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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年広審第10号
件名

貨物船幸栄丸漁船勝栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年4月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、供田仁男、道前洋志)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:幸栄丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:勝栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸栄丸・・・損傷ない
勝栄丸・・・船首部を圧壊し、揚網機の油圧ポンプ及び燃料タンクが移動

原因
幸栄丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
勝栄丸・・・警告信号不履行

主文

 本件衝突は、幸栄丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している勝栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、勝栄丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月1日11時02分
 瀬戸内海 播磨灘南西部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船幸栄丸 漁船勝栄丸
総トン数 497トン 4.99トン
全長 74.00メートル  
登録長   10.39メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 幸栄丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、ソーダ灰約982トンを積載し、船首3.15メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、平成15年6月30日18時30分山口県徳山下松港を発し、京浜港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らを含め一等航海士及び甲板長の3人による単独4時間の3直制とし、来島海峡航路及び備讃瀬戸南航路を東行して、翌7月1日08時00分南備讃瀬戸大橋の手前約2海里のところで昇橋して船橋当直に就き、備讃瀬戸東航路を通航して、10時23分ごろ同航路の東口を出て播磨灘に至った。
 備讃瀬戸東航路を出たときA受審人は、右舷船首方に数団の操業中の底引き網漁船群を認め、その後順次右舷側近距離に同漁船群を航過しながら、操舵室右舷側前部に置かれた椅子に腰掛けて当直にあたり、10時45分馬ケ鼻灯台から060度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を鳴門海峡北口に向く112度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 10時57分A受審人は、馬ケ鼻灯台から082度4.7海里の地点に達したとき、正船首1.2海里に、法定の形象物を掲げて漁ろうに従事している勝栄丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、右舷側近距離に航過する漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、勝栄丸の進路を避けないまま続航した。
 こうして、10時59分半A受審人は、最後の漁船群をほぼ航過するころ、船位測定の時刻が迫ったことから、操舵室左舷側後部のGPSが設置された海図台に赴き、船位を測定して海図に記入中、11時02分馬ケ鼻灯台から087度5.5海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、勝栄丸の左舷船首に前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は高潮時であった。
 また、勝栄丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日05時00分香川県津田港を発し、同港の北東方約7海里沖合の漁場に向かい、06時00分同漁場に至って、漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物を操舵室上部マストの少し後方に掲げて操業を開始した。
 ところで、勝栄丸の行う底引き網漁は、長さ250メートルのワイヤロープ及び中間に開口板を取り付けた同154メートルのロープを順に連結したえい網索を船尾両舷からそれぞれ延出し、それらの先端に長さ約13メートルの袋網を取り付け、約3ノットの速力で1時間ほどえい網したのち揚網して漁獲するものであった。
 操業を繰り返したB受審人は、10時30分馬ケ鼻灯台から092度7.0海里の地点で、針路を292度に定め、機関を半速力前進にかけ、3.0ノットの速力で手動操舵により進行し、この日4回目のえい網を開始した。
 B受審人は、操舵室の左舷寄りにある操舵装置の後方で周囲の見張りを行っていたところ、10時55分馬ケ鼻灯台から088度5.8海里の地点に達したとき、正船首1.7海里に自船に向首する幸栄丸を初めて視認して、その動静を監視し、同時57分同船が正船首1.2海里となり、その後幸栄丸が自船の進路を避ける気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、法定の形象物を掲げているので、そのうち幸栄丸が漁ろうに従事している自船の進路を避けるものと思い、装備した電動ホーンで警告信号を行うことなく続航した。
 こうして、B受審人は、幸栄丸が自船に向首したまま近距離に接近してようやく衝突の危険を感じ、11時01分右舵をとったものの、やや右舷船尾方に張ったえい網索によって船首が回頭しないため、左舵一杯をとり、次いで機関を後進にかけた直後、勝栄丸は、282度に向首し、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸栄丸に損傷はなかったが、勝栄丸は船首部を圧壊し、揚網機の油圧ポンプ及び燃料タンクが移動したが、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、播磨灘南西部において、幸栄丸が、見張り不十分で、前路で漁ろうに従事している勝栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、勝栄丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、播磨灘南西部において、右舷側近距離に漁船群を航過しながら東行する場合、正船首方で法定の形象物を掲げて漁ろうに従事している勝栄丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷側の漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で漁ろうに従事している勝栄丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、勝栄丸の船首部を圧壊させ、揚網機の油圧ポンプ及び燃料タンクが移動する事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、播磨灘南西部の漁場において、底引き網をえい網中、幸栄丸が正船首方から避航の気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近した場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、法定の形象物を掲げているので、そのうち幸栄丸が漁ろうに従事している自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、幸栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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