(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月19日19時55分
愛媛県大下瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第七昭栄丸 |
漁船寿丸 |
総トン数 |
198.90トン |
4.9トン |
全長 |
38.52メートル |
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登録長 |
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11.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
257キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
第七昭栄丸(以下「昭栄丸」という。)は、船尾船橋型液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.98メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成15年8月19日16時20分広島県福山港を発し、山口県宇部港に向かった。
A受審人は、18時00分布刈瀬戸付近で単独の船橋当直に就き、日没に合わせて法定灯火を表示し、19時49分大下島灯台から347度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点に達したとき、針路を大下瀬戸に向かって中央やや右方に向く190度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で進行した。
19時50分A受審人は、正船首1,300メートルのところに寿丸の白灯1個及び作業灯の光芒を視認することができ、更にそのレーダー映像も探知することができ、その後漂泊中の同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であった。
ところが、A受審人は、そのころレーダーで正船首少し左2海里ばかりに他船の映像を探知し、続いて白、白、紅3灯を認めて大下瀬戸を北上する反航船と分かり、同船との接近模様に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、寿丸に気付かず、同船を避けないまま続航した。
19時54分半少し過ぎA受審人は、前示反航船が左舷側100メートルに航過したのを確かめたのち、船橋後部の海図台に置いてある航海日誌に「1955大下」と記入した直後、19時55分大下島灯台から288度650メートルの地点において、昭栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が寿丸の右舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、潮流はほとんどなかった。
また、寿丸は、汽笛不装備の小型底びき網漁業に従事する中央部に操舵室を備えた全長12メートル以上のFRP製漁船で、B受審人(平成7年3月四級小型船舶操縦士免許取得)が弟と2人で乗り組み、操業のため、船首0.15メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日11時00分愛媛県今治港を発して安芸灘東部漁場に至り、船尾甲板のネットホーラから延出された2本のワイヤロープ先端に、網口開口用桁を取り付けた幅約10メートル長さ約20メートルの網を連結して操業を繰り返したところ、網口付近に破口が生じたので補修することとした。
19時05分B受審人は、岡村島観音埼南方1海里ばかりの地点を発進して風浪の影響を受けない大下瀬戸に向かい、同時20分衝突地点付近に至って機関を中立として漂泊したが、漂泊に際しては白色全周灯だけを点灯すればよいものと思い、舷灯を消灯して法定灯火を適切に表示することなく、白色全周灯1個を点灯したまま船尾甲板オーニング下の作業灯3個を点灯し、網口を船尾甲板に引き揚げて残りを海中に入れた状態で弟とともに漁網の補修作業を始めた。
ところが、19時50分B受審人は、衝突地点において船首を000度に向けた船尾甲板で作業を続けていたとき、右舷船首10度1,300メートルのところに昭栄丸の白、白、紅、緑4灯を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、漁網の補修作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かなかった。
こうして、B受審人は、昭栄丸が自船を避けないまま接近したものの、昭栄丸に対して避航を促すための音響による信号を行わず、更に間近に接近したとき機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続け、19時55分少し前機関音を聞いて船首至近に迫った昭栄丸を認め、驚いて機関を操作しようとしたがどうすることもできず、寿丸は、000度に向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、昭栄丸は右舷外板の船首部から中央部にかけて擦過傷を生じ、寿丸は船首部を圧壊し、右舷外板全般に凹損などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、愛媛県大下瀬戸において、南下する昭栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の寿丸を避けなかったことによって発生したが、汽笛不装備の寿丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、避航を促すための音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、愛媛県大下瀬戸において、単独で船橋当直に当たって南下する場合、同瀬戸のほぼ中央で漂泊中の寿丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方からの反航船との接近模様に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、寿丸に気付かず、同船を避けないまま進行して寿丸との衝突を招き、昭栄丸の右舷外板の船首部から中央部にかけて擦過傷を、寿丸の船首部を圧壊及び右舷外板全般に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、愛媛県大下瀬戸において、漂泊しながら漁網の補修作業を行う場合、自船に向かって接近する昭栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁網の補修作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、避航を促すための音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けて昭栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。