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平成15年仙審第45号
件名

プレジャーボート(船名なし)プレジャーボートマリン号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年4月13日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(吉澤和彦、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:プレジャーボート(船名なし)船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:マリン号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プレジャーボート(船名なし)・・・左舷外板を破損、同乗者1名が溺死、他の同乗者3人が骨折等の重軽傷
マリン号・・・船首外板に擦過傷、同乗者が打撲傷

原因
マリン号・・・見張り不十分、船員の常務(新たな衝突の危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
プレジャーボート(船名なし)・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、マリン号が、見張り不十分で、転針進行して新たな衝突の危険を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月1日16時55分
 福島県猪苗代湖
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート(船名なし) プレジャーボートマリン号
総トン数   0.1トン
全長 5.40メートル  
登録長   2.51メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 7キロワット 106キロワット
3 事実の経過
(1)プレジャーボート(船名なし)
 プレジャーボート(船名なし)(以下「細矢丸」という。)は、船尾に船外機を装備した無甲板の和船型FRP製モーターボートで、A受審人が知人から譲り受け、船舶登録がなされないまま福島県猪苗代湖において使用されており、最大速力が16ノット(時速約30キロメートル、以下、キロで時速を表示する。)、半滑走状態の13キロでは船首が浮き上がり、船尾に座った操船者から前方の湖岸線が船首によって一部遮蔽され、同速力における停止距離が全長の約3倍に相当する15メートルであった。
(2)マリン号
 マリン号(以下「マ号」という。)は、最大搭載人員2人、跨乗式座席を装備したウォータージェット推進のFRP製水上オートバイで、操縦ハンドルにより船尾のジェットノズルの噴射方向を左右に変えて旋回し、同ハンドルグリップのスロットルレバーの握りの強弱によって速力を調整し、2人乗船時の最高速力が約70キロ、旋回径が登録長の約3倍に相当する8メートルであった。
(3)受審人A
 A受審人は、昭和51年1月四級小型船舶操縦士の免許を取得し、猪苗代湖畔の福島県猪苗代町志田浜において土産物兼飲食店の経営や貸ボート業に従事する傍ら、細矢丸を使用して、同業者らが同湖畔沖合に係留している遊覧用モーターボートの各船長達を送迎する仕事にも携わっていた。
(4)受審人B
 B受審人は、志田浜のD株式会社の社員で、平成15年6月二級小型船舶操縦士(5トン限定・1海里限定)及び特殊小型船舶操縦士の免許を取得し、これまでモーターボートの操縦経験はあったものの、水上オートバイを操縦したことがなかった。
(5)発生水域付近の状況
 志田浜は、猪苗代湖の北東岸にあり、湖岸沿いに土産物兼飲食店等が多数存在し、その多くが遊覧用モーターボートを所有して運航しており、湖岸には南北にわたって乗下船用の浮桟橋がほぼ直角に6個設置され、北端の桟橋がキャプテン桟橋、その南側がレステル・ちどり桟橋、続いてつるや・桜井桟橋、南端がまるや桟橋とそれぞれ呼称されていた。
 そして、遊覧用モーターボートは、16時半ころに営業を終えるとキャプテン桟橋北側の湖岸から西方沖合約100メートルないし300メートルの水域にブイ係留されるようになっており、各船の船長達は細矢丸によって営業開始前と終了後に送迎されていた。
(6)事件発生に至る経緯
 細矢丸は、A受審人が1人で乗り組み、遊覧用モーターボート4隻の船長達を搬送する目的で、平成15年8月1日16時45分つるや・桜井桟橋を発して同ボートの係留水域に向かい、各船の船長4人を収容したのち、全員救命胴衣を着用しないまま、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同時53分半わずか過ぎ猪苗代町の酸釜山三角点から277度(真方位、以下同じ。)2,475メートルにあたる、キャプテン桟橋の先端(以下「基点」という。)から292度350メートルの地点を発進した。
 A受審人は、同乗者の1人を船首部中央に、2人をその後方の左右舷寄りに、残りの1人をその後方左舷寄りに座らせ、自らは船尾右舷側の物入れ上に腰掛け、左手で機関の操縦桿を握って操船に当たり、同乗者の最初の下船予定地点であるまるや桟橋に向く134度に針路を定め、13.0キロ(対地速力、以下同じ。)で航行を開始したところ、右舷方約500メートルに遊走中のマリン号を認めたが、他に航行中の船舶を認めなかった。
 A受審人は、以前送迎の途中で、危険を感じるほどではないものの、水上オートバイから自船に接近され、前後を横切ったり一時併走されるなどの行為を何回か受けた経験があったが、マリン号を初認したとき同船が離れたところを遊走中であったから接近してくることはあるまいと思い、その後動静を監視しなかった。
 54分35秒A受審人は、操舵目標のまるや桟橋付近を注視したまま進行していたところ、船尾方約50メートルのところをマリン号が左方に横切り、南東進する自船を追いかける態勢で東進したが、動静監視を行っていなかったうえ、接近するマリン号の航走音が自船の機関音に妨げられて聞こえなかったので、同船が左舷方を航行していることに気付かなかった。
 54分50秒A受審人は、マリン号が左舷船首62度90メートルの地点において旋回し、蛇行しながら南西進を開始したことによって新たな衝突の危険が生じたが、依然同船に対する動静監視をしていなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を後進にかけて船体を停止させるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、右舷寄りに座っていた同乗者の、「危ない。」という叫び声で左舷前方至近に迫ったマリン号に気付いたものの、どうすることもできず、16時55分基点から228度140メートルの地点において、原針路、原速力のままの細矢丸の左舷中央部付近にマリン号の左舷船首が前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、マリン号は、B受審人が、1人で乗り組み、後部座席に友人1人を同乗させ、自らは救命胴衣を着用していたものの、同乗者に着用を指示せず、遊走の目的で、喫水不詳のまま、同日16時50分キャプテン桟橋を発し、西方沖合に向かった。
 B受審人は、遊覧用モーターボートが係留されている水域の近くに差し掛かったとき、同ボートが16時半ころになるとブイに係留され、細矢丸が船長達を送迎するため行き来することを知っていたが、同船が船長達を収容中であったうえ、初めての水上オートバイの操縦に夢中になっていたこともあって、このことに気付かないまま通り過ぎた。
 B受審人は、湖岸から約600メートル沖合に至ったのち、35ないし40キロで蛇行に興じながら南進、東進、北進そして東進と方向を変え、キャプテン桟橋に接近する進路で遊走を続け、54分35秒細矢丸の船尾方約50メートルのところで同船の後方を通過したが、発航したとき湖上に航行する船舶を見かけなかったことから、以後その状況は変わっていないものと思い、ほとんど顔を斜め後方に向けたまま、自船の立てる航走波に見とれて周囲の見張りを全く行なっていなかったので、航行する細矢丸の存在に気付かなかった。
 54分50秒B受審人は、基点から228度60メートルの地点で旋回してほぼ南西に向く228度の針路としたとき、右舷船首24度90メートルのところに細矢丸が存在し、その後35.0キロで蛇行しながら進行を開始したことにより、細矢丸と新たな衝突の危険を生じさせることになったが、依然同じ操縦姿勢のまま周囲の見張りを行わなかったのでこのことに気付かず、速やかに旋回するなどして衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同乗者の、「危ない。」という叫び声を聞いた直後、マリン号が269度に向いたとき原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、細矢丸は左舷外板を破損し、マリン号は船首外板に擦過傷を生じた。また、衝突の衝撃で細矢丸の同乗者Eが水中に転落して溺死し、同船の同乗者3人が骨折等の重軽傷を負ったほか、マリン号の同乗者も打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、福島県猪苗代湖において、東進中のマリン号が、見張り不十分で、右転して新たな衝突の危険を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、南東進する細矢丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、福島県猪苗代湖を水上オートバイで遊走する場合、航行中の細矢丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、発航したとき湖上に航行中の船舶を見かけなかったことから、以後その状況は変わっていないものと思い、初めての水上オートバイの操縦に夢中となり、周囲の見張りを全く行わなかった職務上の過失により、自船の立てる航走波に見とれたまま細矢丸の間近で旋回後蛇行して新たな衝突の危険を生じさせ、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、細矢丸の左舷外板を破損させ、マリン号の船首外板に擦過傷を生じさせたばかりか、細矢丸の同乗者を水中に転落させて溺死に至らせ、両船の同乗者4人に骨折等の重軽傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 A受審人は、福島県猪苗代湖において、営業を終えて沖係留した遊覧用モーターボートの船長達を収容して湖岸に向け帰航する際、遊走するマリン号を認めた場合、以前に水上オートバイから自船に接近され、前後を横切ったり一時併走されるなどの行為を何回か受けた経験があり、水上オートバイは針路を定めず高速で接近することもあるから、その後も十分に動静を監視すべき注意義務があった。しかるに同人は、マリン号を初認したとき同船が離れたところを遊走中であったから接近してくることはあるまいと思い、その後の動静を監視しなかった職務上の過失により、マリン号が間近に接近して旋回し、蛇行しながら南西進を開始したことにより新たな衝突の危険が生じたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の両船の損傷とその同乗者の死傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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