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平成15年広審第133号
件名

貨物船第一 三社丸貨物船ニューしんこう丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年4月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、西田克史)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第一 三社丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:ニューしんこう丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第一 三社丸・・・右舷中央部やや後方の外板に破口
ニューしんこう丸・・・船首部外板に亀裂及び凹損

原因
第一 三社丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守
ニューしんこう丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守

主文

 本件衝突は、第一 三社丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、ニューしんこう丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月23日02時45分
 瀬戸内海 安芸灘
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一 三社丸 貨物船ニューしんこう丸
総トン数 456トン 195トン
全長 57.01メートル 55.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 588キロワット

3 事実の経過
 第一 三社丸(以下「三社丸」という。)は、船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉で、船首0.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成15年6月22日17時20分兵庫県姫路港を発し、広島県東能美島の大柿港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らを含め一等航海士、次席一等航海士及び機関長の4人による単独3時間の4直制とし、出航操船ののち船橋当直を交替して播磨灘北部を西行し、備讃瀬戸及び宮ノ窪瀬戸を経て安芸灘に至った。
 休息中に目覚めたA受審人は、翌23日02時30分広島県斎島の北方約1海里付近で昇橋したところ、周囲は霧模様で視程は約3海里であったので、自らの当直は03時00分からであったものの当直中の機関長から引き継いで船橋当直に就き、02時32分半鴨瀬灯台から106度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、法定の灯火を掲げ、針路を243度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分650の全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、間もなく視程が約500メートルに狭められて視界制限状態となったものの、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもなく、3海里レンジとし画面の中心を1海里後方に移動させたレーダーで周囲の見張りを行っていたところ、02時36分左舷船首7度3.3海里にニューしんこう丸(以下「しんこう丸」という。)の映像を初めて探知し、更に右舷船首方のほぼ同じ距離のところに他の2隻の映像を探知して、映像の残像を残す機能で表示させた航跡によっていずれも反航船であることを知り、その後レーダーでそれらの動静を監視しながら続航した。
 ところが、02時37分A受審人は、鴨瀬灯台から134度1.2海里の地点に達したとき、しんこう丸の映像を左舷船首7度2.9海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、転舵によってしんこう丸を含む反航船3隻をまとめて替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、右舷船首方の反航船2隻の前方を横切ることにならないように左転することとし、在橋中の機関長に手動操舵に切り替えさせて、針路をしんこう丸の映像がレーダーの船首輝線の少し右側になる235度に転じ、その後も小刻みに左転を繰り返しながら進行した。
 こうして、02時43分半A受審人は、しんこう丸の映像が右方に十分に替わっていかないので、自動吹鳴によって霧中信号を開始するとともに機関を回転数毎分580の9.0ノットに減じ、右舷船首方を注視して同船の灯火を探していたところ、同時45分わずか前右舷前方至近に左方に向かう態勢のマスト灯2個を視認し、直ちに左舵一杯を取るとともに汽笛短3声を吹鳴しながら機関を半速力後進としたが及ばず、02時45分鴨瀬灯台から185度1.8海里の地点において、三社丸は、180度に向首し、8.0ノットの速力になったとき、その右舷中央部やや後方に、しんこう丸の船首が、前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約100メートルであった。
 また、しんこう丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか1人が乗り組み、空倉で、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同月22日17時30分福岡県苅田港を発し、岡山県水島港に向かった。
 B受審人は、船橋当直を自ら及び機関長の2人による単独4時間の2直制として周防灘を東行し、翌23日00時00分平郡水道第3号灯浮標付近で昇橋して船橋当直に就き、法定の灯火を掲げて伊予灘北部を東行したところ、周囲は霧模様となり、やがて視程が約400メートルに狭められて視界制限状態となったものの、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもなく、レーダーで周囲の見張りを行いながらクダコ水道を経て安芸灘に至った。
 02時25分B受審人は、安芸灘北航路灯浮標を航過したころ、同灯浮標の視認模様から視界が更に悪化して視程が約50メートルに狭められたことを知り、同時27分鴨瀬灯台から222度4.7海里の地点で、針路を060度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進より少し減じた回転数毎分340にかけ、11.3ノットの速力で、左舷正横方の同航船2隻とともに進行した。
 B受審人は、3海里レンジとし画面の中心を1海里後方に移動させたレーダーで見張りを行っていたところ、02時36分左舷船首4度3.3海里に三社丸の映像を初めて探知し、同映像の接近模様から反航船であることを知り、その後レーダーでその動静を監視しながら続航した。
 ところが、02時37分B受審人は、鴨瀬灯台から211度2.9海里の地点に達したとき、三社丸の映像を左舷船首4度2.9海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同映像がレーダーの船首輝線の左側にあるので互いに左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 こうして、02時39分B受審人は、鴨瀬灯台から207度2.6海里の地点で、三社丸の映像を左舷船首5度2.2海里に認めるようになったとき、同船との航過距離を離そうとして自動操舵のままわずかずつ右転を繰り返しながら続航したところ、同時45分わずか前三社丸が吹鳴した汽笛を聞き、次いで左舷前方至近に右方に向かう態勢のマスト灯2個を視認し、直ちに機関を後進としたが効なく、しんこう丸は、070度に向首し、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、三社丸は右舷中央部やや後方の外板に破口を生じ、しんこう丸は船首部外板に亀裂及び凹損を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧により視界制限状態となった安芸灘において、西行する三社丸が、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知したしんこう丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するしんこう丸が、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知した三社丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧により視界制限状態となった安芸灘を安全な速力としないまま西行中、レーダーで前路に探知したしんこう丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、転舵によってしんこう丸を含む反航船3隻をまとめて替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、転舵を繰り返しながら進行して、しんこう丸との衝突を招き、三社丸の右舷中央部やや後方の外板に破口を生じさせ、しんこう丸の船首部外板に亀裂及び凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、霧により視界制限状態となった安芸灘を安全な速力としないまま東行中、レーダーで前路に探知した三社丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、三社丸のレーダー映像が船首輝線の左側にあるので互いに左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、同船との航過距離を離そうと転舵を繰り返しながら進行して、三社丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





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