(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月25日16時00分
沖縄県久米島南岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船吉丸 |
総トン数 |
0.9トン |
登録長 |
6.57メートル |
機関の種類 |
4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
26キロワット |
3 事実の経過
吉丸は、昭和60年8月に進水した一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、主機として、B社製71J-D130型と呼称するディーゼル船内外機を装備していた。
主機燃料油は、軽油で、主機船首側にステンレス製容量60リットル入り燃料油タンクを1個設け、同タンクから外径15ミリメートルのゴムホースで燃料油供給ポンプに連結され、同ポンプで吸引加圧されて油水分離器及び燃料油こし器を通って主機に至り、燃料噴射ポンプで更に加圧されて同噴射弁から燃焼室に噴射されるようになっていた。
A受審人は、昭和59年8月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したのち、新造時から本船に単独で乗り組み、主機の運転管理にあたっていたものであるが、沖縄県久米島鳥島漁港を基地として、同漁港南岸付近及びハテノ浜と呼ばれる久米島東方の浅礁で、夏場は、夜釣りに平均して週3日ほど従事しており、冬場は、素潜りたこ漁が盛んだったことから、前日の漁獲物を朝10時の競りに間に合わせるよう9時ごろ出したのち、同時30分ごろ出港して16時ごろ帰港する運航形態を天候が許す限り繰返していた。
ところで、A受審人は、本船以前に所有していたサバニ型漁船に乗船中、いつしか燃料油に混入したスラッジや燃料油タンク内に発生したカビなどによる生成物等で主機燃料油系統の配管に詰まりを生じさせ、主機を自停させたことが2ないし3回あったものの、当時は櫂(かい)を準備していたこともあり、漕いで(こいで)帰港して自ら整備などを行っていたが、本船を所有してからは主機燃料油系統の配管に詰まりを生じさせたことがなく、主機の調子も良かったことから大丈夫だと思い、定期的に同燃料油系統の点検を十分に行っていなかった。
こうして、吉丸は、A受審人が単独で乗り組み、船首0.05メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成15年1月25日09時30分鳥島漁港を発し、同日10時30分前示の漁場に到着して素潜りたこ漁を始め、ある程度漁獲したのち15時30分帰途につき、主機を全速力前進にかけて進行中、16時00分沖縄県久米島兼城港第2号灯標から真方位162度1,650メートルの地点において、燃料油中のスラッジや生成物等が主機燃料油系統の油水分離器入口ゴムホースに付着して詰まりを生じ、燃料油の供給が途絶えて主機が停止した。
当時、天候は晴で風力5の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で海上は2メートルの波があった。
A受審人は、携帯電話など通信手段を所持していなかったため、救助要請ができず、本船は兼城港方面に流され、16時30分ごろ錨を打ったのち、整備工具は持っていたものの、6時間余の素潜りで疲れていたので、通り掛かる僚船に曳航してもらうつもりで待機していたが、僚船が通り掛からず、その後、次第に時化模様になってきたので、18時30分ごろ泳いで帰宅することとして再びウエットスーツを着用して本船を離れ、22時30分ごろ鳥島漁港近くの自宅に帰り着いた。
吉丸は、捜索中の僚船に発見され、23時30分ごろ鳥島漁港に引き付けられた。
(原因)
本件運航阻害は、主機の運転管理にあたり、主機燃料油系統の点検が不十分で、燃料油中のスラッジや生成物等が同燃料油系統の油水分離器入口ゴムホースに付着して詰まり、燃料油の供給が途切れたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、以前所有していたサバニ型漁船に乗船中、燃料油中のスラッジや生成物等で主機燃料油系統の配管に詰まりを生じさせたことがあったのだから、同燃料油系統の配管を詰まらせることのないよう、定期的に同燃料油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、本船を所有してからは主機燃料油系統の配管に詰まりを生じさせたことがなく、主機の調子も良かったことから大丈夫だと思い、定期的に同燃料油系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、燃料油中のスラッジや生成物等が同燃料油系統の油水分離器入口ゴムホースに付着し、詰まりを生じさせ燃料油の供給が途絶える事態を招き、主機を自停させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。