日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 行方不明事件一覧 >  事件





平成15年横審第61号
件名

漁船第一大洋丸乗組員行方不明事件

事件区分
行方不明事件
言渡年月日
平成16年3月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(稲木秀邦、阿部能正、黒田 均)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第一大洋丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第一大洋丸二等航海士兼漁ろう長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
甲板員が行方不明

原因
海中転落防止措置不十分及び作業用救命衣不着用

主文

 本件乗組員行方不明は、海中転落防止措置が十分でなかったばかりか、作業用救命衣が着用されなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月9日07時50分
 北太平洋南方諸島海域
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大洋丸
総トン数 499トン
全長 65.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第一大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、かつお一本釣り漁業に従事する船尾船橋型の鋼製漁船で、A、B両受審人ほか日本人船員17人、キリバス人船員11人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成14年11月30日12時00分(以下、時刻は日本標準時)静岡県焼津港を発し、ソロモン諸島海域の漁場に向かい、翌12月13日南緯5度東経166度の漁場に到着して操業を開始し、その後南下しながら操業を繰り返した。
 大洋丸は、かつお327トンを漁獲したところで操業を打ち切り、翌15年1月2日09時40分南緯11度東経158度の地点を発進し、焼津港に向け帰途についた。
 ところで、大洋丸の船尾甲板は、幅9.2メートル長さ6.4メートルで、周囲に高さ0.54メートルのブルワークが設置され、その外側に一本釣りを行う際の釣り台が同甲板と同じ高さで幅0.65メートル張り出していた。また、釣り台外縁に高さ1.3メートルの取外し式鋼製スタンションを約1メートルの間隔で立て、上端と中間にロープを通し、海中転落防止用の防護索を取り付けることができるようになっていた。
 同月9日早朝A受審人は、船体の水洗い作業を行うにあたり、安全担当者として、作業指揮者であるB受審人に同作業を任せることにしたが、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、ブルワークの外側に張り出した釣り台で船体の水洗い作業を行う乗組員が海中へ転落することのないよう、B受審人に対し、防護索を取り付けるなど、海中転落防止措置を十分に行うよう指示しなかったばかりか、作業用救命衣を着用させるよう指示しなかった。
 また、B受審人は、作業指揮者として、船体の水洗い作業を行うにあたり、乗組員に前示釣り台で同作業を行わせることにしたが、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、乗組員が海中へ転落することのないよう、乗組員に対し、防護索の取付けを義務付けるなど、海中転落防止措置を十分にとらせることなく、作業用救命衣を着用させないまま、船橋当直のため昇橋した。
 06時00分B受審人は、北緯20度41分東経144度26分の地点において、船橋当直に就き、針路を真方位341度に定め、機関を全速力前進にかけ、13ノットの対地速力で自動操舵によって進行し、船橋上部のアッパーブリッジで見張りを行いながら、周囲の片付けと掃除を始めた。
 甲板員Cは、06時ごろ安全帽、上下の作業服及び雨カッパ、ゴム手袋及びゴム長靴を着用し、作業用救命衣を着用しないまま、甲板員1人とともに船尾甲板の水洗い作業を始めた。
 07時ごろC甲板員は、1人で海面上高さ約3メートルの右舷船尾の釣り台で、同所に設置された曳網用(えいもうよう)のダビット付近から船尾方に移動しながら、たわしなどを使って同釣り台の水洗い作業を行っていたところ、07時50分北緯21度03分東経144度18分の地点において、原針路原速力で続航中、身体の平衡を失って、誰も気付くものがいないまま、海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、視界は良好で波高約1メートルのうねりがあり、水温は摂氏27度であった。
 08時55分A受審人は、船尾の竿箱(さおばこ)内で清掃をしていた甲板員からC甲板員が船内にいないとの報告を受け、同甲板員が海中に転落したものと判断し、直ちに反転して海中転落の推定地点に戻り捜索を開始したものの、C甲板員の姿が見えず、のち、海上保安庁の飛行機等とともに同月13日17時05分まで広範囲にわたる捜索を続けたが、C甲板員を発見することができず、行方不明となった。 

(原因)
 本件乗組員行方不明は、北太平洋の南方諸島海域を北上中、ブルワークの外側に張り出した釣り台で船体の水洗い作業に従事する際、海中転落防止措置が十分でなかったばかりか、作業用救命衣が着用されず、同作業を行っていた乗組員が、身体の平衡を失って海中に転落したことによって発生したものである。
 海中転落防止措置が十分でなかったのは、安全担当者が作業指揮者に対し、海中転落防止措置を十分に行うよう指示しなかったことと、同指揮者が釣り台で船体の水洗い作業に従事する乗組員に海中転落防止措置を十分にとらせなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北太平洋の南方諸島海域を北上中、安全担当者として、作業指揮者に船体の水洗い作業を任せる場合、乗組員がブルワークの外側に張り出した釣り台で同作業を行うと、海中へ転落するおそれがあったから、作業指揮者に対し、防護索を取り付けるなど、乗組員の海中転落防止措置を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、乗組員の海中転落防止措置を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、乗組員が身体の平衡を失って海中に転落し、作業用救命衣を着用していなかったため、行方不明となる事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北太平洋の南方諸島海域を北上中、作業指揮者として、乗組員にブルワークの外側に張り出した釣り台で船体の水洗い作業を行わせる場合、乗組員が海中へ転落するおそれがあったから、防護索の取付けを義務付けるなど、乗組員に海中転落防止措置を十分にとらせるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、乗組員に対し、海中転落防止措置を十分にとらせなかった職務上の過失により、前示の行方不明となる事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION