(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月19日22時00分
沖縄県喜屋武埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船隆生丸 |
総トン数 |
8.91トン |
登録長 |
11.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
47キロワット |
3 事実の経過
隆生丸は、昭和54年12月に進水したまぐろ一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、主機としてB社が製造した6HAB2-HT型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番まで順番号が付されていた。
主機燃料噴射弁は、シリンダヘッドに固定されたノズルスリーブ(以下「スリーブ」という。)を介してパッキンと共に各シリンダに装着されており、船舶主機取扱書には、2,500時間の運転で同噴射弁を交換するよう明記されていた。また、スリーブは銅管製で、その先端部付近に拡管加工が施され(以下「スリーブ拡管部」という。)、シリンダヘッドに強制的に圧着されており、整備マニュアルには、主機燃料噴射弁を抜き出す時など、圧着部を緩ませないように注意し、シリンダヘッド整備後は、約4キログラム毎平方センチメートルの水圧試験を行うように明記されていた。
主機の冷却清水系統は、清水容量が約50リットルで、清水冷却器を兼ねた冷却清水タンクから、冷却清水ポンプで加圧されてシリンダ内に入り、シリンダヘッドへと立ち上がって主機燃料噴射弁用スリーブを冷却したのち、排気マニホルドを経て冷却清水タンクに戻るようになっていた。また、冷却清水タンクには、1.7リットル入りのサブタンクが附属し、清水の温度が上昇してくると、膨張した分の清水が冷却清水タンクからサブタンクへと流れ込むが、主機停止後、清水が冷えると冷却清水タンクに戻るようになっていて、サブタンクの補給口にはビニール製蓋(ふた)とオーバーフローパイプが取り付けられていた。
A受審人は、平成9年11月から父親と共に隆生丸に乗船し、夏場は沖縄島周辺のパヤオでまぐろ一本釣り漁に、冬場は沖縄島東方の漁場でそでいか旗流し漁に従事し、同年12月24日に一級小型船舶操縦士の免許を取得したあとも父親と共に、同13年からは単独で乗り組み、主機の運転管理に当たっていたもので、自らインペラの取替え、潤滑油やクラッチ油等の補給及びベルト類の点検などを行っていたが、エンジン音などで主機の異常を感じると、修理工場に点検整備を依頼していた。
ところで、A受審人は、主機の年間運転時間が約2,700時間に達することを知っていたが、平成11年2月と同13年5月にエンジン音などで主機の異常を感じ、修理工場での点検整備に出した際、スリーブを6本、3本とそれぞれ取り替えさせ、その後、主機の調子が良かったことから、船舶主機取扱書に明記されていた主機燃料噴射弁の交換をしなくても大丈夫であろうと思い、修理工場にシリンダヘッドの整備を依頼しないで運転を続けていた。
こうして、隆生丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、そでいか旗流し漁の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、平成15年2月17日17時00分沖縄県金武湾港天願地区を発し、同日23時30分沖縄島東方の漁場に至り操業を開始していたところ、長期間の運転によるものか、いつしか2番シリンダスリーブ拡管部が緩み、高温高圧の燃焼ガスが冷却清水系統に侵入して冷却清水を加熱し、膨張した同清水がサブタンクへと流れ込み、同タンクのオーバーフローパイプから外部に流出する状況となり、やがて同清水が膨張・過熱して外部に噴出し始め、同月19日12時00分主機冷却清水温度上昇の警報が作動した。
操船中のA受審人が、機関室に降りて主機を点検したところ、冷却清水が著しく減少しているのを認め、修理工場と電話連絡を取り、主機が冷えるのを待って清水約20リットルを補給し、主機の回転数を下げて清水の補給を繰り返しながら漁具の回収作業を行い、19時ごろ帰途に就いたものの、その後船内保有の飲料水まで含めた清水を使い切ったことから、主機の冷却ができなくなり、同日22時00分久高島灯台から真方位095度56.3海里の地点において、主機の負荷運転を諦めて、漁業組合と海上保安庁に救助を求めた。
当時、天候は曇で風力7の北風が吹き、海上は波高4メートルの波があった。
A受審人は、電力確保のため冷却清水の減少に腐心しつつも主機の無負荷運転を続けながら救助を待っていたところ、翌20日07時00分漁業組合からの連絡で来援した僚船に発見され、曳航されてから主機を停止し、隆生丸は、同日18時00分発航地に引き付けられ、後日、主機全シリンダのスリーブを新替した。
(原因)
本件運航阻害は、主機の運転管理にあたる際、主機シリンダヘッドの整備が不十分で、主機運転中、燃料噴射弁用ノズルスリーブ拡管部が緩み、燃焼ガスが同部から冷却清水系統に侵入して冷却清水を膨張・過熱させ、同清水が外部に噴出し、繰り返し清水補給を続けたので船内保有の清水を使い切り、主機の負荷運転ができなくなったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、定期的に主機燃料噴射弁を交換させるなどして、主機シリンダヘッドの整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、主機の調子が良かったことから、定期的に主機燃料噴射弁などを交換しなくても大丈夫であろうと思い、主機シリンダヘッドの整備を十分に行わなかった職務上の過失により、主機運転中、長期間の運転によるものか、いつしか2番シリンダスリーブ拡管部が緩み、高温高圧の燃焼ガスが冷却清水系統に侵入して冷却清水を膨張・過熱させ、同清水が外部に噴出し、繰り返し清水補給を続けたので船内保有の清水を使い切ったことから、主機の負荷運転ができなくなる事態を招き、僚船に曳航されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。