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平成15年神審第94号
件名

プレジャーボートチャレンジャー運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年3月16日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:チャレンジャー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
自力航行不能

原因
船外機始動用蓄電池ターミナルの締付け状態の点検不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、船外機始動用蓄電池ターミナルの締付け状態の点検が不十分で、始動用電動機陰極側の導通が阻害され、船外機が始動不能となったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月16日09時30分
 福井県田井港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートチャレンジャー
登録長 3.84メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 18キロワット

3 事実の経過
 チャレンジャーは、平成13年5月18日に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が同年8月に中古で購入し、毎年6月から10月にかけて、日帰りでの釣りを目的に使用されていたFRP製プレジャーボートで、B社が製造したF25AE型と称する4サイクル2シリンダの船外機が船尾中央部に取り付けられ、船体中央部に船外機の遠隔始動及び操縦装置を備えた操縦席、その後部に容量24リットルの燃料油タンク及び船外機始動用蓄電池(以下「蓄電池」という。)各1個が配置されていた。
 船外機は、その始動回路に、始動時、不意に船体が動かないこと及び負荷を軽減するなどの目的で、操縦レバーが中立位置にないと始動できないインターロック機構を有し、操縦席横に設けられた始動スイッチを操作することにより、蓄電池から船外機内に組み込まれた始動用電動機(以下「セルモータ」という。)に給電して始動できるほか、蓄電池が過放電した場合などに備え、応急始動用ロープによる手動始動も可能なようになっていた。
 蓄電池は、電圧12ボルト容量130アンペア時で、陽極及び陰極ターミナル(以下「ターミナル」という。)にそれぞれ始動回路に至るケーブルの端子をちょうナットで締め付けて圧着するようになっていたところ、保守が行われていなかったことから、同端子がその一部に錆を生じた状態で接続されていた。
 チャレンジャーは、燃料油タンクをほぼ満杯状態とし、A受審人が船長として単独で乗り組み、友人1人を同乗させ、釣りを行う目的で、平成15年8月16日06時00分福井県音海漁港(おとみぎょこう)の係留地を発し、船外機を回転数毎分5,000で運転し、同県田井港沖合の釣場に向かった。
 06時30分A受審人は、前記釣場に至って船外機を停止し、漂泊状態で、電圧12ボルトの直流を電源とする持ち運び式魚群探知機を購入後初めて使用することとし、蓄電池から給電するため、ターミナルのちょうナットを緩め、同探知機用電源ケーブル(以下「魚探用ケーブル」という。)端子を接続したのち、工具を使用することなく、セルモータ用ケーブル端子とともに同ナットで締め付け、同探知機を作動させながら釣りを開始した。
 その後、A受審人は、チャレンジャーが折からの潮流に流され、また、釣果も芳しくなかったので、船外機を始動して付近の海域で釣場の移動と漂泊を繰り返し、その間にも、釣りをしながら魚群探知機の調整を行うため、魚探用ケーブル端子の脱着を前記要領で3度ばかり行った。そして、最後の調整を終えたとき、再びターミナルから同端子を取り外すかも知れないことから、ちょうナットを著しく緩まぬ程度に締めておけばよいものと思い、セルモータ用ケーブルを揺り動かすなどしてターミナルの締付け状態の点検を行わなかったので、陰極側同ナットの締付けが不十分で、セルモータ用ケーブル端子の接触が不良となり、同モータに給電されない状況となっていたものの、このことに気付かなかった。
 こうして、チャレンジャーは、前記状況のまま釣りを続けていたが、依然として釣果が好転しないまま帰港を予定していた時刻に近づいたので、釣りを取りやめて帰途につくこととし、A受審人が始動スイッチを入れたところ、09時30分成生港(なりゅうこう)第1防波堤灯台から真方位081度1,600メートルの地点において、セルモータが回転せず、船外機の始動が不能となった。
 当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船外機を始動するにあたっては、普段から専らセルモータによる方法をとっていて手動始動を行ったことがなく、また、その操作方法も承知していなかったので、自力での航行を断念し、救援を依頼した。
 その結果、チャレンジャーは、来援した漁船に曳航されて田井港に引き付けられたのち、陰極側ターミナルのちょうナットが緩んでいることが判明したので、その締付けが行われ、自力航行で係留地に帰着した。 

(原因)
 本件運航阻害は、漂泊中、魚群探知機の電源ケーブル端子を船外機始動用蓄電池のターミナルに、セルモータ用ケーブル端子とともにちょうナットで締め付けて接続した際、同ターミナルの締付け状態の点検が不十分で、同モータ陰極側の導通が阻害され、船外機が始動不能となったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、漂泊中、魚群探知機の調整を行う目的で、その電源ケーブル端子を船外機始動用蓄電池のターミナルに、セルモータ用ケーブル端子とともにちょうナットで締め付けて接続する場合、同電池からの電力の供給が阻害されることのないよう、同モータ用ケーブルを揺り動かすなどしてターミナルの締付け状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、再びターミナルから魚群探知機ケーブル端子を取り外すかも知れないので、同ナットを著しく緩まぬ程度に締めておけばよいものと思い、同モータ用ケーブルを揺り動かすなどしてターミナルの締付け状態の点検を行わなかった職務上の過失により、同モータ用ケーブルの陰極側端子の接触が不良となり、同モータに給電されない事態を招き、船外機の始動を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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