてくれるものと思い、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとることなく、同じ針路速力で進行中、08時09分半船首至近に迫ったベ号に危険を感じ、機関を後進にかけたものの及ばず、08時10分にちあす丸は、北副防波堤灯台から225度185メートルの地点において、原針路のまま2.0ノットの残速力で、その船首部が、ベ号の船首部に左舷前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、ベ号は、船首船橋型鋼製貨物船で、B指定海難関係人ほかロシア連邦人19人が乗り組み、かに7.3トンを積載し、船首3.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成15年9月29日午後ロシア連邦コルサコフ港を発し、小樽港に向かい、翌10月1日07時30分同港検疫錨地に至って漂泊した。
07時58分B指定海難関係人は、小樽ポートラジオから着岸してよい旨の情報を得て三等航海士を見張りに、甲板員を手動操舵にそれぞれ就かせて前示検疫錨地を発進し、同時59分少し過ぎ北副防波堤灯台から039度1,220メートルの地点に達したとき、針路を211度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.5ノットの速力で進行した。
08時01分半わずか過ぎB指定海難関係人は、北副防波堤灯台から042度900メートルの地点に至ったとき、右舷船首53度1,510メートルに北防波堤の内側を南下するにちあす丸を初認し、同時07分少し前北副防波堤灯台から078度230メートルの地点において、針路を232度に転じた。
08時07分半B指定海難関係人は、北副防波堤灯台から090.5度150メートルの地点に達したとき、右舷船首16度710メートルとなったにちあす丸が防波堤入口からの出航船であり、同入口付近で出会うおそれがあることを知ったが、速やかに行きあしを止めるなどして防波堤の外で出航するにちあす丸の進路を避けることなく続航した。
08時08分半B指定海難関係人は、北副防波堤灯台から154度100メートルの地点に至り、防波堤入口に向けて右転を開始したものの、同時09分半船首至近に迫ったにちあす丸に危険を感じ、左舵をとって機関を後進にかけたが及ばず、ベ号は、270度を向首し、2.0ノットの残速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、にちあす丸及びベ号は、いずれも船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、北海道小樽港において、入航するベ号と出航するにちあす丸とが、防波堤入口付近で出会うおそれがあった際、ベ号が、防波堤の外で出航するにちあす丸の進路を避けなかったことによって発生したが、にちあす丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、北海道小樽港において、防波堤入口に向けて出航中、入航するベ号が同入口付近で出会うおそれがある態勢のまま、防波堤の外で自船の進路を避けずに接近するのを認めた場合、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、そのうちベ号が自船の進路を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、ベ号との衝突を招き、にちあす丸及びベ号の両船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、北海道小樽港において、防波堤入口に向けて入航中、同入口付近で出会うおそれがある態勢で出航するにちあす丸を認めた際、防波堤の外で同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。