(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月2日20時20分
沖縄県那覇港内
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船ニューあかつき |
総トン数 |
6,412トン |
全長 |
145.61メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
13,239キロワット |
3 事実の経過
(1)ニューあかつき
ニューあかつきは、平成4年4月に進水した全通二層甲板型鋼製旅客船兼自動車渡船で、同15年2月6日から鹿児島県鹿児島港と沖縄県那覇港を発着地とし、鹿児島港と那覇港間の奄美各島の諸港及び沖縄県本部港に寄港する定期航路に就航していた。
その船体構造は、上層からコンパス甲板、船橋及び乗組員室などを配した航海船橋甲板、乗組員室及び客室などを配したA甲板及びB甲板、車輌甲板のC甲板及びD甲板、並びに船倉及び機関室などを配した船倉甲板となっていた。
(2)船倉
船倉は、ビームまでの高さが6.1メートルの船倉甲板中央部に設けられ、長さ45.5メートルを有していたものの、船の幅方向(以下「船横」という。)13.0メートルの船尾側隔壁から船の長さ方向(以下「船縦」という。)28.0メートルまでは長方形、そこから船横7.2メートルの船首側隔壁までは台形状の構造になっていた。
船倉内には、船尾側隔壁に船倉はしごが、中央部右舷側にD甲板の床板を兼ねて20フィートドライコンテナなどの貨物用昇降機が、船体中心線上に約13メートルおきに船横0.4メートルの矩形型ピラーが、それぞれ設けられていた。
(3)船倉内積載貨物
船倉内に積載する貨物は、主に発航地で積み、目的地で揚げるコンテナで、2段に重ねて積むことができ、20フィートドライコンテナのほかに、12フィートドライコンテナ及び10フィートドライコンテナ、並びにコンテナの側面、または上方からの積み下ろしができるフラットコンテナなどがあり、コンテナに入れられていない雑貨物などは、ルーズ貨物と呼び、パレットに載せたまま貨物用昇降機を利用してフォークリフトで搬入していた。
20フィートドライコンテナを船尾側隔壁に沿って船横に2個並べると、船体中心線上付近に約0.8メートルの隙間ができるものの、矩形型ピラーのため甲板上を通行することは困難であった。
(4)受審人等
ア A受審人
A受審人は、平成6年3月に一級海技士(航海)の免許を取得し、同15年2月から一等航海士として甲板部安全担当者も兼ねて、時々船長としても乗り組み、同人が荷役作業を監督するとともに、出港後船体の動揺で車輌やルーズ貨物の移動を防ぐため、固縛したり固縛したものを解除したりする各作業等(以下「固縛作業等」という。)は、6人の甲板部員で手分けして行うように指示していた。
イ B指定海難関係人
B指定海難関係人は、平成3年C社に司厨員として入社し、同12年から甲板員として、同14年12月からは本船の甲板員としてC、D甲板及び船倉に積まれた貨物の固縛作業等を担当していた。
ウ C社
C社は、昭和28年12月に設立され、鹿児島−沖縄航路に2隻、阪神−沖縄航路及び東京−沖縄航路に各1隻、計4隻の同型の旅客船兼自動車渡船並びに貨物船1隻を有して海運業を営み、指定海難関係人Cは、主に労務管理を行っており、高所作業時の安全措置などについて教育及び訓練などを行っていたが、コンテナ上に積まれたルーズ貨物の固縛作業等についての安全教育を十分に行っていなかった。
(5)本件発生に至る経過
ニューあかつきは、平成15年3月1日午後から鹿児島港内で貨物の積み込みを始め、船倉左舷側壁沿いに、20フィートドライコンテナを船縦に8個並べて、8個のコンテナの船倉船尾側隔壁から3番目までのコンテナの上には、固縛作業等が必要なルーズ貨物を載せ、船倉船尾側隔壁から4ないし6番目のコンテナ上には20フィートフラットコンテナ3個を積み、船倉船尾側隔壁から7ないし8番目のコンテナ上には固縛作業等が必要なパレットに積まれたルーズ貨物を載せていて、船倉右舷側壁沿いにも同様に矩形型ピラー付近まで、20フィートドライコンテナが2段に積まれていた。
こうして、ニューあかつきは、A受審人及びB指定海難関係人ほか26人が乗り組み、旅客144人を乗せ、コンテナなどの貨物1,653.90トン、車両39台を積載し、船首5.6メートル船尾6.6メートルの喫水をもって、平成15年3月1日18時20分鹿児島港を発し、那覇港へ向かった。
これより先、A受審人は、同日午後から荷役を指示し、矩形型ピラーのあるところの左右舷に、20フィートドライコンテナを船横に並べたため、コンテナと矩形型ピラーで通行できる余裕がないうえに、甲板員がフラットコンテナの船首側にパレットに積まれたルーズ貨物の固縛作業等に赴く時に、船尾側隔壁に設けられた船倉はしごから直接コンテナ上に降り、更に上段に積まれ、甲板上約4.1メートルの高さとなったフラットコンテナの、幅約13センチメートルの矩形型ピラー側の枠を歩行するおそれがあることを知っていたが、それまで同コンテナ上から甲板員が甲板上に墜落したことがなかったことから大丈夫だと思い、甲板員に対し、荷役時にルーズ貨物の固縛作業等を行うよう指示しなかった。
B指定海難関係人は、出航後、いつものように担当するC及びD甲板を見回って車輌などの積み付け状態を確認したのち、船倉内に積まれたルーズ貨物の固縛を行うこととし、船倉はしごから20フィートドライコンテナ上に降り立った時、上段に並べて積まれた3個のフラットコンテナの船首側にパレットに積まれたルーズ貨物があることから、甲板上に墜落するおそれのあるフラットコンテナの枠を歩行する状況となっていることを知ったが、そのことをA受審人に報告することなく、同貨物の固縛作業を行った。
翌2日20時00分B指定海難関係人は、那覇港入港スタンバイの15分前になったことから、ルーズ貨物の固縛作業等を行うため船倉内の同貨物の積載場所に赴くこととしたものの、依然としてA受審人にフラットコンテナの枠を歩かなければならないことを報告しないまま、安全靴を履きヘルメットを被り、他の甲板員とともに船倉はしごから、左舷側の20フィートドライコンテナ上に直接降り立ち、同フラットコンテナ3個の船首側のパレットに積まれたルーズ貨物の固縛作業等を終え、行きと同じように同フラットコンテナ内の貨物を踏まないよう、同フラットコンテナの枠を歩行することとし、天井のビームを手で探りながら同枠を歩いて帰る途中、20時20分那覇港新港第1防波堤南灯台から真方位180度280メートルの地点で、同枠から足を踏み外して船倉の甲板上に墜落した。
当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、海面は穏やかであった。
A受審人は、入港スタンバイの船首配置時に、B指定海難関係人の墜落を知らされ、直ちに救出しようとしたものの、コンテナ、矩形型ピラー及び船尾側隔壁に囲まれた甲板上であったことから、担架による船倉外への搬出が困難で、着岸後、コンテナを移動させたのち、同指定海難関係人を救急車で病院に搬送した。
その結果、B指定海難関係人は、第3腰椎圧迫骨折、左肘・足関節捻挫で約2箇月の休養加療を要する重傷を負った。
(6)事後の措置
Cは、本件後、海陸合同安全対策会議を開き、事故防止対策などを協議し、作業責任者の安全対策に対する指示及び作業実施についての連絡の励行などを定め、自社所有の各船に周知徹底した。
(原因)
本件乗組員負傷は、旅客船の船倉内において、コンテナ上にフラットコンテナとルーズ貨物を積む際、ルーズ貨物の固縛作業等に対する安全措置が不十分で、甲板員がフラットコンテナの枠を歩行し、足を踏み外して甲板上に墜落したことによって発生したものである。
安全措置が十分でなかったのは、一等航海士が、甲板員に対し、荷役時にルーズ貨物の固縛作業等を行うよう指示しなかったことと、甲板員が、一等航海士に対し、フラットコンテナの枠を歩行する状況となっていることを知った際、そのことを報告しなかったこととによるものである。
海運業者が、乗組員に対し、コンテナ上に積まれたルーズ貨物の固縛作業等について、安全教育を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為)
A受審人は、旅客船の船倉内において、コンテナ上にフラットコンテナとルーズ貨物を積む場合、同貨物の固縛作業等を行う必要があったから、墜落のおそれのあるフラットコンテナの枠を歩行することのないよう、甲板員に対し、荷役時にルーズ貨物の固縛作業を行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで固縛作業等において、コンテナ上から甲板員が墜落したことがなかったことから大丈夫だと思い、荷役時にルーズ貨物の固縛作業等を行うよう指示しなかった職務上の過失により、甲板員がフラットコンテナの枠を歩行し、足を踏み外して甲板上に墜落する事態を招き、乗組員に第3腰椎圧迫骨折、左肘・足関節捻挫で約2箇月の休養加療を要する重傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、一等航海士に対し、フラットコンテナの枠を歩行する状況となっていることを知った際、そのことを報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
Cが、乗組員に対し、コンテナ上に積まれたルーズ貨物の固縛作業等について、安全教育を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
Cに対しては、本件後、海陸合同安全対策会議を開き、事故防止対策などを協議し、作業責任者の安全対策に対する指示及び作業実施についての連絡の励行などを定め、自社所有の各船に周知徹底したことなどに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
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