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平成15年神審第86号
件名

漁船第八俊栄丸貨物船マジック スカイ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年4月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、相田尚武)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第八俊栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八俊栄丸機関長

損害
第八俊栄丸・・・船首部と右舷側船体外板を損壊
マジック スカイ・・・左舷船首部に擦過傷

原因
第八俊栄丸・・・船橋を無人としたこと、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
マジック スカイ・・・警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八俊栄丸が、船橋を無人とし、前路を左方に横切るマジック スカイの進路を避けなかったことによって発生したが、マジック スカイが、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月12日01時14分
 高知県足摺岬南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八俊栄丸 貨物船マジック スカイ
総トン数 63.61トン 21,574トン
全長 28.20メートル 165.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 411キロワット 6,840キロワット

3 事実の経過
 第八俊栄丸(以下「俊栄丸」という。)は、まぐろはえなわ漁業に従事する中央船橋型のFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、船首1.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、操業のため外国人乗組員を乗船させる目的で、平成15年6月11日15時00分大分県保戸島(ほとじま)漁港を発し、グアム島に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を自らが18時から21時、甲板員が21時から00時、B指定海難関係人が00時から03時及び機関員が03時から06時までの単独4直3時間交替制としていた。
 18時00分A受審人は、高知県足摺岬の西北西方で、船橋当直に就いて豊後水道を南下し、21時00分足摺岬の西南西方28海里ばかりの地点に達し、次直の甲板員と当直を交替するとき、無資格の同人に対し、特に注意を与えるまでもなく、当直者が当直中に船橋を離れる際には、自分に報告してくれるものと思い、船橋を離れる際には、船長に報告して昇橋を求めること、また、それを申し送り事項として、次直者に伝えるよう十分に指示することなく、船橋左舷後部の寝台に退いて休息した。
 翌12日00時00分B指定海難関係人は、足摺岬灯台から202度(真方位、以下同じ。)32.3海里の地点で、前直の甲板員と交替して船橋当直に就き、法定の灯火を表示して針路を145度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 01時00分B指定海難関係人は、足摺岬灯台から192度37.3海里に達したとき、レーダーによるマジック スカイ(以下「マ号」という。)の映像を右舷船首70度3.2海里に認めたものの、同船とは無難に替わると思い、便意を催したので、船尾楼甲板後部のトイレに赴くこととし、船橋を離れ無人として続航した。
 01時05分B指定海難関係人は、足摺岬灯台から191度37.8海里の地点に達し、右舷船首71度2.0海里のところに、マ号の白、白、紅3灯を視認できる状況で、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋を無人としていてこのことに気付かなかったので、A受審人に報告することができず、俊栄丸はマ号の進路を避けないで進行した。
 こうして、B指定海難関係人は、トイレで用を足していたところ、01時14分足摺岬灯台から190度38.6海里の地点において、俊栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部にマ号の左舷船首部が後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、マ号は、船首船橋型の鋼製自動車運搬船で、船長C及び二等航海士D(以下「D二等航海士」という。)ほか中国人18人及び韓国人2人が乗り組み、空倉で、船首6.1メートル船尾7.2メートルの喫水をもって、平成15年6月10日17時00分大韓民国釜山港を発し、神奈川県横須賀港に向かった。
 翌々12日00時00分D二等航海士は、足摺岬灯台から207度49.0海里の地点で、一等航海士から引き継いで、甲板手1人とともに船橋当直に就き、法定の灯火を表示して針路を070度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.4ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 01時00分D二等航海士は、足摺岬灯台から194度40.2海里の地点において、左舷船首35度3.2海里のところに俊栄丸の白、緑2灯を初めて認め、その後レピーターコンパスを使用して同船の動静を監視しながら続航した。
 01時05分D二等航海士は、足摺岬灯台から193度39.7海里の地点に達したとき、左舷船首34度2.0海里のところに、俊栄丸が方位の変化のないまま前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを知り、その後同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかとなったので、携帯型サーチライトを俊栄丸に向けて照射したものの、同船がいずれ避航することを期待し、警告信号を行わず、自船の操縦性能を考慮して針路速力の保持から離れて直ちに右転するなど、衝突を避けるための動作をとることなく進行した。
 01時12分少し前D二等航海士は、俊栄丸が、依然避航する気配がないまま0.5海里ばかりに迫ったとき、衝突の危険を感じ、汽笛による長音1回を吹鳴し、手動操舵に切り替え、右舵20度として同船の動静を見守り、当て舵で回頭が止まり両船の船体がほぼ平行となって135度を向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、俊栄丸は、船首部と右舷側船体外板を損壊したが、のち修理され、マ号は、左舷船首部に擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、高知県足摺岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する俊栄丸が、船橋を無人とし、前路を左方に横切るマ号の進路を避けなかったことによって発生したが、東行するマ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 俊栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、当直中に船橋を離れる際には、船長に報告して昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送るよう十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、船橋を離れる際に船長に報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、高知県足摺岬西南西方沖合を南下中、無資格者を単独で船橋当直にあたらせる場合、当直中に船橋を離れる際には船長に報告して昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送るよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、特に注意を与えるまでもなく、当直中に当直者が船橋を離れる際には、自分に報告してくれるものと思い、船橋を離れる際には船長に報告して昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送るよう十分に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が用を足すため、船橋を無人とし、右舷方から衝突のおそれがある態勢で接近するマ号の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、俊栄丸の船首部と右舷側船体外板を損壊させ、マ号の左舷船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直にあたり、高知県足摺岬南方沖合を南下中、船長に報告して昇橋を求めないまま、用を足すため船橋を無人としたことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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