(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月5日03時44分
宮城県金華山沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第弐三鳳丸 |
貨物船大濱丸 |
総トン数 |
1,499トン |
497トン |
全長 |
84.97メートル |
68.77メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,059キロワット |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第弐三鳳丸(以下「三鳳丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、A及びB両受審人ほか7人が乗り組み、ガソリンなど2,580キロリットルを積載し、船首4.3メートル船尾5.7メートルの喫水をもって、平成15年8月4日18時15分宮城県仙台塩釜港を発し、時間調整のため同港外で投錨仮泊したのち、翌5日01時55分花淵灯台から149度(真方位、以下同じ。)5.4海里の錨地を発し、法定灯火を表示して宮城県気仙沼港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び次席一等航海士にそれぞれ相直者を配した4時間3直制とし、船長命令簿に毎航海当直時の指示事項を記載して当直者にこれを読んでサインするよう指導しており、当日も抜錨前に当直中視界不良や航行上の不安を感じたら船長に報告することなど7項目を記載していた。
出港操船を終えたA受審人は、02時25分出港配置から昇橋した次席一等航海士に当直を任せたとき、三陸沖に海上濃霧警報及び宮城県に濃霧注意報が発表されて視界の悪化が予測される状況であったが、船長命令簿に当直中視界不良となった際には報告するよう記載したので視界が狭められれば適宜報告してくるものと思い、同命令簿に警報の発表状況及び報告すべき具体的な視程も合わせて記載したうえ、視界が狭められれば必ず報告する旨をB受審人にも申し送るよう同航海士に対して指示を十分に行うことなく、降橋して自室で休息した。
当直に就いた次席一等航海士は、船長命令簿を読み、発航時には6海里あった視程が交替後には時々視界制限状態となる状況となったが、その旨を船長に報告しなかった。
03時32分B受審人は、金華山灯台から200度3.9海里の地点で昇橋し、前直の次席一等航海士から発航時には6海里あった視程が時々視界制限状態となったことがあり、金華山沖に数隻の漁船がいる旨の引継ぎを受けるとともに船長命令簿を読んで当直を交替し、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、相直の次席二等航海士を見張りに当たらせて進行した。
03時37分B受審人は、金華山灯台から185度3.6海里の、金華山東方に向かう左転予定地点に達したとき、6海里レンジのレーダーにより左舷船首37度2.2海里のところに大濱丸の映像を初めて探知し、金華山南方に数隻の漁船も探知していたので、予定の左転を中止してしばらく直進することとし、手動操舵に切り替えて自ら操舵に当たり、そのころ霧のため大濱丸の灯火を視認できないので視界制限状態となったことを認めたが、視界はそのうち回復するものと思い、A受審人にその旨を報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく続航した。
03時38分B受審人は、左舷船首37度1.9海里に大濱丸の映像を認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、左舷前方から接近する大濱丸が互いに視野の内にある船舶の航法に準じて自船を避航してくれるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することなく、同じ針路、速力で進行した。
03時43分B受審人は、同方向0.3海里に大濱丸の映像が接近したので衝突の危険を感じ、針路を110度に転じて10.0ノットに減速し、同時44分少し前左舷前方至近に大濱丸の白、白、緑3灯を初めて認め、驚いて左舵一杯、全速力後進としたが効なく、03時44分金華山灯台から163度3.8海里の地点において、三鳳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が大濱丸の右舷後部に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はなく、視程は約150メートルで、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、自室で休息中に衝突の衝撃で目覚めて昇橋し、間もなく沈没した大濱丸の乗組員救助など事後の措置に当たった。
また、大濱丸は、船尾船橋型貨物船で、C受審人及び船長Dほか2人が乗り組み、石灰石の砕石1,600トンを載せ、船首3.7メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、同月4日14時30分青森県八戸港を発し、京浜港に向かった。
ところで、D船長は、船橋当直を自らとC受審人及び一等航海士とによる単独4時間3直制とし、当直交替の30分前には昇橋して引継ぎを行うようにしていた。
翌5日03時28分C受審人は、金華山灯台から105度2.0海里の地点で、前直の一等航海士から左舷後方1海里に同航船及び右舷前方の金華山南方にも5、6隻のレーダー映像があり、それらは移動しないので漁船である旨の引継ぎを受けて当直を交替し、針路を195度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.8ノットの速力で進行した。
C受審人は、その後同航船の航海灯が視認できないので霧のため視界制限状態であることを認めるようになったが、危険な他船はいないので単独のまま当直を行おうと思い、D船長にこの旨を報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく続航した。
03時38分C受審人は、金華山灯台から150度2.9海里の地点に達したとき、右舷船首38度1.9海里のところで、漁船群の南方に存在する三鳳丸をレーダーで探知でき、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、右舷前方の映像はすべて漁船群と思い、適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しないまま、同じ針路、速力で進行した。
03時44分少し前C受審人は、右舷前方至近に三鳳丸の白、白、紅3灯を初めて認めたが、何をする間もなく、大濱丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、三鳳丸は船首部外板に破口を含む凹損を生じたが、のち修理され、大濱丸は右舷後部外板に破口を生じて沈没し、D船長が行方不明となり、他の乗組員3人は三鳳丸に救助され、機関長E及び一等航海士Fが打撲傷をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、霧のため視界が制限された宮城県金華山沖合において、東行する三鳳丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーにより探知した大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、南下する大濱丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、三鳳丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
三鳳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界制限状態の報告について指示を十分に行わなかったことと、船橋当直者が、視界制限状態の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、出港操船を終えて次席一等航海士に船橋当直を任せる場合、海上濃霧警報が発表されて視界の悪化が予測されたから、視界制限状態時に自ら操船指揮を執ることができるよう、船長命令簿に警報の発表状況及び報告すべき具体的な視程なども合わせて記載したうえ、視界が狭められた際には必ず報告する旨をB受審人にも申し送るよう同航海士に対して指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、同命令簿に視界制限状態となった際の報告について記載したので視界が狭められれば適宜報告してくるものと思い、次席一等航海士に対して同指示を十分に行わなかった職務上の過失により、B受審人から視界制限状態となった旨の報告を得られなかったので自ら操船指揮を執ることができず、大濱丸との衝突を招き、三鳳丸の船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせ、大濱丸の右舷後部外板に破口を生じて沈没させ、更にD船長が行方不明並びにE機関長及びF一等航海士に打撲傷をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、霧のため視界が制限された宮城県金華山沖合を東行中、レーダーにより左舷前方に探知した大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷前方から接近する同船が互いに視野の内にある船舶の航法に準じて自船を避航してくれるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、そのまま進行して大濱丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、夜間、霧のため視界が制限された宮城県金華山沖合において、右舷前方の移動しない漁船群のレーダー映像を認めながら南下する場合、同漁船群の後方から接近する三鳳丸のレーダー映像を見落とさないよう、適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の映像はすべて漁船群と思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、三鳳丸のレーダー映像を見落とし、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することもしないまま進行して三鳳丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。