(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月27日16時50分
兵庫県東播磨港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船あいりゅう |
総トン数 |
197トン |
全長 |
55.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
あいりゅうは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉で、船首1.3メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成14年11月27日16時20分兵庫県東播磨港新島公共ふ頭を発し、関門港に向かった。
A受審人は、平成7年に就航したあいりゅうに船主船長として乗り組み、平成12年1月以降機関の免状を有する乗組員がいなくなったので、四級海技士(機関)の免状を有していた自らの職務を機関長に変更していたものの、その後も自ら航海計画を立て操船指揮を執っていた。
A受審人は、出港操船に引き続いて単独の船橋当直にあたり、16時39分少し前東播磨港別府西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から070度(真方位、以下同じ。)350メートルの地点で、東播磨港航路に入航し、針路を222度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
ところで、東播磨港航路は、西防波堤東端と東防波堤西端との間幅約400メートルの防波堤入口付近から南西方への長さ約3,800メートルの法定航路で、同航路西方には、西防波堤灯台から305度500メートル、235度1,750メートルの両地点を結んだ線の北西方約1,000メートルの範囲に区画漁業区域が設定され、多数ののり養殖施設が設置されていた。
また、A受審人は、東播磨港に何回か入出港したことがあり、のり養殖施設及び同施設を示す標識の存在を十分承知していた。
16時46分少し前A受審人は、西防波堤灯台から212度1,000メートルの地点に達したとき、折からの風浪によりレーダーを利用してものり網や標識が見つけにくい状況であったが、接近すれば標識を見ながらのり養殖施設を避けられるものと思い、同施設から十分に離れ、安全になるまで航路によって航行するなど、適切な針路を選定することなく、航程を短縮しようと、針路を同施設に著しく接近する状況となる268度に転じたのち、自動操舵に切り替えて続航した。
A受審人は、同じ針路速力で標識を探しながら進行し、16時50分少し前船首方至近に標識を認め、直ちに全速力後進としたが及ばず、同時50分西防波堤灯台から236度1,600メートルの地点において、あいりゅうは、1ないし2ノットの速力となったころ、原針路のままのり養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
その結果、あいりゅうに損傷はなく、のり養殖施設に損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件のり養殖施設損傷は、航路西方にのり養殖施設が設置されていた兵庫県東播磨港を出港するにあたり、針路の選定が不適切で、同施設に著しく接近する状況のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、航路西方にのり養殖施設が設置されていた兵庫県東播磨港を出港する場合、折からの風浪によりレーダーを利用してものり網や標識が見つけにくい状況であったから、同施設から十分に離れ、安全になるまで航路によって航行するなど、適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近すれば標識を見ながらのり養殖施設を避けられるものと思い、適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、航程を短縮しようと、のり養殖施設に著しく接近する状況のまま進行して乗り入れを招き、同施設に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。