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平成15年神審第106号
件名

旅客船あさかぜ丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武、竹内伸二、中井 勤)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:あさかぜ丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:C社工務部長 

損害
海水管に破口及び配線ケーブルなどが濡損

原因
海水管系統の点検不十分、船舶所有者の保守管理責任者の海水管系統点検についての指示不十分

主文

 本件浸水は、海水管系統の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 船舶所有者の保守管理責任者が、機関室及び軸室の海水管系統の点検について、指示が不十分であったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月29日07時17分
 明石海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船あさかぜ丸
総トン数 1,296トン
全長 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット

3 事実の経過
(1)あさかぜ丸の概要
 あさかぜ丸は、平成元年7月に進水した、兵庫県明石港と同県岩屋港間の定期航路に就航する全通一層甲板型鋼製旅客船兼自動車航送船で、車両甲板下は、船体中央部から後方にかけて、機関室、軸室、空所及び操舵機室に区画され、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を備えた2機2軸の推進機関が装備され、操舵室から主機回転数及びプロペラ翼角、ウイングから同翼角の遠隔制御がそれぞれ行えるようになっていた。
(2)軸室
 軸室は、長さ5.7メートル、幅14.0メートル、高さ3.4ないし4.2メートルで、両舷に軸系装置として、中間軸及び同軸受、コントロール軸及びピッチコントロールユニット、プロペラ軸が据え付けられ、船尾端に海水潤滑式船尾管及び端面シール方式の船尾管シール装置が備えられていたほか、船体中心線付近にCPPポンプユニットなどが設置されていた。
(3)船尾管潤滑海水管系統
 船尾管の潤滑と冷却及び封水用の海水系統は、シーチェストから各舷主機冷却海水ポンプにより吸引・加圧された海水が、主管に導かれたのち枝管に入り、止め弁を経て、圧力が0.3ないし0.4キログラム毎平方センチメートルに調整され、呼び径25Aの配管用炭素鋼鋼管(以下「船尾管潤滑海水管」という。)により船尾管シール装置ケーシングの2箇所から供給されていた。
(4)CPP遠隔制御装置
 CPPの遠隔制御装置は、電気・油圧方式で、その作動機構は、操舵室又はウイング操縦台の操縦レバーを中立から前進又は後進の目標翼角位置にすると、軸室のピッチコントロールユニット上の翼角追従箱(以下「追従箱」という。)に取り付けられたポテンショメータとの間に電位差が生じ、変節指令信号として同ユニット上の前進又は後進用の電磁比例制御弁(以下「電磁弁」という。)に通電して開閉し、圧力油が電磁弁を経てプロペラボス内の駆動ピストンの前進側又は後進側に作用し、プロペラ翼角を変節するようになっていた。
 一方、駆動ピストンの移動に伴い、追従箱のポテンショメータが連動して回転し、操縦レバーの位置と一致すれば、電位差が零となり、前示信号を絶って電磁弁への通電を止め、目標翼角で整定するようになっていた。
 また、操舵室からの制御が不能となった場合には、軸室船首側に設置された機側操縦箱の操縦位置切替えスイッチにより、同位置を軸室に切り替えたうえ、同箱の制御スイッチにより、電磁弁に通電してプロペラ翼角の制御が行えるようになっていた。
 そして、制御用電気回路は、電源として、電圧24ボルトの直流が供給され、電磁弁及び追従箱に至る回路には、ゴム絶縁ビニルシースあじろがい装ケーブル(以下「配線ケーブル」という。)が使用され、その配線の一部がコントロール軸付近において、船首側船底から高さ約1.5メートルの鋼製敷板(以下「床敷板」という。)下面に沿って敷設されていた。
(5)指定海難関係人B及び受審人A
 B指定海難関係人は、C社の工務部長として、あさかぜ丸ほか2隻の同社所有船の船体及び機関などの保守管理業務に携わり、あさかぜ丸が平成15年9月に第一種中間検査工事で入渠する予定で、工事内容を立案するにあたり、機関室の海水管からの漏水が多発する傾向にあったものの、機関長に対し、機関室及び軸室の海水管系統の腐食衰耗状況について、点検するよう指示しなかった。
 A受審人は、平成4年2月から機関長又は一等機関士として一括公認により雇入れされ、前示所有船3隻のうち、航海時間が20分前後で昼夜運航される2隻の船の運転管理や、残りの予備船1隻の整備作業などに従事していた。
 そして、1ないし2日の乗船中は、機関員1人と交替しながら当直にあたり、その後、1日の休暇で下船する就労体制で携わっていた。
(6)入渠時の状況
 あさかぜ丸は、B指定海難関係人が工事監督、A受審人が機関長として立ち会い、平成15年9月11日から18日まで前示工事で入渠し、継続検査計画表に基づいて両舷主機の開放整備などが行われたものの、軸室の左舷プロペラ軸の船尾管シール装置下方に配管された船尾管潤滑海水管において、長期間の使用により著しく腐食衰耗が進行していたが、海水管系統の点検及び整備が行われなかったので、このことが気付かれないまま、同工事を終えた。
(7)浸水に至る経緯
 A受審人は、9月26日から営業運航を開始したあさかぜ丸に乗り組み、翌27日休暇のため下船し、翌々28日10時35分再び乗り組んで機関の運転管理にあたっていたところ、軸室において、前示の腐食衰耗していた船尾管潤滑海水管に破口を生じて漏水が始まり、29日05時35分に機関室内の監視室で前直の機関員から当直を引き継いだとき、同海水管上方のグレーチング越しに認められる状況となったが、それまで軸室ビルジ量の顕著な増加が見られなかったことから、海水管の腐食破口による浸水がないものと思い、軸室の巡視を行うなど、定期的な海水管系統の点検を十分に行わなかったので、漏水していることに気付かなかった。
 A受審人は、前示船尾管潤滑海水管の破口部が拡大し、大量の海水が同部から軸室に浸入し始めたものの、当直交替後程なく機関室を離れ、入出港やそれに伴う車両の積卸しなどの作業に従事していたので、このことに気付かなかった。
 こうして、あさかぜ丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、旅客33人を乗せ、車両2台を積載し、船首尾とも2.7メートルの等喫水をもって、29日07時11分岩屋港を発し、両舷主機を回転数毎分610にかけ、翼角15度として11.0ノットの対地速力で、明石港に向け航行を始めて間もなく、軸室床敷板間近まで浸水し、右舷CPP遠隔制御装置の電磁弁及び追従箱に至る配線ケーブルが濡損(ぬれそん)し、絶縁材料が劣化していたことから漏電を生じ、変節指令信号が伝達されなくなり、07時17分岩屋港西防波堤東灯台から真方位089度300メートルの地点において、同装置が機能不能となり、操舵室でテレグラフ表示灯の取替え作業中のA受審人が、CPPの異常を知って軸室に急行し、浸水していることが発見された。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、付近海域には1.8ノットの北西流があった。
 A受審人は、操舵室の船長に報告し、軸室機側操縦箱の制御スイッチで右舷CPPの翼角制御を試みたが果たせず、間もなく左舷CPPも床敷板下の配線ケーブルが濡損したことから同様に制御不能となったが、それに気付かないまま雑用ポンプによる排水作業を行った。
 その結果、あさかぜ丸は、自力航行不能となり、救助を要請し、投錨後来援した海上保安庁の巡視船に旅客を移乗させ、のち引船により岩屋港に引き付けられ、その後、破口を生じた海水管、配線ケーブルなどが取り替えられ、軸室にビルジ高位警報装置が設置された。
(8)再発防止対策
 B指定海難関係人は、本件後、入渠時などに機関室及び軸室の腐食衰耗した海水管を順次取り替えるようにするなど、同種事故の再発防止対策を講じた。

(原因)
 本件浸水は、機関の運転管理にあたる際、海水管系統の点検が不十分で、船尾管シール装置下方に配管された船尾管潤滑海水管の腐食衰耗が進行して破口を生じ、海水が軸室に浸入したことによって発生したものである。
 船舶所有者の保守管理責任者が、入渠工事にあたり、機関長に対し、機関室及び軸室の海水管系統の点検について、指示が不十分であったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、機関の運転管理にあたる場合、軸室の海水管系統からの漏水の有無を把握できるよう、当直交替時に軸室の巡視を行うなど、定期的な海水管系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、軸室ビルジ量の顕著な増加が見られなかったことから、海水管の腐食破口による浸水がないものと思い、海水管系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、左舷プロペラ軸の船尾管潤滑海水管から漏水していることに気付かず、海水が同海水管破口部から軸室に浸入する事態を招き、CPP遠隔制御装置用電路が濡損して漏電を生じさせ、同装置を機能不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、入渠工事にあたり、機関長に対し、機関室及び軸室の海水管系統の点検について、指示が不十分であったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、入渠時などに腐食衰耗した海水管を順次取り替えるようにするなど、同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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