(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月19日19時00分
沖縄県沖縄島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船優太丸 |
総トン数 |
5.8トン |
登録長 |
12.08メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
優太丸は、昭和53年10月に進水した一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、主機として、B社が製造したS6M2-MTK-2型機関を備え、船体中央部に操舵室を、その船首側に船員室を配置し、両室下に機関室を配し、機関室出入口が船員室の床にあった。
主機の燃料は、A重油で、機関室両舷の船首尾方向に2個ずつ配置した計4個の燃料油タンク(以下「タンク」という。)から供給されており、全タンクの燃料油取出弁は、燃料油の使用に伴い各タンクの油量が均等に減少するように開放されていた。また、各タンクには、上下に止め弁を備えたビニール製の油面計が取り付けられていた。
A受審人は、平成11年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、甲板員と2人で乗り組み、沖縄県海野漁港を基地として、7月上旬から11月下旬にかけて沖縄島近海のパヤオでまぐろ一本釣り漁を、12月上旬から翌年6月下旬にかけて沖縄島南方漁場でそでいか旗流し漁に従事していたもので、機関室内の機器類の点検や取扱いについては、甲板員に全てを任せて報告を受けるだけで、主として、優太丸の運航に携わり、燃料油の消費量について、全速力を20ノットにかけて往復航すると、1泊2日のそでいか旗流し漁だと500リットル、2泊3日のそでいか旗流し漁だと、漁場での1泊はアイドリングで過ごすので、750リットルであり、燃料消費率を考えて6ノットの低速力で運航することが多く、4個のタンクを一杯に満たすと(以下「満タン」という。)1,060リットルであったが、満タンが800リットルと思っていた。
平成14年12月10日A受審人は、海野漁港で甲板員を油面計のチェックに立てて燃料油を積み込む際、620リットルの燃料油を積み込んで満タンになったと思ったところで、甲板員が両舷船首側の油面計の止め弁を閉めていたが、A受審人自身で同弁の状態などを確認せず、また、燃料油を満タンとした後、近くの漁場で同月13日から25時間ほどのそでいか旗流し漁に従事し、燃料消費率を考えて低速力で帰港していたものの、燃料油残量の確認を行っていなかった。
ところで、A受審人は、2泊3日のそでいか旗流し漁の出港に先立ち、甲板員に発航前点検を行わせるとともに、燃料油量の確認も行わせたところ、同甲板員が両舷船首側の油面計の止め弁を閉めたのを失念していて、同油面計だけを見たものか、同甲板員から燃料油量は十分にあるとの報告を受けたことから、大丈夫だと思い、燃料油面計の止め弁の状態などをチェックをして、自ら燃料油量の確認を十分に行わなかったので、運航に必要な同油量が不足していることに気付かなかった。
こうして、優太丸は、A受審人と甲板員1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同年12月17日01時00分燃料油量が不足したまま海野漁港を発し、04時00分沖縄島南方漁場に至り、すぐに操業を開始してそでいか約60匹を獲て、同月19日18時00分同漁場での操業を終え、主機を低速で運転して帰港中、19時00分喜屋武埼灯台から真方位134度21.5海里の地点において、主機が停止した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は少し風波があった。
A受審人は、油面計の止め弁が閉まっているのを見つけ、その後燃料油量を確認したところ、燃料油がなくなっているのを認め、船舶電話などがなくて救助要請ができず、マストに帆を張って陸岸に近づけようと工夫して沖縄県久高島東側リーフ近くに錨泊していたところ、翌20日08時ごろ付近を航行中の漁船により発見され、海野漁港に曳航された。
(原因)
本件運航阻害は、操業のため出港する際、主機燃料油タンクの油量の確認が不十分で、帰港中に主機の燃料油がなくなったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、操業のため出港する場合、主機の燃料油不足とならないよう、自らその油量の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、甲板員から燃料油量は十分にあるとの報告を受けたことから、大丈夫だと思い、自らその油量の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、予定していた操業に燃料油量が不足したまま出港し、操業を終え帰港中、主機の燃料油がなくなって運航阻害を招き、曳航されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。