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平成15年神審第93号
件名

プレジャーボート第五松福丸運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年3月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、小金沢重充、平野研一)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第五松福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
自力航行不能

原因
発航時の燃料油供給管接続状態の点検不十分

主文

 本件運航阻害は、発航するにあたり、燃料油供給管の接続状態の点検が不十分で、船外機への燃料油の供給が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月3日14時40分
 京都府舞鶴港第3区恵比須埼北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート第五松福丸
全長 8.21メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 66キロワット

3 事実の経過
 第五松福丸(以下「松福丸」という。)は、一層甲板型のFRP製プレジャーボートで、後部に操舵室、同室前部に隣接した甲板上に格納庫、船尾端に船外機が設置され、昭和53年8月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が、昭和60年ごろ中古で購入し、毎年5月から10月にかけて専ら釣りを目的に使用されていた。
 船外機は、平成7年2月B社が製造し、翌3月A受審人が購入した、6H1型と称するシリンダ数3の混合油を燃料とする2サイクル機関で、セルモータによる始動、増減速、停止などの操縦を操舵室から遠隔で行えるようになっていた。
 燃料油供給系統は、格納庫内に収められた容量90リットルの燃料油タンクから導かれるガソリンと、別系統から配管された潤滑油とが所定の比率で混合される分離給油方式が採用され、手動式プライミングポンプを経て船外機に至るまでの配管に、内径6ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径11ミリのゴム管(以下「燃料油供給管」という。)を使用し、差し込むだけで装着可能なワンタッチ式管継手(以下「管継手」という。)で船外機に接続されており、同継手の接続位置が同タンクよりも上位にあるので、運転中、燃料油供給管内の圧力がわずかに負圧の状態となっていた。
 管継手は、それぞれ逆止め弁及びガスケットなどが内蔵された、燃料油供給管付属の送油側金具と船外機に取り付けられた受油側金具との一対からなり、送油側金具をロックコネクタと称する金具を持ち上げた状態で受油側金具に挿入すると、双方の逆止め弁が開いて導通状態となるが、さらに深く挿入し、ガスケットが機能する所定の接続位置に達すると、油密及び気密を保持することができるとともに、同コネクタが受油側金具に取り付けられたピンの溝に嵌って(はまって)同位置を保持できる脱落防止機能を有し、同機能が有効でない状態では、送油側金具が抜ける方向に移動し、運転中、空気を吸引するばかりか、更に大きく移動すると、逆止め弁が閉鎖して船外機に燃料油が供給されなくなるおそれがあった。
 ところで、A受審人は、日頃から帰港して船外機を停止するとき、管継手のロックコネクタを操作して脱落防止機能を解除し、燃料油供給管を船外機から取り外したのち、船外機が自然に停止するのを待って運転スイッチを切るようにしていたので、発航の都度、同管を接続する操作を繰り返し行っていた。
 平成15年5月3日A受審人は、発航するにあたって管継手の受油側金具に送油側金具を挿入したが、ロックコネクタが固着気味になっていることを承知していたものの、送油側金具を強く差し込んでいるので抜け出ることはないものと思い、燃料油供給管を揺り動かしてみるなどして、脱落防止機能が有効な状態となっていることについて十分に点検を行わなかったので、同コネクタが前記ピンの溝に嵌っておらず、同金具が抜ける方向に移動するおそれのある状態であることに気付かないまま、船外機を始動した。
 07時00分A受審人は、松福丸に単独で乗り組み、同人の妻及び友人1人を同乗させ、舞鶴港第2区の係留地を発し、08時00分ごろ京都府博奕岬(ばくちみさき)東方沖合に至って船外機を停止して釣りを開始したのち、13時00分ごろ船外機を始動し釣場を移動する目的で航行中、送油側金具が振動により抜ける方向に移動したことから、管継手の気密が保持されない状態となったが、同継手から微量の空気を吸引しながらも運転を続けた。
 こうして、松福丸は、13時30分舞鶴港内の戸島北東方沖合に至り、釣りを行うため船外機を停止して錨泊中、燃料油供給管内に残留していた負圧により、同管内に空気が浸入した状態となり、加えて、甲板上を移動した同乗者が管継手付近に強く接触したかして、同継手の送油側金具が大きく移動し、その接続部が遊離したことにより、内蔵された逆止め弁が閉止し、同管内に滞留した空気の排出及び燃料油の通油が不能な事態となった。
 そして、風浪などの影響を受けて南東方に流されたので、A受審人は、釣場を移動することとし、再び船外機の始動操作を行ったところ、燃料油の供給が阻害されたことにより始動できず、14時40分三本松鼻灯台から真方位135度1,300メートルの地点において、航行が不能となった。
 当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 その後、A受審人は、燃料油タンクに十分な残量があることを確認し、プライミングポンプを操作しても加圧できなかったことから、燃料油系統に異常があることを認めたものの、気が動転していたこともあり、管継手に思いが及ばず、海上保安部に救助を要請した。
 松福丸は、来援した巡視艇乗組員により燃料油供給系統が点検され、管継手が所定の接続状態とされて船外機の始動が可能となり、自力航行して係留地に帰港した。 

(原因)
 本件運航阻害は、舞鶴港内の係留地を発航するにあたり、燃料油供給管の管継手送油側金具が船外機に取り付けられた受油側金具に挿入された際、同継手の接続状態の点検が不十分で、脱落防止機能が無効となった状態のまま運転されるうち、送油側金具の接続部が遊離して燃料油の供給が阻害されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、舞鶴港内の係留地を発航するにあたり、燃料油供給管の管継手送油側金具を船外機に取り付けられた受油側金具に挿入した場合、送油側金具が振動などの外力を受けるのであるから、燃料油の供給が阻害されることのないよう、同供給管を揺り動かしてみるなどして、同継手の脱落防止機能が有効な状態となっていることについて十分に点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、送油側金具を強く差し込んでいるので抜け出ることはないものと思い、同継手の脱落防止機能が有効な状態となっていることについて十分に点検を行わなかった職務上の過失により、接続が不確実な状態であることに気付かないまま運転を続けるうち、送油側金具の位置が変化してその接続部が遊離し、同継手内部に組み込まれた逆止め弁が閉止される事態を招き、船外機への燃料油の供給が阻害されて自力航行が不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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