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平成15年神審第104号
件名

漁船第8喜代丸漁船第十五漁勝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年4月15日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、小金沢重充)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第8喜代丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:第十五漁勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第8喜代丸甲板員 

損害
第8喜代丸・・・左舷後部外板に亀裂及びいか釣り機に損傷
第十五漁勝丸・・・船首部外板に破口

原因
第8喜代丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守
第十五漁勝丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守

主文

 本件衝突は、第8喜代丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第十五漁勝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月2日12時40分
 石川県禄剛埼北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第8喜代丸 漁船第十五漁勝丸
総トン数 19.82トン 8.5トン
全長 22.47メートル  
登録長   14.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット  
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 第8喜代丸(以下「喜代丸」という。)は、いか一本釣り漁業などに従事する船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成10年2月9日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成14年12月1日05時30分富山県黒部漁港を発し、17時30分石川県禄剛(ろっこう)埼北西方沖合50海里の漁場に至って操業し、いか2.3トンを獲たのち、翌2日07時40分同漁場を発進し、帰途に就いた。
 11時00分A受審人は、舳倉(へぐら)島の北西方2.4海里の地点に達したとき、B指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが、同人が当直経験が豊富なので、視界が制限される状況になれば報告してくれるものと思い、視界が制限される状況になったら、速やかに報告するよう十分に指示することなく、当直を交替し降橋した。
 B指定海難関係人は、単独の船橋当直に就き、11時15分嫁礁(よめぐり)灯標から304度(真方位、以下同じ。)17.6海里の地点で、針路を禄剛埼に向く130度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 12時20分ころB指定海難関係人は、嫁礁灯標の西北西方6海里ばかりの地点に達し、雨ともやのため、左舷前方と右舷後方の視界が急速に悪化して視程が約1,000メートルとなり、視界制限状態になったが、このことをA受審人に報告しないで、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。
 12時33分B指定海難関係人は、嫁礁灯標から278度3.8海里の地点に達したとき、左舷船首51度2.0海里のところに接近する第十五漁勝丸(以下「漁勝丸」という。)をレーダーで探知できる状況となり、その後同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、レーダーを十分に使うことができなかったのでこのことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま進行中、12時40分嫁礁灯標から264度2.8海里の地点において、喜代丸は、原針路、原速力のまま、その左舷後部に、漁勝丸の船首が、ほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は雨ともやで風力4の東風が吹き、視程は約1,000メートルであった。
 A受審人は、自室で休息中、衝撃で直ちに昇橋して衝突を知り、事後の措置にあたった。
 また、漁勝丸は底びき網漁業に従事する船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成12年1月19日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するC受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同14年12月1日20時00分石川県輪島港を発し、22時50分同港北東方沖合35海里の漁場に至って翌朝まで操業を繰り返し、かに100キログラムを獲たのち、翌2日11時00分嫁礁灯標から035度20.6海里の地点を発進し、帰途に就いた。
 前示地点を発進したとき、C受審人は単独で船橋当直に就き、針路を輪島港に向く220度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 12時20分ころC受審人は、嫁礁灯標の北方3海里ばかりの地点に達し、折からの雨ともやのため視界が著しく制限される状況となったが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。
 C受審人は、3海里レンジとしていたレーダーの感度をいつもより大幅に絞っていたので、他船の映像が映りにくく、レーダーの機能が十分に発揮できない状態のまま、12時25分操舵室後部の畳敷きの床に横になって僚船との通信連絡を始めた。
 12時33分C受審人は、嫁礁灯標から300度2.0海里の地点に達したとき、右舷船首39度2.0海里のところに接近する喜代丸をレーダーで探知できる状況であったが、僚船との無線連絡に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、その後喜代丸と著しく接近することが避けられない状況となったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行し、同時40分わずか前、船首方を確認しようと起きあがったとき、船首至近に迫った喜代丸の船体を初めて認め、直ちに機関を停止したが効なく、漁勝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、喜代丸は左舷後部外板に亀裂及びいか釣り機に損傷を、漁勝丸は船首部外板に破口をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、雨ともやにより視界が制限された石川県禄剛埼北西方沖合において、喜代丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる見張り不十分で、前路の漁勝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、漁勝丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる見張り不十分で、喜代丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 喜代丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界が制限される状況になった際、速やかに報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、視界が制限される状況になった際、船長に報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、石川県禄剛埼北西方沖合を航行中、無資格者に船橋当直を行わせる場合、視界が制限される状況になったら、速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者が当直経験が豊富なので、視界が制限される状況になれば報告してくれるものと思い、同人に対し、視界が制限される状況になれば速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から視界が制限される状況になった旨の報告が得られず、自ら操船の指揮を執ることができないまま進行して漁勝丸との衝突を招き、喜代丸の左舷後部外板に亀裂及びいか釣り機に損傷を、漁勝丸の船首部外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、雨ともやにより視界が制限された石川県禄剛埼北西方沖合を航行する場合、接近する喜代丸を見落とすことのないようレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、僚船との無線連絡に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、喜代丸の存在に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船橋当直中、視界が制限される状況になった際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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